天啓と大馬鹿者 終案⓶ (副題:黄昏の記憶)
こんにちわ。また書置きをここに置いておきます。あ、もちろんご自由にご覧下さい。
空虚だ。空虚であった。空虚に違いなかった。
僕は夢破れ、当てのない帰路をたどっている。視界の奥では茜色の蜃気楼が揺れていた。…二人が微笑んでこちらを見ていたのだ。うつろな僕の眼はそれを真実だといって疑はなかった。それは何とも残酷なことであった。何故なら僕は僕自身の罪に遠くから見られているのだと錯覚してしまったからである。実際には二人も、僕の罪自体も、物理的に存在していない。しかし、彼らの存在が消えないうちに僕の罪が消えることはなかった。両者とも、何処まで行っても追いかけてくる。逆に手を伸ばそうとしても、青空の奥に吸い込まれていく。届くことはない。逃げることもできない。気づくと僕は立ち尽くしていた。
ふと気づいた。僕は全てを失ったんだ。もっと言うと、大切なものを失った。その他は正直もう、どうだっていいんだよ。ただ唯一、失いたくない、失ってはいけないものを、気づけば失っていたようだ。…。その大切さにようやく気が付いた。だからこそ空虚に違いなかった。そして、帰る場所もないみたいだ。だって、この『旅』の終わりが新たな生活の始まりだと思っていたから。二人は家族を失ってしまった。僕はその辛さを分かっているつもりだ。だからこそ三人で、いや、星さんを巻き込んで四人で新たな生活を始められると思っていた。奇妙な関係かもしれないが、それでも充実した楽しい生活になるに違いなかった。そうやって勝手に抱いた空想を、…僕が、僕自身でかなぐり捨ててしまった。僕が皆から離れたせいで全てが終わった。旅も、二人の命も、始まると思っていた新たな生活も。
————何やってんだよ、僕は。何だ。何がしたいんだよ。二人は大変だろうから、陰で気づかないように二人を助けようって決意したのに結局二人がいなきゃ何もできないのかよ。なぁ。お前に言ってんだよ。路地裏でうずくまってるオマエに————。
羽織ったローブがやけに重たかった。見知らぬ男女一組が目の前を横切る。僕は顔を上げた。そいつらが僕を見て笑った気がしたからだ。もしかすると、先ほどの独り言も聞かれてしまったかもしれない。しかし、彼らは僕に目もくれずやがてその角を曲がって消えてしまった。僕はその光景を目の当たりにしても震えが止まらなかった。居てもたってもいられず、その場を立ち去ろうと彼らとは逆方向に歩き出した。フードは深くかぶった。
誰も聞いていないだろうこの独り言も終わりが近づいてきたみたいだ。最後に何を言おうか。…そう、地球ももう終わる。だから別にこの世に未練があるわけじゃない。ただ、僕は罪滅ぼしがしたかった。そのために当てなく彷徨い続けている。肌はボロボロ、目は赤く染まり、両腕は到るところがえぐれてしまい、黄色や紫に変色している。この頃悪寒が止まらない。寝ているときに何かの羽音が気になりだしたんだ。僕は、今年で二十七になった。桐生さんと最後に会ったときの、彼の年齢だ。ポツリ、ポツリ、と白髪が目立ちだしたようだ。最近かなり老けたネ、と星さんに言われた。
それでは、また。