第六話「束少女の憂鬱」
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→1.…路補さんが心配だ。屋上に行ってみよう。
2.今日はもう寝よう。
――――――――――――――――――――――――――――
さぁ、後は寮に戻るだけだ。
金田君はすでに会長に報告に向かった。
寮長が待っている!急ごう!
→1.(校舎裏に走り出す)
――待った!
待ちなさい氷室君、それはダメだ!!
路補くんがどんな思いで君を逃がしたと思ってる…!?
→1.路補さん!!
――直後。
「逃げるなよ、氷室優。
そこから一歩でも後退したら殺す。
冥途の土産に話したいんならそこで聞け」
身も心も凍りつくほど冷徹な声が、
ガラスのようになった体中に響き渡る。
「…なんという…ことだ…
そうか…君ならば…そうするはず、だった、な」
振り向くと、そこにいたのは。
何処か会ったことがあるようで、
全く初対面の"誰か"…黒外套の者だった。
手には…"ぼろきれのようになった何か"を持ち、
その場で立ちながら君のことを嘲笑った。
「これはこれは!!!そう来ると思ったよ!!
ほんっとうに御しやすくて助かるぜ!!!
放送室も丁度交代で誤魔化しが効くってもんさ!」
"犯人"は入念に計画する者だ。
計画の成功から来る笑いが止まらない。
→1.お前は誰だ!!
君の返答を聞くと、呆れた様子で。
「あ?コイツマジか、"犯人"のことも知らねーのか。
ま!隠蔽したんだから、当たり前かァ!!」
→1.なにが目的でこんなことをするんだ!?
目的。至極真っ当な理由。
氷室君はそれを知りたくて仕方がない。
何故なら、相手との対話をまだ諦めていないからだ。
"同じ人間ならきっと分かり合えるだろう"という、淡い希望。
しかし。前提が間違っていた。
目の前の黒い影は、お世辞にも同じ人間とは言えなかった。
「はっ。はは。ははははははははははは!!!
人が人を傷つけるのに理由なんぞ要るかよ!!
要は戦争と同じだよ。楽しくてやってんだよ!」
どちらかというと、
その淡い希望を"踏みにじる方の"人物だったからだ。
…うげー。テンプレの悪役かよ。
少しも捻れないの、無能丸出しじゃない?
→1.ふ…ふざけるな!!何が楽しいんだ!!
君の返答に対して、"犯人"は怒るでも笑うでもなく、
ただ試験の2点問題を解くように、平然と返した。
「あー?コイツはあんまり楽しくなかったかな。
制服が欲しかったのに、自爆させやがって。
お前らを引き付ける為に体中の皮膚を削いでも、
叫び声一つ上げねえの。気色悪いったらありゃしない」
路補の体は実際に、生かさず殺さずの状態にされている。
体中の皮膚が剝がされている描写は、克明に記さないでおく。
→1.お前は…誰なんだ!!
「答える質問は一つまでだ、気色悪い。
それに…お前も殺したかったんだよ。
わざわざ近づいてくれたお陰で、
0.1秒くらい事が早く済みそうだ!!」
はー。痺れを切らすのが早いね。
短絡思考、刹那主義。きったねぇー。
→1.…!!
そう言い捨てると黒外套の者は、
君に一瞬で接近し、凶器を振り下ろして…
「シャァッ!!」
「砕け散れ。
"円方摂理"」
「なっ!?」
直前、頭上から飛来した謎の物体によって、
君たちは一瞬で状況を作り変えられた。
→1.(吹っ飛ぶ)
衝撃で吹っ飛ばされる。
今の一撃で、校舎裏の地面は蜘蛛の巣状に罅割れた。
周囲20mの木々はなぎ倒され、
氷室君も路補君も、遠くに吹っ飛んでいく。
当然、この衝撃範囲で証拠が残るべくもない。
この衝撃を躱し得た者は、それこそ。
→1.…"犯人"は、どこへ…!!?
「…逃げた、か。
貧弱、惰弱、卑劣で慧眼。
厄介極まるというものだ」
路補は最後の力を振り絞って、口を開く。
「ま…円…」
円 歩。
武道部長にして、"円"の使い手。
君を助けた人物の名前だ。
円方摂理については、
作者の過去作"Trigger;UNHappy~特化の無い殺し屋~"を見ると、
理解が深まるかもしれないよ!(ダイマ)
「路補。貴様は喋るな。傷に障る。
発信機で位置を教え、犯人が油断したところを
一撃で砕けるように俺に狙わせたな。何が"もう終わり"だ。
貴様は痩せた狐か思ったが、その実は狸だったらしい」
→1.路補さん…!体が…!!
