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これは魔王を救う物語  作者: GOA
魔術学園入学編
6/9

運命とは騙すものである

はいここで主席の雨野玲音の術式発表回でーす!

集合場所が体育館と聞いて、私と飛彩君は体育館へ向かった。

体育館までの道のりは果てしなく短かった。

それでいて途轍もなく疲れるものだった。

飛彩君の研究室兼医務室の出口は学園中に繋がっていて、彼の作成した風を使った自動システムのおかげですぐに出られるのだが、何しろそれがとても疲れる。

体育館に着く頃には既にヘロヘロで、飛彩君は日頃から使っている慣れもあるからか特につらそうな様子はなかった。

「あれなんとかならないの...?」

飛彩「ああ、普通の出入口なら一応あるが、何しろ出るのが森だからね...学園の校舎まで遠すぎるんだ」

もしかしたらその方がマシだったかもしれない、そう思いながら体育館の扉を開くと、既にみんな揃っていた。

リューゲ「天音、久しぶり、元気だった?」

「元気だったら飛彩君にここまでお世話になっていないよ」

玲音「死にかけたって聞いて心配したのよ?」

「ごめんごめん」

一通り久しぶりの挨拶を終えると、ゼフュロス君が本題に切り出した。

ゼフュ「で、俺らSクラスを集めて何のようだ?リューゲ」

どうやら集めたのはリューゲ君らしい、全員が一斉にリューゲ君の方を向くと、彼は集めた理由を語りだした。

リューゲ「それでは犯人探しを始めようか...“石礫”に“雷撃”、第12席と第17席から僕達は攻撃を受けた、それはみんな知っているよね?知らないから第7席は呼ばなかったけど」

龍我「兄貴達が襲われたってやつだろ?ぶん殴ってやりたいぐらいだぜ」

拓海「それがどうかしたのか?二人は1ヶ月の謹慎処分を受けたはずだが?」

リューゲ「でもさ、ボクは不思議に思ったんだよね...ボクの情報でも、ゼフュロスの情報でも彼らはヒトに対して有効的に考えていたんだ、それっておかしくない?有効的ならなんで天音を襲ったと思う?それにボクを襲った理由は?それで聞きに行ったんだ、なんでボク達を襲ったのかって、そしたら2人とも『体が勝手に動いた』って言ったんだ」

大弥「それって操られていたってこと?」

リューゲ「イグザクトリー!だから真犯人は別にいるってわけ!」

衝撃だった、二人を操り私の命を奪いかけた真犯人がまだいるということは恐怖でしかなかった。

体が震えてきてしまう。

瑠璃「大丈夫ですか?」

瑠璃ちゃんが支えてくれた。

「ありがとう...」

リューゲ「それで彼らの交友関係や直近であった人を調べてみたらね、とっても面白い結果が出たんだよ、彼らは上級生との関わりが全くと言っていいほどなかったんだ、そもそもこの学園はあまり上級生と関わりが薄いのに更にないものだから驚いたよ」

それで、と続ける彼の赤い瞳には鬼が宿っていた。

リューゲ「後は簡単、1年で彼らよりも高い序列で尚且人を操ることができる術式を持っているやつを探せばいいだけさ、そしたら1人しかいなかったんだよね...遺言はあるかい?学年主席、雨野玲音」




玲音「...誠に遺憾ね、私が犯人呼ばわりされるのは」

雨野玲音は不満そうに語った、しかし候補が彼女しかいない以上、もう弁明の余地はないだろう。

玲音「別に彼らに上級生との交友関係がなくても、彼らよりも下の序列でも操ることは可能なんじゃないのかしら?そんな小説に出てくる探偵の真似事したところで外れるのは当たり前よ」

雨野玲音は自分が犯人じゃない可能性を指摘した、しかしこの場にもう彼女の味方はいないのだ。

飛彩「では君が犯人ではないことを私に証明できるのかい?」

玲音「犯行のあった時間、私は図書館にいたわよ?私の術式の有効範囲は100メートル、図書室からはそれ以上離れているから不可能よ、確認でもすればいいじゃない」

「じゃあその時会長サンが図書館で資料を探していたことは知っているよね、ボクは副会長から聞いたけど」

玲音「ええ、もちろんよ」

この時、ボクは確信した、目の前にいるこの女が真犯人だと。

ゼフュ「あーあ、お前死んだな、玲音」

ゼフュロスは察したが、他のみんなは何のことだかわからないようだった。

「会長も副会長も犯行時間は生徒会室で執務してたんだよね、ゼフュロスが情報売りに行ってたから確かな情報だよ...なんでウソをついたのかな?雨野玲音」

犯行時間、生徒会の二人に情報を売りに行ったゼフュロスは瑠璃に迎えられて歩いて帰っているところでボクが捕まえたというわけだ。

彼女の言うアリバイは崩れ去った、わざわざここでウソをつく、その時点で怪しすぎる。

玲音「...はあ、もう何を言っても駄目なようね...元々、何事もなく、ただトップクラスの世代で頂点に立ち続ける、そして物語を完結させる...はずだったのよリューゲ、天音、あなた達のようなイレギュラー因子が悪いのよ」

