24話・強者とはいつの日も簡単に入れ替わるものです
「竜のめんどくささはどのくらいなんですか?」
「そうだな……今まで生きてきた中で、上から3つには確実に入るだろうな……」
「いやいや、一番上!!」
「……焦土にしたら楽なのでは?」
「……よくそんなことを思いつくな」
「うんうん……」
今までと同じように扉を開けると……
「何も、無い……のか?」
「早く行こ!!」
「そ、そうだな……」
確かに何もない、フェンリルの時の様な転移の魔方陣も無ければ、ルビーの時の様に何か台座があるわけでもない、その違和感をフェンリルは感じとっていた。
(フェンリル、貴方の勘は正解です、今の貴方達では、ここから先は苦戦しますよ)
フェンリルが二人を乗せて一歩を踏み出すと部屋全体が光り輝き、何か質量の大きい物が地面と衝突する音が響く。
その場所に炎が突き進むが、予めそこに炎が来ることが分かっていたかのように、絢によって障壁が展開されていた。
「『火力』と言う意味ではフェンリルよりも遥かに下ですが、使い方はその逆ですね」
更に炎だけでは止まらず、その障壁に向けて数本の雷が投擲される。轟音を轟かせながら突き進むその雷は、初めて絢の障壁に罅を入れたものになった。
「やはり障壁は『突き破る』物には相性が悪いですね」
絢が魔法の考察をしている最中にフェンリルたちは違うことを考えていた。
「ひ……罅が……」
「あーちゃんの障壁に罅が……」
「私にもその時その時で不可能だってありますし万能ではないんです、攻撃をされれば罅くらい入りますよ」
至極当たり前のことだが、これを言っているのが絢のせいでとても不自然なことのように思えてしまう。
「それにしても、いつ終わるんでしょうか……」
相手の姿は見えないが、その攻撃は永遠と止まらずに今も垂れ流されている。
(永遠と相手のターンと言うのもつまらないものですね)
「はい、やりましょう、二人とも、ここを出てはいけませんよ」
「……? それはどういう」
フェンリルがその言葉を口にしたときには、既に障壁内から絢の姿が消えていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(さて、一番初めはどうしましょうか……)
障壁から消えた絢がいるのは、攻撃の主の真上、重力の向きを反転させて天井にくっついていた。
(龍……ですか、あまり殺しと言うのは好きではないんですが……、いざという時は手加減できないですね……)
絢の視界に映っているのは、ボス部屋であったときのフェンリルより一回りほど小さい身長を持ち、物理的にも、魔法的にも明らかに硬そうな白い龍、竜はいつまでも効果が無いことに違和感を覚えたのか、周囲を見渡すと、上の方向に絢の姿をとらえる。
炎を吐き出すのをやめ、口に何かをためるモーションを行い、大量の魔力を口に貯める。
「水攻めと言うのは悪くない選択です」
龍の魔力の動きから水による攻撃だと推測した絢が、右手を地面と水平に掲げると、4つの魔方陣がその周りに現れ、炎を吐き出す。
炎から発される熱は絢の障壁でも防ぎきれずその熱気が中に達する。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あれは……」
フェンリルがその視界にとらえたものは、以前に自分の体を焼いた黒色の炎と同じ色をした炎の槍盛った絢の姿と、今にも魔法を発動しようとしている竜の姿。
「あれ……怖い……」
そのルビーの言葉は龍に向けてなのか、それとも絢の持つ槍に向けてなのか……、ただわかるのは、その言葉を引き金として二つの攻撃が始まったことである。
絢の予想通りで、龍の魔法は以前絢がジムラドにやったことを遥かにスケールアップさせたような津波による物量攻撃、対する絢は炎の槍の投擲、津波と炎でできているとはいえ一本の槍、威力も範囲も一目瞭然……
そんな考えは二つの攻撃の衝突によって覆された。
一つ大きな爆発音が響き渡り、熱波と圧力によって熱を持った爆風が部屋の中を包んむ、立っていたのは絢の障壁で守られているフェンリルたちと絢自身だけ、が無傷で残り龍は下半身が削れた状態で横たわっていた。
「できればこの子も欲しかったんですが……」
そう残念がる絢だったが、何故かフェンリルたちに付けられた障壁が解除されない……
「どうした……!!」
気絶しているかそれ以上だったはずの竜の体がしぼみ、絢に向けて何かが『射出』される、そのなにかは絢をすり抜けてその後ろの壁に衝突する……、だが、フェンリルが驚いたのはこれではなく「絢が障壁の展開も身体強化もしていない」と言う事実だった。
「いったい何が……」
衝突によって土煙が発生したのか、一時的に見えなかった、射出されたものの正体が徐々に形を成していく。
「やっぱり貴方欲しいです」
そこに立っていたのは先ほど龍に生えていた角を小さくした物を生やした少女が、絢に向かって何かの型の構えをとっていた。
「武術ですか? いいですよ、来てください」
そう言った絢は何も構えず自然体の様な体勢で少女の動きを待つ。その行動を侮辱と捉えたの少女は舌打ちをしながらも、一気に近寄り掌底を一発……は、当たることはなく絢の体をすり抜け、絢のデコピンが炸裂する。
「型を覚えるのはいいですが、人体はその動きがある程度制限されます、気を付けてくださいね……」
その言葉を最後に、あっけなく吹き飛ばされた少女の意識が暗闇へと落ちていった……
絢が少女を拾い上げながら指を鳴らしフェンリルたちを守っていた障壁を解くと、いつの間にかフェンリルの背の上に乗っていた。
「さあ、進んでください」
「本当にマイペースだな……」
「さぁ、次々行きますよ、こうも面白い子たちを手に入れられるなら、このつまらなさも少しは紛れそうです」
「おい!! そのいい方は酷くないか!!」
「そーだ、そーだ!!」
フェンリルとルビーによる抗議は、龍から出てきた少女が目を覚ますまで続くこととなる……
「ところで『あーちゃん』って何ですか?」
「唯ちゃんとお話してるときになんて呼んでいいか聞いたら、こう呼べって……」
「……、そうですか……」