最早その傷だらけのモノを見ても、
路補の姿を重ね得る者は誰もいない。
だが。そんな姿になっても。
「屋上…北西パネル…だ…
あとは…任せたぞ、
氷室、君。」
彼は、ただでさえ優秀な自分の身を省みずに、
君という一縷の可能性に賭けたのだ。
→1.…ありがとうございます…どうか、死なないで…!
2.(どうして、俺に…)
そう言って、路補は気絶した。
これ以上起き上がるべくもないことは、
誰の眼にも明らかだった。
気絶した路補を抱え、円が口を開いた。
「貴様。氷室、とやらだな。
言っておくが、気に病むな。
貴様のせいで路補が不随になった訳ではないし、
貴様のせいで俺が犯人を取り逃がした訳でもない」
→1.はい…わかって、ます…
君の反応を受け、円は顔をしかめた。
「ふん。分かっていても、そうするのだろう?
なれば、俺が言ったことは忘れるな。
貴様の出来ない事は、貴様がすべきことではない」
"出来ない事は諦めて、やろうとするな"
合理的なアドバイスなのは、確かだった。
だが、この助言の本質はそこではない。
→1.(じゃあ…俺に、出来ることなら。)
「では、俺は路補を保健室に連れていく。
今ならば死なずに済むやもしれん。然らば」
→1.…犯人、か…。
2.…屋上…北西の。
君はまた走り出す。
君が出来ることは、君が思うよりずっと多い。
ただ、今に限れば。君のすべきことはただ一つだ。
――――――――――――――――――――――――――――
"新規脱落者"
『技術部長』路補 創介
――残り 8 名の生徒が生存中。
路補君、保健室へようこそ。
ここは脱落者、部外者の部屋。
もう二度と本筋に関われなくなった者たちの憩いの場。
まあゆっくりしていってくれたまえ。
それしかできないからね、いいだろ?
――――――――――――――――――――――――――――
→1.会長、失礼します!!
君は生徒玄関を抜けて、
すぐに中央階段を駆け上がり、会長室のドアをノックする。
会長室の中は暗く、誰かがいる気配はない。
中の様子がどうであれ、君は扉を開けられない。
そりゃもちろん、鍵が無いからね。
でもご心配なく!保健室はこのためにあるのさ!
氷室君、保健室に生徒会室の合鍵があるから…
→1.よし、ジェットパックを扉の前に…
2.第二ボタン点火!
随分無理矢理開けたね!?
…氷室君は生徒会室の扉を吹っ飛ばした。
すぐさま部屋の照明を付け、辺りを見回す。
爆発音に驚いたのか、黒い布を被って仮眠していた
束会長が大粒の汗をかいて飛び起きていた。
黒髪は四方八方に広がっており、宇宙人の触手のようであった。
「何事ですか!?」
→1.路補くんが…!!
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日の落ちた校舎に、警鐘が鳴り響く。
否応なしに人間の精神に逆剥ける音程が、放送室に響いた。
『放送室より緊急警報!放送室より緊急警報!
学園全域に通達!至急会長室まで来るように!
繰り返す!総員、至急会長室まで!!』
「…取り敢えず、これで全員を招集し事情を聴取します。
よく報告に来てくれました。感謝します」
→1.順次招集なんですね。
「ええ。大人数が相手では会話ができ…
違います。会話が混線するので、一人ずつ話を聞きましょう」
1.早く事態を解決して、
→2.これ以上被害者が出ないようにしないと!
少し逸る君を見て、会長は部屋の奥の湯沸かし器を取った。
「焦っても仕方ありません。
皆が集まるまで、コーヒーでも飲みましょう。
リラックス効果もそうですが、今日は徹夜しますので」
→1.…それもそうですね。
2.じゃあ、皆が来るまで…
無人の壁面、会長の背後に。
「その通り。決意は鋭さを生むが、
度が過ぎると焦燥となり、杜撰さを生む。
適度な休息こそ鍛錬の礎だ」
会長はティーポットを落とし、お湯が零れた。
「フンッ!!」
すると、円は落ちたティーポットを空中でつかみ取ると
周囲に飛び散っているお湯をすべてポットの中に戻した。
「突然失礼した、報告を早急に済ませたくてな」
会長はまだ驚いて地面に倒れこんでいる。
会長の冷汗は止まる気配がない。
「音もなく忍び寄らないでください、心臓に悪いので!」
円は冷徹に告げる。
「路補は保健室に安置してきた。
それでは失礼する」
――安置助かる。
意識恢復まで容易だった。
早速だが読者諸君に犯人を伝…
――こら!!安静にしてなさい!!