不利だと判断し、仮面を捨て去る、良い判断だね。

「大人しくしてもらおうか雨野玲音、いくら主席と言っても序列一桁を7人相手にするのは厳しいだろう?」

玲音「残念ながらあなた達は私に勝てない、私の術式“運命”はこの本に書かれた内容を具現化する、対策をしないと思っていたのかしら?」

彼女がパラパラと本を開くとボク達に見せてきた、そのページに書いてあった内容は衝撃的なものだった。

飛彩「...なるほどね、“聖奉飛彩は攻撃できない”、それをこの場にいるもの全員分か...」

大弥「そんなのどうしろっていうのさ!」

彼女の本に書かれた内容、それはボク達は攻撃できないというもの。

ヒュッと顔の横を小さな刃物が飛んでいき、彼女に命中する直前で見えない壁に弾かれた。

ゼフュ「どうやら本当みてえだな...」

玲音「大人しくしてもらおうか、だったかしら?逆なんじゃないかしら?」

彼女を攻撃するのは不可能、突破する手は今の自分にはない。

彼女の勝ちはここで確定した。

「...とでも思った?」

ボクは剣を取り出し、彼女の方へとゆっくりと、少しずつ歩いていく。

みんな意味のない、無駄な行為だと思っていることだろう。

玲音「...“運命”、“ストーリーテラー”」

ピタッと途中で歩むのをやめ、彼女の方を見る。

玲音「リューゲ、あなたは動けない、もう何も出来ないわ」

堂々と宣言したところで、ボクは思わず笑ってしまった。

「ハハハ!本当にそうかなぁ?」

その場で跳ねようとする、体は普通に言うことを聞いて少しだけ跳んだ。

玲音「なんで!?なんで動けるのよ!?」

「それ、本当にボクの名前で書いたのかな?確認してご覧よ」

書いたページを必死に見返すが、そこにはしっかりと“リューゲ”と書かれていることだろう。

玲音「ちゃんと書いたわよ!?魔力もまだある、なんでよ!?」

「簡単な話さ、真っ黒なお嬢さん...」

わざわざ猛獣のいる檻になんの対策もなしに入る馬鹿などいない、それと同じことだ。

目の前の怪物と対立することを想定しないわけがない、攻略法は途轍もなく簡単な話だ、聞けば腹を抱えて笑うような簡単すぎる話。

「“Lüge(リューゲ)”ドイツ語でウソって意味の単語、ここまでヒント出してバレないとは思わなかったよ」

名前が違えば効かない、なら名前をバレないようにすればいいだけの話だ。

目の前まで行き、剣を振りかざすと金属製のペンをうまく使って弾いてきた。

「“重化”」

剣を重くし、更に力を込めるとペンはいともたやすく折れた。

首に剣を突きつけ、一旦下ろすと彼女は安堵した、命までは取られないと思っているのだろう。

玲音「...私の負けよ...悪かったわ、生徒会に突き出すなりなんでもしなさい...」

「...何いってんのお前、まさかそんな程度で許されるとでも?」

とびっきりの冷たさを声に込めて発する。

「ボクだけならまだしも、キミは天音の命を狙った、その時点でキミは産業廃棄物なんだよ、さて遺言はあるかな?」

玲音だけでなく、他の全員も怯えて動けなくなっている。

玲音「...なんで...なんで命まで...」

「...君達にはわからないだろうね、キミはボクの逆鱗に触れた、彼女に似た天音を殺そうとした、それだけで理由は十分なのさ、じゃあ...精々デカい悲鳴上げてくれよ?」

