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お店に入れない!?

「なんでだッ! なんでどの店にも入れねぇんだよクソが!!!」


 勇者アベルは怒りにまかせて地面の石を蹴飛ばした。

 入学式を終えたあと、彼はデートと称してニーナを街に連れだした。


 じっくり時間をかけて好感度を上げ、恋人同士になってから……とは思うが、逸る気持ちが抑えられない。


 それもこれも、聖女ニーナが美しすぎるのがいけないんだ。


(良い女すぎるだろニーナ)


 早く恋人関係になりたいが、どれだけ近づいても彼女は受け入れてくれる気配が感じられない。

 肩を抱いても、顔を近づけても、唇の距離は縮まらない。

 むしろ近づけば近づくほど、離れていく気がする。


 彼女が付き添い人になると決まってからずっと悶々としているが、もう限界だ。


(デートでコース料理を食べて、酒を飲ませて酔っ払わせて、宿を借りて……ぐふふ)


 そんなプランを企てていたのだが……。


「金ならある!」

「申し訳ありません、満席でございます」

「今入ってる客をたたき出せッ!!」

「ちょ、ちょっとアベル、落ち着いて!」


 金貨袋を叩きつけようとしたところで、ニーナに取り押さえられた。

 もし彼女がいなければ、今頃店員の顔は原型を失っていたに違いない。


 次の店もダメ。その次の店もダメ……。

 高級店ばかりか、大衆食堂でさえ断られたアベルは、もう我慢ならなかった。


「なんで入れねぇんだよ!! さっきの店なんて、いっぱい席空いてたじゃねぇかよ!!」

「まあまあ、そういう日もあるよ」

「オレは勇者だぞ! オレが来ただけでも、有り難いと思えよ!!」

「あー」


 それは無理じゃない?

 なんとか微笑みを浮かべるニーナは、内心ため息を吐いた。


 こんな男を店にいれたら、とんでもない目に遭うに決まってる。

 もしアベルがなにもしなくとも、周囲からはならず者を入れた店という、屈辱的な評価を受ける。

 高級店ならば、即刻格下げだ。


 なんでアタシはこんな馬鹿のお守りをせねばならんのだ……。

 いくら教皇の命令とはいえ、少しキツイ。


「くそっ! これはきっと、エルヴィンの仕業だ!」

「なんでそこで彼の名前が出てくるのよ」

「だって、あいつは悪役貴族なんだぞ!? オレを王国から追い出すために、こうやって嫌がらせをしているんだ。そうに決まってる! ただの貴族ごときが、勇者のオレをこんな目に遭わせやがって。絶対ぶっ殺してやる!」


 結局、勇者はどこの店にも入れずに、入学祝いのお食事会はお開きとなった。

 徒労とはまさにこのことだ。


 長時間連れ回されて、さすがにお腹が減った。

 試しに勇者を弾いた店に入ると、すんなり中に通されて、ついつい笑ってしまった。


「デスヨネー」


 だって自分が店員なら、あんな危険人物店に入れたくないもん。


「せめて、もう少しまともならなぁ……」


 7年前、危険な魔法から救ってくれたあの少年のように、自らを犠牲にして他人を救おうとする、そんな心意気があれば少しは見直すのだが。


 ぱらぱらと人が座っている大広間を過ぎて、ニーナは奥の部屋に案内された。

 店のわりに、ずいぶん良い個室だ。

 表を知らなければ、高級レストランかと見まごう内装である。


 その個室には既に一人、少年が座っていた。


「む? ニーナか」

「エ――」


 エルヴィン!?

 かつて、自分の命を救った少年が唐突に現われ、ニーナはパニックに陥った。


「な……なんで、アンタがここにいるのよ?」

「ふむ……」


 それはこっちの台詞なんだが?

 突然、俺がいる個室にニーナが現われて、心臓ばっくばくだ。


『ワレ悪ヲ殲滅ス! キエェェエ!』とか言いながら、ナイフを腰だめに構えて突っ込んでこないよね?


 それとなく観察するが、特に敵対心のようなものは感じられない。


 視線を彷徨わせながら、「へぇ、こんなところでご飯食べてるんだ。いいところだね」なんて言いながら、前髪をなでつけている。

 むぅ? どこか、借りてきた猫みたいだな。


「……まず、座ったらどうだ?」

「う、うん」


 おい待て。何故俺の横に座る!?

 こういう場合、前に座るもんだろ!


「……」

「……」


 やべぇ。沈黙が重い。


 ってか誰だよニーナをここに通した奴は!


 ちなみにこの店は、俺の行きつけだ。

 基本的に夜ご飯は外で食べていて、ここが特にお気に入りの店になっている。


 ファンケルベルクの料理人?

 たくさんいるぞ。

〝ヤる〟のは違う料理だけどなッ!


 この店のなにがいいって、味が普通なところだ。

 毎日食べるなら、きらびやかな味じゃなくて、やっぱ家庭的な料理がいい。


 残念なところは、ここがファンケルベルクの傘下だってことだ。

 元々この個室は……まあ、イケナイ取引をするためのものだったんだ。

 それが気づいたら俺専用の個室に変わってた。


 誰が気を利かせたのかねぇ。

 まあ、開けた場所だといきなり襲われる可能性とかあるしな。

 俺みたいな(店からすりゃ)腫れ物を扱うには、個室の方がなにかと楽なんだろ。


 ニーナをここに招いた奴は、こいつが聖女であり俺の学友だって知ってて送り込んだはずだ。

 だが、何故そんなことをしたのかさっぱりわからん。


「……とりあえず、注文したらどうだ?」

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― 新着の感想 ―
悪徳貴族ではなく”悪役”貴族ねぇ。勇者の言動が明らかに転生者。いらねぇ他の転生者設定。 大抵駄作化すんだよそれは。
2024/11/28 16:10 退会済み
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