あーー!!何書いてやがる!ふざけんなバカ!!
どうやって地の文に介入したんだい!?マジで二度としないで!!
…ゴホン。
そう言って円は会長室から足早に去っていく。
→1.ちょ、ちょっと待ってください!
会長も食って掛かるように引き留める。
「待ってください、犯人の情報を…!」
――睥睨。
数多の肉食獣に狙いを定められるよりも、
それは、鋭く命を脅かした。
「…ッ!!!」
睨み付けられた。
この場の全員が、身動き一つできなくなる。
悲鳴を上げることも、逃げることも、
謝意を伝えて平伏することも能わない状況の中で、
口を開くのは円だけだった。
「悪いが俺は誰も信用していない。
俺が信じるのは己の拳のみ」
「無論…
会長。貴様も例外ではない。さらば」
金縛りのようなものが解けた。
彼女が去るまで、君たちは呼吸一つしていなかったことが
彼らの荒い息遣いが仄めかしていた。
「はぁ…はぁ…
っけ、結局…新しい情報は、得られませんでした、ね」
すると、疾風のような素早さで
生徒会室に三会が飛び込んでくる。
「一応警報は出してきたよ!
会長…一体何があったんだ!?」
→1.三会さん!路補さんが!!!
君が事態を伝えると、
三会は大粒の汗をかいて驚いた。
「そんな…!!」
「校舎裏にカメラはありましたか?
貴方の情報が一番必要です。
10分前に誰がどこにいたか克明にお願いします!!」
会長は焦燥が抜けきっていない。
突然起こされて、仲間が脱落したことを知り、
事情を究明しようとして筋肉の化け物に睨みつけられたのだ。
焦るのも当然と言えば当然だが、
その背景を知らない三会は当惑するのみだ。
「わわわ、急かさないで!!
あの時は丁度監視交代の時で…」
→1."監視交代"?
2.(そういえば、誰かが言ってたような…)
――――――――――――――――――――――――――
一瞬。
彼の意識は停止した。
見てはいけないものを見た時。
理解しようがないものを見た時。
人間の脳髄は停止する。
理解を拒んだのは、
ただ空気がそうさせたから。
寒風吹きすさぶ中凍り付いた眼球のように。
その何かから、目を離せなかった。
もっと根本的な理由があったのかもしれない。
普段目をそらしているものを凝視させられる感覚。
豊かな家庭に住むものが、
自分より底に存在する全ての命の苦しみ。
この世の地獄を見るような感覚。
ちっぽけな青いビー玉に住んでいる命が、
自分より無辺に存在する宇宙を見上げた感覚。
そんなファジーが体を駆け抜けた気がした。
――――――――――――――――――――――――――
「それは、私から説明しマス。
それでもオーケーですカ?」
しかし、そんな感傷はすぐに霧散する。
なぜなら、この声の主は少女だったからだ。
銀色の髪を丁寧に編み、
空より青い眼をした少女だったからだ。
「氷室君。彼女が、レイヤ・アルベドちゃん。
アタシの友達で、大事な人」
→1.…っ、は、初めまして!
「ええ、初めまして。貴方が氷室君?
とてもいい名前。とってもね。
あまり会わないかもしれないけど、ヨロシクね」
非現実じみた、透き通る声がする。
君の意識を引きずり降ろしたのは、束の声。
「なるほど…そういえば10分前は丁度、交代の時間ですね。
しかも、氷室君の話によると"犯人"がそれを知っていたのは明白。
…これは間違いないですね」
ここに、一つの事態が確定する。
→1.…路補さんを傷つけた、犯人は。
「犯人は、内部を極めてよく知っている人物…
"凍結学園"内部の人間に、間違いない」
三会は、未だこの結論を信じられずにいる。
"幼馴染"の君も同じだった。
「…本当に、ボク達の誰かから…そんな悪人が出るなんて」
「監視交代の時間を知ってイル人は、
私たちの他に誰がいマスカ…?」
束はあくまで冷徹に判断を下す。
それが彼女に求められたことだからだ。
「氷室君は知らない筈です。
ですが、それ以外の人物…
"校内で寮から一度たりとも出た事のない人物"以外は…」
三会は机を叩く。
「…そんな人、誰もいないじゃないか!調べる手段なんて、
放送室の明かりが消える時間を見ればすぐわかる!」
アルベドは不安そうに口を開いた。
「そもそも、ナゼここに私たちを呼んだのでショウカ?
やはり…会長は私たちのことを、疑っているのデスか…?」
「ひどい!!ボクたちが犯人ってこと!?」
会長室に漂う雰囲気は最悪だ。
→1.(状況がマズい…)
2.(会長の口下手はこういう風に作用するのか…!)
