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それなんてハロワ

 米があったッ!!


 うわっ、マジで懐かしい……。

 こっちに来てから初めて米を食べたわ。


 アドレアじゃずっとパンだったからな。

 米があるとわかっただけでも、イングラムに来た甲斐があった。


 これはヒノワから輸入してるんだろうか?


 これ、うちにも輸入出来ないかな。

 帰ったらラウラに相談してみるか。


 食事を終えた頃、青年が手元の指輪をいじりながら言う。


「河岸を変えないか? いい場所があるんだ」

「ああ、いいぞ」


 昼すぎくらいに王都に到着したため、宿に行くにはまだ少し早いと思ってたところだ。

 先に宿を取ってもいいんだけどな。

 でも、王都をよく知る人間に街のことを詳しく聞くせっかくのチャンスだ。


 出来るなら重要アイテムが眠る場所の目星は付けておきたい。


 店を出て、大通りをまっすぐ進む。

 辺りを見回すが、プロデニ時代とは違い過ぎてどこを歩いてんのかもさっぱりだ。


「どうしたんだ?」

「ああ〝悪い〟。昔王都に来たことがあるんだが、ずいぶん様変わりしているんでな」


 プロデニの中で、だけどな。


「たしかに、ここ数年で再開発が進んだからな」

「そうなのか、どおりで見覚えがないわけだ」


 滅亡状態からの逆戻りだから、見覚えが無くて当然だけどな!


「それにしても、いい街だな」

「そうだろ? 気候は穏やかだし、争いもない」

「それに飯も美味い」

「ははは、地元料理がよほど気に入ったか」

「ああ。あの料理に使われてる食材を、大量に仕入れて帰りたいくらいだ」

「それはいい。ところで、いつ頃来たことがあるんだ?」

「今から7年前くらいだな」

「へえ、そんなに前に来ていたのか。子どもの頃だろ?」

「……ま、まあな」


 7年前というか、前世というか。

 俺は昔、別世界の日本にいて、28歳の大人で、しかもこの国の滅亡後って未来をゲームで見てる……って頭の中で考えてもややこしいな。

 説明しろって言われても、わかりやすく伝えられる自信がない。


「イングラムのお上りさんの俺に、ひとつ王都を紹介してくれないか?」

「ああ、よろこんで」


 青年が、まるで自慢するかのように街の説明を始めた。

 丘の上には教会があり、その中には児童施設が併設されている。

 かなり大きな建物だから、遠くからでも見分けがつく。


 他に気になったのは、冒険者ギルドだ。

 冒険者!

 いやあ、プロデニにもあるんだなあ。


 シナリオじゃちっとも触れられなかったから、てっきりないと思ってたんだけどな。

 まあ、勇者は教会所属で、クエストだって教会からじかに発注される。

 冒険者ギルドに向かう理由は一ミリもないから、ストーリーから省いたんだろうな。


「この冒険者ギルドは、今の国王が考えたんだ」

「ほぅ!」

「経済が発展する際に、人手不足の業種と求職者のミスマッチを解消するために、職業斡旋所として立ち上げたみたいだぜ」

「お、おおう」


 それなんてハロワ!?

 まあ冷静に考えてみれば、ファンタジーの中の冒険者ギルドも、職業安定所みたいなもんだったな……。


 ああ、俺の夢がガラガラ音を立てて崩れていく。


 しばらく道をまっすぐ進んでいくと、どこか見覚えのある跳ね上げ橋が見えた。

 おっ、もしかしてあれ、滅んだ後も残ってた橋じゃないか?


 たしかこの先に、件のアイテムがあったはず。

 ……よかったあ。

 何日かけても見つからないかと思ってたけど、なんとかアイテムを発見するヒントが見つかった!


 跳ね上げ橋を通過して、奥にある巨大な建物に到着。


「こっちだ」

「お、おう」


 えっ、なに、この中に入るの?

 たしかにいい場所って言ったけどさ。

 高貴な意味でいい場所だとは思わなかったんだが!?


 でも、気になる。

 俺が求めるアイテムは、間違いなくこの先にある。

 脳内地図がうっすらと建物に重なった今、秘密の扉の場所もあと少しでわかりそうなんだよな。


 周りには、不自然なほど人の姿が見えないんだけどな。

 自由に歩き回りたいけど不可能だ。

 これ、たぶんそういうイベントだからな……。


 ――ってのも、俺の後ろ、なんか猛者の気配感じるんだよ。

 これ、もし逃げだそうとしたら退路を即座に封鎖するとか、そんな感じか?


 うん、認めよう。

 俺は何かしらのフラグを踏んだ。

 この先、なにが起るのかさっぱりわからんが、良い未来が待ってるとは微塵も思えない。


 もはや背中だけじゃなくて全身が汗まみれだ。

 しかも油っこいやつ。


 何もかも忘れて帰っちゃだめかな?

 うん、無理だよな、知ってる。

 ……はあ。


「ここだ」


 そう言って開かれた扉の向こうには、大広間があった。

 一番奥は少し高くなっていて、高級な椅子が一つ据え置かれている。

 その椅子の横には老年の男がいて、深く頭を下げていた。


「お帰りなさいませ、陛下」

「うむ」


 男の言葉に、青年が先ほどとは違う口調で頷いた。

 そのまま一番奥の椅子に座り、俺を上から見下ろした。


 ああ……やっぱり、そうか。


「ようこそ俺の国、俺の城へ。エルヴィン・ファンケルベルク」

「…………」

「どうした? 親友の俺が声をかけているんだ。何か言ったらどうだ?」

「はっ。誰が親友だって?」


 いや、薄々はそうじゃないかって思ってたよ?

 だって俺、こいつに対して、普通に謝罪の言葉が出てきたもん。


『大貴族の呪縛』があるせいで、格下の相手には謝れない。

 なのに、謝罪の言葉が出て来たって時点でもう、怪しさ満点なんだよ。

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