表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

89/92

遊ばれた!

 殴ったトモエは、建物の壁を五軒分ぶち破った先で倒れている。

 まさに人外パワー。

 聖女のバフがてんこ盛りなだけあるな。


 俺が近づくと、トモエが顔だけを起こしてこちらを見る。

 相当ダメージが入ったか、体が震えている。


「な……い、いきなり、何を……」


 それはこっちの台詞だよ!

 殴るぞ!?


「立て、小娘」

「――ひっ!」


 見下ろすと、トモエが小さな悲鳴を上げた。

 先ほどの、飢えた狼のような気配はどこへやら。

 今は完全に狩られる側の草食獣だ。


「そこまで死合いたいのなら、いいだろう――〝遊んでやる〟」


 俺の獲物を横取りした罪を、その体に刻んでやる。

 まだ立ち上がらないトモエに、全力で蹴りを入れる。

 レベルが同じだけあって、俺の攻撃に反応した。

 だが、防御も回避も間に合わない。


 当然だ。

 レベルは同じでもなァ、こちとら聖女のバフてんこ盛りなんだよ!


 蹴り上げたトモエが、蹴鞠のように跳ねて転がる。

 なんとか体勢を整えたが、遅い。

 俺はもうお前の後ろで、拳を振りかぶっている。


「飛べ」

「なっ――」


 ドッ!!

 俺の拳が空気を震わせる。


 再びトモエが地面を舐める。

 ここはリアル。

 ゲームと違って、大きなダメージを受けるとその分だけ身体能力が低下する。


 俺の全力攻撃を三度も受けたトモエに、もはやこちらの攻撃を躱す力は残されていなかった。


 そこからは、ほぼ一方的だった。


「あっ――♪」


 怒りにまかせて蹴りや拳を叩きつける。


「もっと♡」


 ベリアル戦の時よりも、不思議と熱が入って――、


「しゅごい……ハァハァ!」


 いや、冷めたわ。

 なんだこいつ……。


 体はボロボロなのに、目がらんらんとし始めてるんだが!?

 顔が耳まで赤いし、なんか膝をもじもじさせてるし……。


「も、もう、終わり?」

「……」


 物欲しそうな目でこっち見んなッ!

 違った意味で怖ぇよ!!


 ――って、そうだったな。

 思い出したわ。

 頭沸騰してた時は完全に忘れてたが、トモエって、こういう奴だったよ。


 自分が格上だとドSなのに、一度負けるとドMになるド変態。

 おまけに負けた相手(勇者だが)から、絶対に離れなくなる。

 街に置いて旅に出ることが不可能になるし、物語の流れで一度別れる場合もさらっと合流してくる。


 勇者が船でヒノワ国に拉致された時も、こいつ、海渡って合流してくるからな……。

 脳みそが筋肉で出来てて、戦いのことしか頭にない、ドM変態ストーカー。


 だからこいつと戦いたくなかったんだよ……。


「戦わない、のか?」

「ああ、もう遊びは終わりだ」

「そ、そんな……遊ばれたのだ!」


 言い方ァッ!!

 なんだろう、魔王よりもヤバイ敵に目を付けられた気がする。


 勇者が引き取ってくれないかな?

 無理か。

 あいつ、めっちゃ弱いからな……。


 トモエは弱い相手に厳しいし、即首斬られて終わりそうだ。


 俺、コイツのストーリーで泣いたことあるんだけどなぁ。

 リアルのコイツを見た今となっては、何故泣いたのかがわからない。


「あ、あの、名前を教えてほしいのだ」

「――アベル」


 咄嗟に勇者の名前言っちゃった。

 これはきっとプロデニのプレイ記憶が蘇ったせいだな、うん。

 ……てへっ☆


「聖皇国のアベルだ」

「アベル……アベルッ!」

「俺はこれから国に戻る。悪魔との戦いが待っているんだ。だから――探さないでくれ」

「ま、待つのだアベル! 吾はそなたを――」

「サラバダー!」


 即座に闇魔法を発動。

 覚えてよかった、存在消失魔法(インビジブル)

 学園で黒の書を見つけててよかったあ。


 この魔法、少しでも動くと解除されるから使いづらいんだよな。

 逃げてる時とか、戦闘中とか、一番使いたい時に使っても意味がないのが残念だ。


 俺が見えなくなった後、トモエはあたりを見回して、どこかへと走り去っていった。

 ――ってか足速ぇな!

 もう体力戻ったのか?

 化け物かよ……。


「アンタ、なんであのゴミ勇者の名前を名乗ったのよ」


 うおっ!

 びっくりしたぁ。

 いつの間に近づいて来たんだよ、聖女。


 ってか、俺のこと見えてるのか?


「魔法じゃアタシの目は誤魔化せないわよ」

「……看破の(ディテクト)か」

「ご名答。で、あの子は何者なの? たしかアンタを追ってた女の子よね。いくらアンタが弱らせてたからって、魔王軍の四天王を一刀両断なんて、尋常じゃないわよ」

「名前からしてヒノワの者だろうが、知っているのはそれくらいだ」

「ふぅん。アンタって、知らない女の子の顔を平気で殴れる人なんだ……ふぅん」


 あのぉ、ニーナさん。

 言い方に刺ありませんかね?


「さすが悪の国王だわ」

「国王と言うな」


 まだ普通に恥ずかしいわ。

 国王だって自分は認めてないしな。


「じゃあなんて呼んで欲しい?」

「知らん。国王以外なら好きに呼べ。陛下も禁止だ」

「ふぅん。じゃあ――エルくん」


 あまりの衝撃に、ガクっと膝が折れそうになった。

 支えたのは大貴族の呪縛だが、それでも顔が引きつるのを感じる。


「エルくん、ねえエルくん、エルくぅん!」

「……やめろ」

「えー、好きに呼んでいいんでしょ?」


 ニヤニヤ。

 こいつ、聖女のくせに悪い顔しやがって……。

 嫌がらせか!


 エルくんなんて呼び方、すぐに自分も恥ずかしくなってやめるだろう。


「ねえ無視しないでよぉ、エルくぅん!」


 ぐぬ……。

 くっそ、意地でも無視してやる!


「でも、あんなに強いとは驚いたわ。アンタが『後々使える』って言った意味、すこしはわかった気がするわ」

「いや、そういう意味じゃ――」


 ないが、まあ、うん、いいよそれで。

 適当に言った台詞だって言ったらまた絡まれそうだし……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