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キレた慈愛の聖女とシャルロット

本日、二話同時投稿です。

こちらは二話目。ご注意くださいませ。





「うがあぁぁぁッ、もうイヤッ! もう無理っ!」


 頭を掻きむしって叫ぶ。


 聖堂に詰めかけていた国民達がざわめいているのもわかってる。でも、もう限界。私は彼女じゃない。こんなこと十年も続けたなんて人間やめてるとしか思えない。


 神官達が慌てて駆け寄ってきた。


「聖女様?! 急にどうなさいました? 」

「急じゃないっ、ずっとずっと我慢してたの!」


 神官を振り払い壇上に戻った。そのまま仁王立ちで聖堂中を睥睨する。聖女の狂乱に騒然としていた国民達も、その異様さに静まりかえった。


「今日という今日は言わせてもらうわ」


 地を這うような自分の声。一瞬の間の後、すうっと息を吸う。そして──


「私はひとりしかいないのっ! ひとりで国民全員の面倒はみれませんッ!」


 〝れません……〟

 〝ません……〟

 〝せん……〟

 〝ん……〟


 聖堂に大音声(だいおんじょう)が木霊した。


「皆、知ってる? 聖女って、とっても窮屈でしんどいの。だから聖女を辞めたって私は全く困らないわ。でもあなた達は奇跡がないと困るでしょ? なら! 私に力を貸して。……ね?」


 睨まれて青ざめた男性が、コクコクと頷く。


「いい? 今後、私は薬や外科治療で治る人の癒しはしません。それから各聖堂に複数の神官を配置します。だから、お悩み相談は私ではなく、神官にするように!」


 突然の勝手な決定にアワアワする神官達を、半眼で見つめ放置する。民を癒す為だ。神官が断る道理はないから構わない。


「よく聞いて。これから各領地の要所要所に病院を設置するつもり。これだけ聖女のあたしをこき使ってきたのだから、誰にも反対なんかさせない。応急措置だって出来るし、私の所に来る迄に手遅れになるよりマシでしょ? 

 あとは、皆で重症や病院の手に負えない患者を運ぶ方法を考えて。私があちこち移動すれば、それだけ手遅れになる患者が増えるから」


 すかさず一人の青年が手を上げる。出で立ちからして貴族だろう。


「島国ですから、港から港へ船で運ぶのはどうですか? 聖女様がいらっしゃるこの王都は、港が大変近いです。風向きを考えれば馬車で陸路を横断するより断然早い。さらに、船なら治療を継続しつつ向かうことが出来ます」


「貴方、随分いいこと言うじゃない。でもその船はどこから? 患者が出る度に探してたんじゃ間に合わないわ」


「ですから聖女様、病院船を作りませんか? 国の商船事業が失敗したのをご存知ですよね。その船を活かすのです。大型船はともかく、中型船や小型船は売却しても大損ですから。病院船に改造して各港に配置した方が国や民の為になります」


「採用! 貴方、言い出しっぺでしょ、病院船の準備を任せるわ。統括責任者になってくれる?」

「喜んで。……あぁ、やっと……やっとあの方に報いることが出来るっ」


 貴族教育を受けたはずの青年が、感情を剥き出しにして泣き出した。


「ちょっと、ど、どうしたの?」

「申し訳ありません。やっとシャルロット様に報いることが出来ると思ったら、堪らなくて……」

「えっ? だって、彼女は偽物でしょ?」


「いいえ。あの方はずっと行く先々で、私のような若い貴族達にお声をかけてくださっていたのです。国の将来を救う為に力を貸して欲しいと。何度もお声をかけてくださったのに、私は取り合わなかった。『偉そうに。運だけで王太子と婚約した、何の奇跡も持たないただの平民が』と見下しさえしたのです……愚かでした。彼女は誰よりも国を思う聖女だったのに。

 私が国の陰りに気づいた時には遅かったのです。謝罪と面会を求める書状を送ったのですが、シャルロット様は国をお出になったと、後で知らされまして。読んでくださったかどうかすら……実は、病院船も元々はあの方の提案なのです」


 若い貴族が泣きながら切々と語るのを、聖堂にいる全員が聞いていた。


 ─完敗よ。聖女としても人としても。いいえ違う、元々勝負にすらなっていなかった。私なんかよりずっと、ジョシュアの隣にいるべき人だったのに。


「皆、聞いたわね? 私もあなた達と同じよ。彼女を偽物だと嗤ったの。あなた達も悔やむなら、彼女が考えた病院船に協力して」


 返事はなかったけれど、皆の顔から答えが聞けた。


「さぁ、統括責任者さん、泣き止んで頂戴。国の事業だったのなら、お許しがなきゃ船は使えないんでしょ? 殴り込みに行くわよ!」

「殴り込みって、まさか、お、王家にですか?」

「平気よ。私はね、陛下と王太子殿下にでっかい貸しがあるの。いざとなったら、何かあっても助けてやらないって言ってやるわ」

「大丈夫ですかね……」

「問題ないってば。彼女の案だって言えば殿下は動くわ」


 ─必ずね。失敗したけど、彼が必死に足掻いているのは、きっと……。





「たのもーッ あ、いた!殿下、船をくださいなっ」


 執務室にいた王太子が、ぽかんと口を開けた。





慈愛の聖女の恋はさらっと自己完結で終了。

本人は失恋してもスッキリさっぱり。

ただ、シャルロットに対しては罪悪感が残ってます。


自分のことで精一杯だった彼女も、漸くシャルロットの言ったことを考え始めました。



次回は、ある旅行者視点です。王太子のその後のその後。

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