会長は毅然とした態度で返す。
「あくまで可能性の話です!
何もそう決めつけているわけでは!」
売り言葉に買い言葉、二人組も食って掛かる。
「それ、決めつける人のじょ…ジョーカー…じゃない…
ジョーク…ジ…ジョージョ…!!」
「"常套句"、デスネ」
「そーだった!!ありがとーアルベド!!
とにかく!私たちとしては、会長のほうが怪しいよ!!
会長、"会長室のカメラ設置を許さなかった"じゃないか!!」
「うっ…そ、それは…!!」
「この時の為に、バレないようにしたとしか見えマセン。
"デビルで"、可能性の話デスが」
「"あくまで"はそっちの"あくま"じゃないよ、アルベド」
「oh…ソーリーでス。それではコレで失礼しマス」
会長は二人の去り際を呼び止め、
解決策となる指示を提案した。
「…今後は、どちらか片方に交代の時間を書いた紙を毎日渡します。
交代の時間を狙われないようにするためです、極力ですが」
二人は納得した様子で部室に戻っていく。
「…了解したよ。それじゃあ、監視に戻るね。
お互い仲良くしようね、会長」
再び部屋に静寂が戻った。
→1.(かなり危なかった…)
会長は力なく独りごちる。
張った肩は垂れ下がり、そこに威厳や毅然さはない。
その背中には、重圧がかかっているのが目に取れた。
「…。一番証拠を持ってそうな人たちと話しても
成果なし、ですか。仕方ないですね…。
…(やっぱり、詰んでるんだ、"これ"。)
はぁ。何でもありません。次の報告を待ちましょう」
直後、
「警報がやかましい!!!!!!!!!!
音の不確定要素が入ったらどうする!!!
この実験は極めて時間を欠くものなのだ臨
床試験も出来なければ実験体だって異常に
少ないマウス一匹さえ使えないじゃ新薬の
開発なんぞろくすっぽできるわけないだろ
うが会長の提案だろ自分で言ったことの責
任くらい自分で取ったらどうなんだあの最
強被検体が懇願してきた活性剤だってまだ」
「状況報告をお願いします」
伊佐久は急に落ち着いた。
「あ、そう。私ではないな、断じて。
私は直接殺しをする主義じゃない。
物理戦闘なんぞアホのやることだ、
この世界で一人を除いてな」
「そうですか、帰ってください」
伊佐久は帰り際に、会長に振り向いて言った。
「言われずともそうさせてもらうとも。
"いい加減まともな睡眠をとったらどうだ"、会長」
「…」
→1.会長…ひょっとして、睡眠時間は…
「気にすることではありません。
次の人を待ちましょう」
――――――――――――――――――――――――――
「なんやけったいな、警報なんて初めてやろ!」
次にやってきたのは金田だ。
「…ええ!?路補くんが!?
そうか…こりゃ犯人は相当切れもんやな」
「貴方は直前まで路補君と一緒に居ましたね?
何があったのか、可能な限り教えて…」
そんな会長の声を遮り、金田は大声で叫ぶ。
「ワシは違う!路補の事なんてどうでもええ!
無駄は嫌いなんでとっとと寝かせてもらうで!」
そう言って、足早に生徒会室を去っていった。
「…まぁ、彼はアリバイがあるので仕方ないですね。
ですよね、氷室君?」
→1.えっ?ええ、まあ。はい。
2.(金田君は先に校舎に入っていって、見てないけど…)
――――――――――――――――――――――――――
「私たちは食事の配膳をしていたわ。
そもそも、寮から校舎裏まですぐに行けるほど
足が速い"犯人"らしいけど、
こんな小柄でそんな速く走れるわけないでしょ!?
コイツも同じよ!」
「もし疑うのでしたら、食事の出来栄えを見てください。
料理中では、少したりとも厨房を離れる余裕はないです。
家保とお互いに保証し合います」
最後に、美食部長と寮長がやってきた。
→1.(やっぱり、状況が状況だから)
2.(皆、かなりイライラしてるな…)
仮にも仲間が殺されたのだ。
"次は自分"という不安も少なくないのだろう。
束は、かなり落ち着いた表情をしながら、
一枚の長い紙を持って、それを見つめていた。
「放送室からの監視報告がありました。アルベド曰く、
"多分二人とも部屋にいて、仕事していた"だそうです。
不在証明にはなりませんが、二人が犯人である確率は非常に低いでしょう」
二人は胸をなでおろした。
「ふん。ならいいわ。証言に呼んだってわけね?
