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 卒業パーティーは盛大に行われた。何と言っても王太子の婚約者、マリアンヌがいるのだ。マリアンヌのパートナーとして、またパーティーの主賓として王太子が出席しているのだから、例年よりも豪華なものになっていた。


「キース、ナターシャ!」


「マリアンヌ様! やはり真紅のドレスがお似合いですわ! 気品があって美しすぎます」


「ふふ、ありがとう。あなたも素敵よ。明るいオレンジがぴったりだわ。キースのチーフともよく合ってる。爽やかカップルね」


「マリアンヌ様、それはキース様に申し訳ないです!」


 マリアンヌはふふっと笑うとキースに言った。


「キース、まず殿下にご挨拶に行きましょう。ナターシャはまだ婚約者ではないから連れて行けないけれど……」


「そうだね、殿下にお会いするのも久しぶりだ。ナターシャ、ちょっと行ってくるからお友達と話しててくれる?」


「え、ええ、ごゆっくりどうぞ」


(なんか今、凄いことをサラッと仰ったような……まだ、って)


 思い込んではいけない、期待しちゃいけない。それはディーンのことで学んだはず。


 ナターシャは気を落ち着けようと飲み物を取りに行った。そこで偶然、ディーンに会ってしまった。


「あっ……」


 お互いに目が合い、気まずい感じになった。だがナターシャは思い切って声を掛けた。怒らせているかもしれないが、一言おめでとうだけでも言いたいと思ったのだ。


「待って、ディーン。私、あなたに話したいことがあるの」


 ディーンはその場を離れようとした足を止め、振り向くといきなり訊いてきた。


「……君のパートナー、年下じゃないのかい」


「え、ええ。そうよ。二年のキース・マクスウェルよ」


「僕のことは子供っぽいって馬鹿にしたくせに、自分は年下の男をパートナーにするなんてどういうことだよ」


 イラついた様子で言われてナターシャは戸惑いを隠せなかった。


「えっ? 何のこと? 私、あなたのことそんな風に思ったことないわ」


「ごまかしても駄目だよ。全部ホリーに聞いたんだ。君はカフェで軽口をたたく僕のことを子供みたいだと笑い、だからパートナーも見つからないんだと馬鹿にしていたんだってね」


「そんなの嘘よ! なぜホリーがそんなこと……」


「ナターシャ、やめてくれる?」


 横から現れたのはホリーだった。いつもの内気な様子はなく自信あり気に笑みを浮かべ、左手の指輪を見せつけるように胸の前にかざしていた。


「私達、正式に婚約したのよ。あなたが入る隙間はもう無いわ。これ以上私の邪魔をしないで」


 そう言ってディーンの腕を引き、連れて行こうとした。


「ホリー、私ディーンを笑ったり馬鹿にしたりしたことないでしょう? あなたは知ってるはずよ」


 ホリーはうんざりした顔で振り向いて言った。


「ほら、また嘘ばっかり。ディーン、行きましょう。こんな人ともう話すことはないわ」


 ホリーはディーンの背中を押して向こうへ行こうとした。だがディーンは何か不審に思っているのか、動こうとしなかった。


「僕のパートナーに何をしているんだ?」


「キース!」


 ナターシャの後ろからキースが現れ、庇うようにナターシャを背後に回した。


「僕の大切な人が嘘ばかり言うだなんて、聞き捨てならないな」


「誰? あなた……」


 ホリーはキースに見惚れてしまっているようだった。顔を赤らめ、ポカンと口を開けている。


(誰なの、この人? 初めて見るわ。もの凄く素敵な人じゃない。ディーンなんて全然、色褪せて見える。なんでこんな人がナターシャと一緒にいるの?)


 そしてようやく声を出した。


「ナターシャ……あなたお兄さんとパーティーに出るんじゃなかったの?」


「お兄様は腕を骨折して出られなくなったのよ」


「だから幸運にもこの僕がナターシャの隣にいるという栄誉を授かることが出来たんだ」


 キースはナターシャの髪を一束取ると、そっと口づけた。


(きゃあああ……急に何をしているのキース……やり過ぎよ)


 ナターシャは動揺を顔に出さないよう必死で耐えていた。


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