31話・最後に頼れるのは拳だけなんですか?
「主と競えるとは、機械とはすごいのだな」
「私もあそこまでの物は見たことないですね……解体したいです」
「……、ん?」
水晶の破片が飛び散る中、まるで重力が軽減されているかのように少女が地に舞い降りる。
そんな少女の右手にはどこから取り出したのか、それとも作り出したのか、赤い槍が握られていた。
「もう少し楽しみましょう……」
そんな言葉の直後の出来事である……
少女の足が地面に接した瞬間にその姿が掻き消え絢の目の前に再出現、その代わり絢の姿が無くなり、右手で握っていた槍は異常なほど伸び切っていた。
「……!?」
フェンリル達がその切っ先に視線を向けると同時に轟音がその耳に届き、視界の先で生まれていた煙は既に何かが飛び出てきたような形で掻き分かれていた。
それをフェンリル達の脳が認識するのと同時にその真横で打撃音が響ぎ、そのフェンリル達の視線の後方から再び轟音が響き……
「不意打ちとは、ひどいですね」
この間僅か0.2秒である、恐らく機械であろう少女はともかくとして、人間、少なくとも生命であろう絢に関しては明らかにおかしい速度である。
それはその次にするフェンリル達の対応に当然な整合性をもたらす。
「一体何が起きている!!」
「後で解説しますね、今はこちらに……」
そんなことを言っている間に、「……自動再生……該当なし……」とぎれとぎれで聞こえるかすかな音声と、絢に向かって数本のミサイルが飛んでくる。
「集中させてください」
クルリと前を向きながらその言葉をかけ、ミサイルは障壁で防ぎぐ。
「さあ、やりましょう」
壁との衝突とミサイルによって生み出された煙から一本の赤い槍が音速をはるかに超えた速度で突き出される。
仕組みは分からないが長く伸ばされた槍は絢の指によって止められ、それ以上の伸長を無駄と判断した少女が、今度はその槍を一周させ切断にかかる。
「その槍結構簡単に縮ませられるんですね……それにしても槍の扱いが成ってませんね」
槍の刃を2本の指で止めた絢は、一歩前に出ると刃から持ち手の所に指をそわしそのまま直進、摩擦によって白い煙が上がり、目の前の灰色の煙の中に入っていく。
そこに叩き込まれる回し蹴り、モーターと人間では再現し得ない関節の可動域によってつくられた遠心力は絢の体に向かっていく……
当たれば確実に絢の体を吹き飛ばす攻撃だったが
当たることは無い、いつぞやと同じようにその攻撃は絢の体をすり抜け、その代わりに周囲の煙が払われ、その光景が明らかになる。
「急に回ってどうしました?」
回し蹴りのあとすぐに背中の部分から4門砲がせり出し、即座に発射を開始する……が、取り出してから発射よりも早く、絢がその槍を掴み手首からぐるりと一回転させる。
「させませんよ」
魔法による筋力増加などはしているだろうが、絢の元のスペックから考えればその程度の増量では有りえないほど強い力で槍ごと回されその全てが壁や地面に当てさせられる。
槍を軸に回転はそのまま続き、絢の蹴りによって腕の関節を壊され、そのまま壁に向けて強く叩きつけられる。
「右腕自爆処理、自己再生開始」
その音声が聞こえた時には視界は閃光が9割を占め、薄らと見える少女の影も既に右手が修復されていた。
白い閃光と強い衝撃、何処にそんな要素があったのか、右手が爆発し大きな黒い煙を作り出した……
「目の前で爆発なんてひどいですね」
そんな言葉を発した人間は怪我をしていないどころか纏う服の一片すら汚れず笑顔でそんな事を言うその姿にはるか後方から「お前の方がひどい!!」と指摘が入る。
「……それにしても、これ伸縮自在なんですね、かなり使いやすいです」
そんなことを言いながら、槍をの伸縮させながら振り回している。
それに対して絢が奪ったはずの槍を、いつの間にか少女もその手に握っていた。
「その武器でいいのですか?」
「情報不明、演算不可、情報を収集しつつ破壊を選択」
その二つの武器には、いつぞやと同じように魔力が纏わされる。
少女の動きに合わせて槍を振るい、伸縮させ、再びその距離を縮めていく。
互いの槍の間合いがギリギリ体に障らない距離で互いの魔力の残滓が球を形成する。
絢の黒い虹と少女の銀が互いにその領域を塗りつぶして進んでいく。
……だが、その決着をつけたのは斬撃でも、刺突でもなく、絢の左手による掴みだった……
「デ……データ参照不能、データ参照値不明……全データ初期化を開始します」
絢がしたことは自分が持つ槍で少女の槍を跳ね上げ、その頭を左手でつかみ、そこから魔法で雷を気体中に十下で毛である。
それだけで、先ほどのエラーメッセージのようなものを言いだし、何の電撃対策もしていない目の前の電子機器には、流石の絢も困惑が出てきてしまった……
「そう言えばアースもないですね」
改めて観察すれば、何処かに電気を逃がすための線も、充電用の線もついていない、よくよく考えればこの機体から電力を発電している可能性すらある機械の配置であった。
一瞬の思考のあと、唐突に再起動したのか絢がつかんだままの機体の重心が変わる。
「マスター登録を開始しますか?」
「はい?」
「マスター登録を開始しますか?」
「「主が悪い」」
「あーちゃんが悪い」
「お嬢様が悪いです」
「絢様がだめです」
「こんなに簡単に壊れるとは思いませんでした」