剣を再び振り上げ、高速で振り下ろす、こいつに生きる価値はない、彼女に危険を晒す者は消えるべきだから。

天音「やめて」

凛とした声が響いた。

振り下ろす剣を首すれすれで止める。

振り返ると日頃とは大違いの真剣な眼差しをした天音がいた。

天音「リューゲくん、私はそんなこと望んでないよ、贖罪のつもりかもしれないけど、それはなんにもならないよ」

こちらに歩み寄って、ボクの頭を優しく撫でる。

温かく、優しい手が心地よい。

天音「この子はここに来た時点で何かある事自体は覚悟していた、リューゲくんは今回この子を結果的に守り抜いた、ならそれでいいんじゃないかな」

天音にひとりの少女の影が重なる、ずっと前から知っているその姿は、その声は、泣きたくなるほど見たくて、聞きたいものだった。

天音「それでも何か償いたいって言うんだったらさ...」

撫でるのをやめて、手をこちらに差し伸べる。

あの日あの時ボクに差し伸べたときと全く同じ動作で。

天音「リューゲくんが守ってよ、私のこと...いや、私とこの子のこと」

ああ、一緒だ。

思わず涙がこぼれてしまう、キミがなんでそこにいるのかは知らないけど、それだと涙が溢れて止まらなくなってしまうじゃないか。

ボクの返事はとうの昔から決まっていた。

剣を納め、彼女の手を取り、その可愛らしい手の甲に優しく口づけをする。

「もちろんだよ...今度こそ、必ずキミ達をこの手で守り抜いてみせるよ...!」

その誓いはあの日あの場所で誓ったものと酷似していた。

守ることの出来なかった誓い、今度こそ必ず守って見せる。




リューゲ君が剣を振り下ろしたときから意識がなかった。

気がつくと私はリューゲ君の目の前に立ち、彼に手の甲にキスされている状態だった。

「え...ええええええ!?」

思わず手を振り払ってしまった。

「なんでキスしてるの!?」

瑠璃「あら、天音ちゃんからしてもらってましたよ?」

気を失っている間になにしてるんだ私は。

ゼフュ「ま、気になる話が出たからおいおい聞き出すとして...夜城天音、雨野玲音をどうする?」

玲音ちゃんは完全に怯えていた。

それでいてもう覚悟は決まっている様子だった。

別にこんなことになるのは覚悟していたからやっぱりかとしか思わない。

でもただで許すわけにはいかないのも事実だ。

「...あ、そうだ」

私は彼女の言っていた言葉を思い出した。

自分の物語にイレギュラー因子である私達が出てきてしまったから排除したかった、でも思いもよらない人物が出るからこそ物語は面白いものだ。

「玲音ちゃん?」

玲音「...なにかしら...?」

「私とお友達になってよ」

「「「「「「「は?(え?)」」」」」」」

私とリューゲ君以外の驚く声が重なった。

龍我「おいおいおい姐さん何言ってんだ!?こいつは姐さんを殺そうとしたんだぞ!?」

「うん、知ってる」

彼女は私を殺そうとした、でももう殺されそうになっても守ってくれる騎士が私にはいる。

「それと一つお願いがあるんだ、簡単なお願いだよ」

玲音「なんでも聞くわ...」

「あるヒトの生活を書いてほしいんだけどさ、頼めるかな?」

玲音ちゃんはびっくりしている。

まさか殺そうとした張本人から楽なことを頼まれるとは思わなかっただろう。

玲音「...そんなことでいいの?」

「もちろん、内容はね...魔術師の学園に入学したヒトのお話だよ、理由もわからず魔眼を持ってて、白髪のこの子と出会わなければ始まることはなかった物語」

あの時、私が事故に遭いそうにならなければ始まらなかった物語、偶然が運んだ出会いによって始まった物語。

「そのヒトはね、巻き込まれて大変なんだよね、でも決して後悔はしてないんだよ、なんでだと思う?」

玲音「わからないわ、なぜかしら?」

「リューゲ君に龍我君、他にもみんなと出会えたから、玲音ちゃんに出会えたから、これからの毎日が楽しみだからだよ」

そのこれから楽しみな毎日に、目の前の彼女は必要なんだ。

「だからあなたに書いてほしいお話にはあなたが必要不可欠なんだ、だから今度こそ私と友達になってくれないかな、玲音?」

ゆっくりと手を差し伸べる、玲音は手を取ろうとするが本当にとっていいのか戸惑っている。

玲音「本当にいいの?自分を殺そうとした奴に手を差し伸べるなんて正気じゃないわよ」

「知ってる」

中途半端に出た手を掴み、玲音ごと引っ張り上げる。

華奢な身体を抱きしめ、温かく迎え入れる。

彼女は声を上げて涙を流した。

玲音「ばかよ...あなたは大馬鹿者よ...なんで許しちゃうのよ...ばかぁ...ばかぁ...」

「うん、知ってるよ」

瑠璃「本当に、天音ちゃんはおばかさんですね...」

「ばかでごめんね」

龍我「姐さん、あんた本当にバカだけど、今まで会った人間で一番尊敬できるやつだよ」

「ありがとね龍我君」

飛彩「...さて、本人がこう言っているんだ、私としては何でも構わないのだが、君達はどうだい?」

瑠璃「私も構いません!」

ゼフュ「姫がいいなら俺も別にってかんじだな」

大弥「僕も全然いいよー!」

龍我「姐さんが言ってるもんな、文句ねえよ!」

拓海「...玲音さん」

1人だけ重々しく口を開いたのはずっと黙っていた拓海君だった。

拓海「あなたは大馬鹿者だ、でも弟のように救いようのある大馬鹿者だ...だから早く戻ってこい」

玲音は泣きながらも頷いて答えた。

リューゲ「キミがそう言ってるならボクは何もしないよ、女の子を傷つけるのは趣味じゃないしね」

「いやあなた思いっきり殺そうとしてたじゃない」

どうやらこの一件はもう解決したし、不問になりそうだった。

私達はこの時気づかなかった、一匹のコウモリがこちらを見て、どこかへ飛び去っていくのに。




?「ほう...圧倒的なカリスマ性を兼ね備えているようじゃないか...余の花嫁に相応しいではないか...」





読んでいただきありがとうございます!


よろしければいいねやブックマーク、レビューをよろしくおねがいします!


それではまた次回お会いしましょう!

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