残念だけど、証言出来るものは何もないわ。
寮の配膳がまだなの。ご飯が冷めちゃう」
「まぁ、そうでしょうね(証言に対して)。
では、もう大丈夫です。協力ありがとうございます。」
「会長はご飯を食べないんですか?
よろしければ、ご一緒に…」
「いえ。遠慮します。
仕事が残っているので」
――――――――――――――――――――――――――
二人の帰りを見届けて、君たちは。
「「つ、」」
「「つっかれた~~~~!!!」」
思いっきり息を吐いて、
今日の激務を終わらせた。
→1.!そうだった、行かなくちゃいけない場所が!
2.失礼します!
「ええ…お疲れ、様でし、た…
私も、少し、休みます…
コーヒーを…飲む気力すら…無い…です…」
そう言って、彼女は会長室の長椅子に横たわり、
黒色の長いボロボロの毛布を着て仮眠した。
→1.…路補さん…!!
――――――――――――――――――――――――――
屋上に着地する。
当然誰もそれを見ていないし、
そこには金田の姿も無い。
→1.たしか、北西の23番パネルの裏…
君がそこに顔を出し、パネルの裏を見つめると。
●←押せ
と書かれた黒いボタンがあった。
→1.(押す)
突如として。
耳鳴りのような音が鳴り、周囲に光が映し出される。
→1.…この光は…!!
「その光はディスプレイだよ。
この学園に仕込まれた、監視カメラとは別のカメラ。
私の制作者が入念に仕込んだ、いわば"防犯カメラ"さ」
直後、唐突に機械音声が…
ってなんだい。邪魔しないでくれるか、路補君。
え?傷が爆発するくらい痛い?
しょうがないな、ちょっと待ってて!
「氷室 優。昨日ぶりだな。
私だ。路補だよ」
→1.ええええええええ!!??
「大声を出してはいけない。
"私"はもう脱落しているのだから。
これはあくまで私のAIだ」
1.えっと、つまり…
→2.ロボさんってコト…?
「自己紹介をしよう。
私の名は"ロボ;sourceK"。
製作者は"路補 創介"。
君の手助けをするAIだ」
1.じゃあさっそく…
→2.オッケーsourceK、犯人教えて
わかった。犯人は…
出ーてーくーるーなー!!!!
君これがやりたかったがために嘘ついたな!?
こら!!暴れるんじゃない!!
今知っちゃったらダメでしょうが!!!
「申し訳ないが、犯人の捜索補助は出来ない。
そのようなプログラムを組む時間はなかった。
精々、"製作者が事前入力したプログラムの範囲で"
一問一答形式で答えるのが限界だ」
→1.そんなにおいしい話はないよね、やっぱり。
2.(ああ…犯人の情報を入力しに行こうとしてたんだ、彼は)
「使用できるエネルギーはあまり多くない。
一問一答の質問は一日一回までにしてくれ。
さて、今日の時点で何を聞く?」
1.束会長は信頼に値する人物か?
→2.今の時点で犯人から除外できる人物は?
「なるほど。状況説明をしてくれ。
脱落者は誰で、どのような経緯があった?」
――――――――――――――――――――――――――――
「演算終了。結論から言う。
"少なくとも武道部長の円 歩ではない。"
以下に理由を列挙する。」
「まずはアリバイ無しで、現時点では不明の者たち。
会長の束 命,会計の金田 昇陽,
次にアリバイはあるが、偽証の可能性がある者たち。
科学部長の伊佐久 研二,放送部長の三会 操子,
日本文化部長のレイヤ・アルベド,技術部長の路補 創介」
→1.あれ!?創介君も入ってるの!?
