16話・興味を止めるのはさらに大きな興味だけ
あの人本当に何なんでしょうか……、そういえばいろいろと聞き忘れてましたね。
とりあえず、あまりに唐突だったので今回は準備が間に合っていませんし、早めに済ましておかないといけないですね。
視界から白い靄が明けた時、その眼前には石のレンガで作られた建築物が一つの街を形作り、そんな街を行き交う人々の姿……ではなく、既に倒壊している石造りの神殿のような建物に、数十人程度が生活できるだろう住居、その周囲には骨になった死体が積み重なっているだけ……。
「予想は予想のままであってほしかったですね……」
そんなことをつぶやいた絢だが、直ぐに気を取り直し、次の事を始める。
(ここは暗いですが、転移される前の日光の感覚からして今は朝方ですね、唯も起きているでしょう……)
そう思った絢は、徐にどこからか真珠のついたイヤリングを取り出し耳に付ける。イヤリングがしっかりとついたことを確認した絢は今度はそのイヤリングに十分届くような声で空中に向けて話しかける。
「唯……、唯、聞こえたら頭の中で返事してください」
(あ……ま、……で……か?)
その声は直接絢の頭に届いたが、ひどいノイズの上に弱い音声のせいで全く聞き取れなかった。
その原因を障壁に遮られたせいだと判断した絢が自分のイヤリングと唯に渡したネックレスとの魔力のつながりを強化すると次第に音声が明瞭になっていく。
(ち……違うんですか?)
「ちゃんと私ですから安心してください、それよりも、周囲にはちゃんと全員いますか?」
(それは……大丈夫です!!)
ちゃんと周囲を確認してからされただろう唯の返事を聞いた絢は、またもどこからかプラスチック感のある旗を取り出し、今度はそれを地面へと突き刺す。
その旗が倒れなさそうなことを絢が確認すると、次の瞬間にはその場から姿が無くなっていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「さて……」
瞬きをするほどの時間すらなく唯達の前に絢が現れ、それに対して驚きの声を上げようとした唯の口を掌で塞ぐ。絢は人差し指を口の前へと持っていき「静かに」と小さくつぶやくと、『コクリ』とその場の全員が頷く。
「まあ色々聞きたいと思いますが、取り敢えず、私は今ここにはいない設定です」
絢からすれば2時間程前の出来事である。しかし唯達からすればまだ絢が部屋から出てから30分もたっていない、それに対して絵里から疑問が出るのは当然で……
「それはどういう……」
「その話はまた今度です、今は時間が惜しい、できる限り魔力は隠していますが、ジムラドさんのような魔力感知にたけた人には既にばれて居るでしょう」
その疑問符にかぶせるように絢は次々と言葉を並べていく……
「とりあえず、私はこの国の外で少し無理やりにでも地位を確立させます、できればそれまでは大きな騒ぎを起こさずにこの国のお世話になっていてください。
ただ……、今回のように若ものことがあれば唯のネックレスから通信してください……、魔力を込めれば私に直接つながります」
それだけ言った絢は、足早に立ち去ろうとするが唯がその袖を引握る。
「……!!」
一瞬目を見開いた絢だったが、直ぐに後ろに振り向きその両手で唯を包む。
「――大丈夫です、貴方を拾ったときもそうだったでしょう、私は絶対に死にません……、都月さん、私がいない間の事をお願いします」
「わかりました、行ってらっしゃいませ」
そう言って都月が頭を下げ絢にその挨拶を贈る……。その言葉に後押しさせるように、部屋の中に突風が巻き起こり、それが収まったころには絢の姿はそこになかった……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
唯達がいる部屋から絢が姿を消したとき、既に地面に突き刺したプラスチック感のある旗は回収され……、ているだけではなく地面にあるあらゆるものが空中に浮かんでいた
(さて、此処には何かあるはずと思ってがれき全てを上に上げてみたのはいいのですが……)
「何でしょうかこれ……」
絢の眼前にあるのは明らかに人の手によって整備された階段が現れた、その先は闇によって閉ざされ全くと言っていいほど見えない。
「本当に何なんでしょうか、この先異常に魔力が濃いんですよね……」
そこまで言って、絢は自分の言っていることがどこか違うことに気づく……
(――、これは魔力……ではない?)
一瞬そのことに対する考察で動きが止まった物の、一旦考えを辞めその階段の奥へと歩いていく……
(歩きながら考えましょう)
そうして絢の姿が闇に消えたころ、上空に持ち上げられていた廃墟や遺体が地面へと元通りに戻され、そこには何もなかったかのように、元通りの空間が広がる……
サラッと流したことが、意外と重要な要素になったりするのはよくあること。




