18話・ボスと言うには可愛いですね
それにしても、この扉どんな素材でできてるんでしょうか……
絢は先ほど見つけた金属製の扉の前に到着した。先ほどの目の前すら見えなかった時とは違い、今はその扉がはっきりと見える。
「さて、ボスとはどんなものなのでしょうか……」
そう呟きながら扉を開ける絢の目に映るのは今までと比べ物にならないほど広い空間だけ……、と言っても、今まで絢が作った脳内マップによると、その天井は明らかに迷宮の一部を貫いているはずだが、その気配は一切なく、その天井まで見ることはできなかった。
「……居ない?」
まさかボスがそこに存在しないというまさかの事態にさすがの絢も一瞬困惑したが、絢が一歩を踏み出すと「バタン!!」と大きな音を立てて勝手に扉が閉まる、それと同時に部屋の奥の方に大きな魔方陣が出現し3Dプリントのように上から徐々に出現していく。
「転移魔方陣ですか……、事前に覗いて対策を立てることができないのは面倒ですね」
その魔方陣から現れたのは────その魔方の発動が終わるよりも先に魔方陣に到達した絢は、そこに向けて素手の突きを放つ。
体が動けるギリギリの身体強化にプラスして拳に障壁をまとわせての硬質化、さらに横向きの重力魔法と加速魔法合わせ技、その威力はその後ろの壁に当たれば大きな罅を入れ、さらには陥没することだろう。
その反動に耐えるため、身体強化によって体の中を強化し攻撃の反動によって体が弾け飛ぶことを障壁を鎧のように展開して押さえつける。
転移の魔方陣から出現しかけていた魔物は、その一撃によって体が魔方陣から出される時には既に転移が完了し、転移中に体が半分になる、などと言う悲惨なことにならずに済んだが、その代わり壁に勢いよく叩きつけられる。
魔方陣から転移させられたのは入り口の扉の数十倍はある巨大な狼型の魔物、青みがかった銀の毛並みはその高貴さを表しているようで、絢の拳によって付いた傷があってもその威圧感は失われてはいなかった。
「やりすぎましたね……」
ノーガードで絢の攻撃を受けたその狼は、絢の攻撃に頭が昇っているのか全身の毛が逆立っている。しかし立ち上がるのもなんとかと言った風で4つある足全てが震えている、その視界も強く揺れている事だろう。
そんな状態でも狼の口からは気高い吠え声が響く。絢に向かって複数の不可視の刃が飛び、狼の口からは眼前を覆いつくすほど広範囲、そして鉄を蒸発させるほど高温のの炎が吐かれる、絢はその刃の数素早く指を振り魔力の刃を発生させ自分の前に障壁を展開する。
互いの刃はその中央でぶつかるが絢の刃が狼の刃を切り裂き、壁や床に大きな傷跡を残すか狼に当たる寸前で消滅する。
常人は勿論、大抵の魔術師すら耐えることのできない白色炎は障壁によって完全に受け止められてしまう
絢は目の前の狼からの攻撃を受け止めながら過去の事を思い出して呟く。
「そういえば、唯が犬を飼ってみたいと言っていましたね……」
(これ犬じゃなくて狼ですが大丈夫でしょうか……)
絢がそんなことを考えていると、狼が前足を振り上げ絢に向かって勢い良く振り下ろす。
(ここまで攻撃的ですと言葉でどうにかするのは無理そうですね、暴力は苦手なんですが……)
狼が前足を振り始めた直後、同時に絢も右手を横に振る。
「!?!?」
狼は振り下ろした前足に激しい違和感を感じ視線を落とす。
その目には振り下ろした前足が切り離された光景が映った……。
だが一度瞬きをするとどこにも傷はついていなかった……が、地面にはないはずの血が飛び散り、空間にそのにおいが充満している。何よりも自分が先ほどの光景を嘘だと思うことはできなかった。
なぜか物理的に攻撃できないと悟った狼は、再びその口から炎を吐き出す……、ただし、それは先ほどとは違い、広範囲へと拡散する物ではなく、レーザーのように範囲を狭めその温度により青く変色して絢に向かって直進していく……。
それに対する一瞬の刹那、無数にある絢の引き出しの中からどれが一番面白いか逡巡し、その結果、絢はその炎に指を向ける。その指からは黒い炎が出現し狼が放つ炎のようにレーザー状になってその炎の発生源へと向かっていく。
二つの炎は絢に近いところにぶつかるが、対消滅することはなく絢の炎が狼の炎を内側から散らし、それによって元々その光束を構成していた炎が数本の細い線にばらけ、絢の障壁よりその外側を燃やし、溶かし始める。
確かに「炎」ではあるが、同じく「魔法」でもある。触れる全て……勿論炎である互いすらも燃やし、徐々に互いの境界が中央へと……、そして狼の方へとじりじりと進んで行く。絢の炎によって抉られ、絢を避けるように周囲を焼いていた炎も、その色を黒く染め今や狼の方へと向いていた。
「もっと耐えてください!!」
初めに考えていた目の前の狼の生け捕りを忘れて、絢は炎の出力を上げ、その色は透明へと近づいて行く……
「!?!?」
狼は再び驚く。あり得ないと思っていた……、目の前に立っているのは明らかに人間で、神すら焼き尽くした自分の炎に自信を持っていた狼は自信の魔力量をもってすれば簡単に焼き尽くせると考えていた……。
事実それは間違ってはおらず、絢の魔力量は狼よりもはるかに低い、狼と絢の魔法技術が同じだったならば、もちろん絢も押し切られただろう。
ただ、一つ誤算があるとすれば、狼が知っている神よりも絢の知っている神の方が強い事、そして、絢の実力は後者の神に近い事だろう……。
狼の眼前にまで迫っても未だにその勢いが止まらない炎の境界はついに狼側の炎を全て燃やし尽くし、果てにはその頭すら燃やし、その後には塵すら残っていない……
その体が横たわり始めた直後、何もなかったかのように狼の体が元に戻り意識も元のようにそこに宿る。
今までならあり得なかった、今までならできたはずだった、そんな状況に狼は今までのように無理やり知るということができなかった……
「貴方は……何者だ?」
それは、狼が自らのプライドを傷つけることなくできるギリギリの質問だったが、それに対して絢が放つ言葉は……
「喋れたんですか?」
狼側の事情など一切考えていないものだった。
絢ちゃん話通じねぇ~