「当然だ。製作者のバディが誰だったのかはわからないが、
その人物にすべてを託して芝居を打った可能性もある。
現時点では推理材料が少なく、即断はできないのはそういう可能性も考慮してだ」
「最後に、第三者からアリバイが証明されている者。
寮長の藤谷 家保,美食部長の台場 糧太。
これは第三者がアリバイを偽造している可能性もあるので、
そのことも一応考慮しておいてくれ。
以上の三種類順に、犯人である確率の高い者たちが並んでいる、という結論だ」
→1.出来る範囲で話を続けて。
「分かった。以降は突然電源が切れるかもしれない。
注意して聞くがいい」
「円ではない理由を述べよう。
これは確定事項なので、自信をもって伝えられる」
「理由その一。
"彼女は強すぎる"。
彼女がこの学園を破壊したいのであれば、
自分一人で出来るし、一瞬で実行できるだろう」
「理由その二。
"彼女の存在そのものが犯人を妨害している"。
君を殺しにかかった犯人が、彼女が出てきた瞬間逃げたのは
ただでさえ強い"犯人"が迂闊に動けなくなる人物だということ。
そもそも彼女が犯人なら、間違いなく君を助けない」
「以上の理由だ。彼女は信頼がおける、ということさ。
尤も、不用意に彼女に接触してはいけない。
"彼女が君たちを疑う"という状況が、
考えうる限り最悪の事態だからな」
→1.…結局、進展なしか…
2.自分は何もできない…
「気を落とすな。
探偵というのは、いつも後手に回るものだからな。
事後処理でも何でもいい。出来ることをやるんだ」
「恐らく犯人は、夜中に行動を起こす。
寮に居れば安全だが、それ以外の
誰か一人の生徒は犯人に殺されるだろう。」
→1.…
「これは惨酷な提案かもしれないが。
君はその様子を、屋上カメラに捉えなければならない。
犯人は素早いから、猶予はない。
その時の部屋の状況を…」
→1.ごめん。悪いけど…そんなこと、できない。
→2.このカメラで、見えないところも多い。それに頼るより、自分で…
「なるほど。忠告しておくが、
君のその態度は決して慈悲深いものではない。
自分のやりたくないことから逃避するのは、
誰か一人を見捨てることより惨酷だ。
君の目的を見失ってはいけない。」
→1.…わかってますよ。
「それと。犯人というものは、
大体が第一発見者なんだ。
自分の最も都合のいいように展開を捻じ曲げられるからな」
→1.…何が言いたいんです?
「"君に最も近しい者"が犯人である、という可能性が一番高い」
1.…貴方の言うことは正しいです。
→2.ですが、僕はそれを信じません。
「好きにしたまえ。
いずれにせよ君は決断を…」
1.(…今日の分の充電が切れたのか。)
→2.…今日はありがとうございました。
そう言って氷室君は屋上から立ち去った。
おやおや?おやおやおやぁ??
ひょっとして路補くん、嫌われちゃった?
コミュニケーション能力は絶望的みたいね?
――まぁ、彼ならこう判断することは分かっていた。
それでも耳に入れたかっただけさ。忠言なんとやら、だ。
分かったか?三十路の飲んだくれケツデカおばさん。
はあああああ????ひょっとして死にたいの???
お尻大きくないし!!この学園で一番デカいのはアル…
そ、それにアレは酒を…も、もおおおおお!!!!!
傷口に塩揉みこんで熟成肉にされたかったりしてる????
――あまりおちゃらけた振りをするものじゃないぞ。
"私が死んだところでどうということはないだろう"?
それに、私はまだ可能性を捨てきれていないんだ。
――君が"犯人"である、という可能性をね。
君ならできるだろ?"ナレーター"。
…ふん、推理は好きにするといいさ。
君なら、ちょっと考えたらわかりそうなものだけど。
疑うという行為は、矮小な人間に許された唯一の自由だしね?
どちらにしろ、君はもうこの"地の文"に介入できない。二度とね。
本当に下らないことにその才能を使ったのは、君の唯一の失敗さ。
――――――――――――――――――――――――――――
会長室のドアは壊れている。
→1.失礼します。
眠い目をこすって、会長が横たわっている。
君の声を聴いて、ゆっくり立ち上がろうとしている。
その姿は、凛々しい生徒会長、というよりは…
望まないことを押し付けられた、薄幸の…くたびれた少女に見えた。
「…会長室のドアを吹き飛ばしたのは貴方ですか?
危急の事態だったので、問題にはしません。
それで、どうしましたか」
→1.その姿勢のままで、大丈夫ですよ。
会長は君の言葉を遮って。
「…いえ、お言葉には甘えません。
会長として、丁寧な態度で応対すべきですので」
→1.少し、話したいことがありまして。
会長の顔色がさらに曇る。
「路補君のことですか。非常に残念に思います。
彼は優秀でした。彼の作ったシステムは私たちに不可欠なものです。
それが維持できなければ…いえ。そうではなく。
ただ、人物面だけ見ても、決して悪人ではなかった。
そこが…彼を失った、私たちの一番の損害かもしれない」
そして、どこか遠くを見ているような様子で…
そして、近くのどこも見ることが出来ないほど、俯いて。
「犯人は慧眼です。我々の最も大切なものを分かっている。
既に詰んでいるのに…追い打ちにしても、悪趣味です」
1.(何のことだろう…?)
→2.そうじゃなくて、他の質問がありましてですね…
彼女はきょとんとしている。
様子こそ少女らしいが、彼女の目の下の隈がそれを否定していた。
「他の質問、ですか。生徒会に何か質問でも?
