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茨の道へ(王太子視点)




 


「この私が次期国王か……」


 眼下に広がる景色を眺めるテラス。思わず洩らした呟きに喜びは欠片もない。


 かつて祖父から聖女としてシャルロットを紹介され、そして彼女に別れを告げられたのもこのテラスだった。


 マイヨール商会とヴィックス商会の船が消え去って半年、遠く離れた城からも巨大だとわかる港はガラガラだ。訪れる商船は小さな船ばかりで、それすらも減りつつあるという。


「王都の港がこうなのだ。他の港は見るまでもないであろうな」


 証文を盾に資産をごっそり持っていかれたと領地から知らせを受けた貴族達は、社交期間中にも関わらず慌てふためいて領地に戻っていった。

 国王の執務室には、税金の免除を求める彼等からの嘆願書が次々に届いている。

 急に具合が悪くなることが増えた国王夫妻(両親)。父王は、最近、譲位したいと仄めかしてくるようになった。


「そう簡単に逃げられてたまるかっ」 


 『唯一の中継地』に胡座をかいていた先祖達の怠慢のツケを、未だ王ですらない自分が払わされようとしていることに、王太子は気づいたばかりだった。


「いや、お祖父様だけは気づいておられた。だからこそシャルロットをこの国の聖女とされた……」


 マイヨール商会(後ろ楯)を用意してもらったというのに。外国との商船取引を学ぶ機会──この国が生きる術を探してくれた祖父の心配りを自分は無にした。


 貴族でも奇跡をおこす聖女でもないシャルロットを自分の側においたのは、何れ訪れる中継地としての終焉の前に、国の外へ向けて力をつけさせるためだったのだ。


 ─今ならわかる。彼女こそがこの国の聖女だったと。


「たったひとりで十年、十年だぞ……」


 握りしめた紙が、彼女の孤独な戦いを突き付ける。


 シャルロットへの詫びから始まる手紙。宛て先がないからと届けられたそれは、完膚なきまでに王太子を打ちのめした。


 ─最も近くにいたのは自分だ。なのに彼女の十年をこんな手紙で知るなんて。


 『必ず船は進化します』そう言っていたシャルロット。この十年、『貴方と国の為に』と幾度も父親に会わせようとしてくれていた時、自分は何と答えたか。


 いくら思い出そうとしても思い出せない。


 ─王家が切り捨てたのではない。王家がシャルロット達に見限られたのだ……。いや、見限られたのは私か……


 最後に振り返って見た彼女の哀しげな顔が浮かぶ。


 ─お祖父様に甘え、マイヨールとシャルロットに甘え、両親の不明を知らず貴族達の甘言に乗った。その上、十年も支えてくれた二人に何という仕打ちをしたのだ私は! ──これで王太子とは嗤わせるよな、シャルロット。


 そんな自分にすがるでもなく恨み言を言うでもなく、王太子の婚約者であった者として、国を思う願いだけを口にした彼女。


 『貴方は国を守る者』と諭したシャルロットの声が、遠く海の向こうから聞こえた気がした。


 既に大陸間を走破する巨大船団が我が国を素通りしているなか、未だろくな商船を持たない自分たちが割って入ることは難しい。しかも、東西両大陸の最も大きな商会にソッポを向かれている。たとえ、大陸を訪れても相手にしてくれる商会があるとは思えない。


「それでも、私はこの国を守らねば」


 二度と会うことのない元婚約者の願いを誓いに変え、王太子は茨の道に踏み出した。


 その隣に立つ者はまだいない。




手紙の送り主&内容はいずれ。

王太子のさらにその後は、別視点でもう1話出てきます。

タイトル回収は最後の後日談で。


次回は新聖女サイドです。

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