それとも学園の事でしょうか?」
→1.なんで、そんなに無理してるんですか?
「…言葉の真意が掴みかねます。
もう寝ましょう。明日、また来て…」
1.…ずるい言い方になりますけど、僕を信じて答えてほしい。
→2.誰にも言いませんし、それを聞いて態度も変えませんので。
束は、自信なさげに呟く。
「…貴方達に、嫌われたくないので。
私は、ただでさえ嫌われているから」
彼女が弱音を他人に吐いたのは、初めてだった。
君は彼女のそんな姿に戸惑っている。
だが、戸惑いながらも、それを受け止めた。
→1.嫌われたくないのは、どうしてですか。
「…貴方達が私を嫌うと、
私は会長でいられなくなってしまう。
"学長"の恩に報いることが出来なくなってしまう」
そう言う彼女にいつもの溌溂さはない。
そもそも、その"いつもの溌溂さ"は果たして、
本当の彼女だったのだろうか。
氷室君は。
→1.…会長、やっぱり…
→1.会長の仕事が、嫌いなんですね?
その言葉を聞いて、会長の体は一瞬震える。
細長い体が、どこかとても小さく弱く見えた。
ばらばらになった髪は、彼女の不安そのものだ。
「…私は、学長の仕事を引き継いでいるだけです。
学長が誰かは、わかりません。
とても大切な人だったように思うのですが。
それすら忘れてしまう薄情者ですので」
氷室君は何も言わない。
それが正解だと思ったからだ。
「…ごめんなさい。
私は、こんなことを言ったら貴方に嫌われるとわかっているのに…
貴方が私を嫌わない、という可能性に賭けてしまいます」
それは"彼女が自分で吐露する必要がある"、と思ったからだ。
「私は、本当はこんなことやりたくないんです」
「書類仕事が嫌い、ということではありません。
ただ…誰かの上に立つ、というのが苦手なんです。
私を後継させた"学長"はそうではなかったようですが」
彼女は"望んで、望まないことをやっている"。
そして、それを決して口に出すことはしない。
→1.会長…とっても立派ですからね、特に見た目は。
だが、今はそのような様子は見られない。
ただ、嫌われることを恐れ、震えているだけだ。
「当然でしょう…違う、言いたいことはそうじゃなくて…
私は見た目だけ立派で、喋り上手で、器用に見えるのですが。
実際は全然そうじゃないんです」
「口下手で、言いたいことは伝わらないし、
人よりずっと言われたことの物覚えが悪いし、
コーヒーは大体こぼすから黒い服を着てるし、
機械は大体壊すから書類仕事はアナログだし、
そのくせ得意なことも才能があるかと言えば怪しいし」
→1.(卑屈さが溢れている…)
2.(でも、誰しもこういう悩みは…)
会長…いや、束の想いは止まらない。
例えそれを吐露するのが、"会長の自分"にとってよくないことだとしても。
「このままでは、誰の期待にも応えられません。
だから、無理矢理にでも出来るように振舞って、
無理なことでも頑張って。
そうしないと失望される。軽蔑される。
誰もそうしないとわかってても、
私が自分に失望して…軽蔑しているんだから、皆もそうする」
→1.…そんな、事は…
2.(ない訳でもないのが…)
「実際に、そうなんですよ…
人を励まそうとして声を掛けたら
物凄く怒られたり白い目で見られたり…
なんでみんな、私に期待するんでしょうか…」
彼女はひとしきり言い終えると、
静かに、一方で確かに、ため息を吐いた。
そして、言ってはいけないことだと知りつつも。
「こんなに辛いならいっそ、
誰も私に期待しないでほしいのに…」
1.いや…そもそも、貴方のその見た目だけは立派って所ですけど…
→2.私には繕ってるようにしか見えなくてですね…
束はきょとんとしている。
「え?まじですか?」
→1.そういうところですかね…
束は焦って、自分の前方に手を突き出した。
「あっ!!いやその、これはですね…!!」
ハンドジェスチャーは暴走している。
氷室君の暴走も、止まらない。
1.会長のそういうところは、嫌いな人もいるかもしれないけど。
→2.僕はそういうところ、いいと思いますよ。
会長は一瞬嬉しそうな顔をして、
すぐにむすっとした顔になった。
「…別に、君に気に入られたってですね…
それが全員の総意じゃない、っていうか…納得できないので…」
1.そういうめんどくさいところが一番嫌いです!!
→2.今すぐ治したほうがいいと思います!
「がー!!うるさいですよ!!!
出来りゃ苦労はしてないんです!!」
これは明確に怒った顔をしている。
年相応に怒って、年相応に恥じらっている。
→1.それに、無理に変わろうとしても、人間はすぐに変われませんよ。
2.諦めるべきは、そういう無茶なんだと思います。
「…」
束は硬直してしまった。
→1.え…っと。ぼ、僕はそう思うかな、って…
苦々しそうな表情から、束少女は口を開いた。
「言い方が悪くなっているかもしれませんが、
気にしないで聞いてくれるなら、勝手に聞いてください」
「今言われたことは全部…気休めにすぎません。
だって、氷室君によく思われても
皆によく思われるわけじゃないし、
それで事態が好転するわけでもないんです」
→1.手厳しいなぁ…
「でも」
「それでも」
それでも。
どれだけその言葉に気持ちをこめられないとしても。
「氷室君。これだけは伝えたいので、
口下手でも、自分の言葉で言います」
「君が生徒会に入ってくれてよかった。
本当に、ありがとうございます」
そう言って、彼女は微笑んだ。
疲れた笑みでもなく、諦めて乾いた笑いでもなく。
ただ純粋に、嬉しかったから。
とても純粋な微笑みを湛えたのだった。
1.…し、失礼します!!
彼女の努力とは裏腹に、氷室君は
生徒会室を息まいて飛び出て行ってしまった。
「何か感想でも言ってくださいよ!
せっかく頑張ったんですから!!」
また、年相応に怒ってから、ひとしきり。
「…どうせ、もう終わってるんだ。
私がどれだけ頑張ったって、もう。
だから…頑張らなく、たって…」
彼女は倦んでいた。
誰かの期待に応えるのはつらく苦しいことで、
その重荷は一瞬で投げ出したくなる。
支えるのはつらい。
支えられるのもつらい。
そんな苦痛しか生まない関係から、
一刻も早く抜け出したかったのだ。
「あ…れ。なん、で?」
それでも。
それが、優しくしてくれた人の、望みなら。
そんな辛くて耐えきれないことだって、
嬉しさが抑えられなくなってしまう。
折れた体で、そのまま、
無理矢理前に進まされ、進んでしてしまうのだ。
「ああ…ああ。
私…弱いなぁ…」
弱いから、嬉しくって。
瞳から零れ落ちる嬉しさが、抑えられない。
"誰かがいないと、私たちは生きていけない"んだ。
弱くてもいいから、支え合っていくんだ。
こんな陳腐な言葉がどれだけの強い人間に響くかはわからない。
でも、彼女は弱かった。
それだけで、支えられてしまうほど、
彼女は脆く、優しかったのだ。
1.(生徒会室に戻ってくる)
→2.よかったです!!
「わざわざ帰ってこなくてもいいですよ!!
もう寝てください!!!ぐすん!!!」
→1.明日もよろしく、"束さん"!!
――――――――――――――――――――――――――
「あざっしたー!束パイセン!」
そういえば。
初めて会った日の夜から。
氷室君は、私のこと…
――――――――――――――――――――――――――
「…"会長"、って…呼んでくださいよ…!!
私…それしか、できないのに…!!
ばか…ばかぁ…!!」
彼女の涙を見た者はいない。
放送室ですら、見ることは出来ない。
そこは二人の秘密の場所。
会長室。
そこは。会長が唯一、会長でいられる場所。
そして、
唯一、束少女でいられる場所だった。
よかったね、束さん。
でもまあ、
氷室君以外の人間がそう思うかどうかは、別だけど。
"会長が嫌われている"というのは…
あながち間違いではない自己評価なんだぜ?
第六話「束会長の憂鬱」
了。
ああ、そうそう。
"本筋から退場している"から犯人じゃない、
ってのは早計かもしれないぞ?
なんせツーマンセルが基本の学校だからね。
もう"片方が"生きてれば、事は済むだろ?
誰が誰と組んでいるか、把握すると推理が楽になるかもね。
さあ、次の選択肢だ。
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三日目・早朝。
君の行動は?
→1.日本文化部に行ってみよう。
(アルベドとのコミュニケーション)
→2.もう寝よう。明日に備えなければ。
(氷室・束会長 過去回想編)
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あとがき~
隔日更新です!!
またやらかした!!!
はい、一日15kbくらい書いてるみたいなので、
その日のうちに出たら短編だと思ってください…
毎度迷惑をかけます、ごめんなさい。
隔日更新の理由ですが、
次の選択肢イベントに移るまでが長いからでして、
選択肢イベント無しでも毎日更新したほうがいいですかね?
そちらの方が良ければ毎日更新できるのですが…
どちらがいいかも含めて、
投票のついでに感想等で教えてほしいです。
それでは、今回も読んでくれてありがとうございました。