表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/14

6

 翌日からホリーは学校に出てこなくなった。といっても、それは卒業間近の三年生にはよくあることだ。特に令嬢達はパーティーの準備に余念がない。ドレスの仕上げ、髪型の研究、肌の手入れなどなど、やることは山積みなのだ。クラスの女子も半分くらいは既に来ていない。


「ナターシャ、今日ランチを一緒に取りませんこと?」


「マリアンヌ様! よろしいんですか?」


「ええ。ホリーも来なくなったでしょう。だからあなたをお誘いしても構わないかと思って」


「ありがとうございます! 嬉しいです」


 マリアンヌ達上位貴族は、カフェテリアの中でも広くていい席が確保されている。ランチも自分で取る形式ではなく、ちゃんと給仕がいて運んできてくれるのだ。


「ねえナターシャ。前に言っていた気になる方とはその後どうなったのかしら」


 いきなり直球で質問された。


「あ……それはですね、失恋しました」


「まあ。見る目のない男性だこと」


「いえ、何か私の方が無神経なことをしていたんだと思うんです。二度と関わらないでくれって言われてしまいました」


「何てこと言うのかしら。私、文句言ってやりますわ」


「そんな、マリアンヌ様。お気持ちだけありがたく受け取っておきます」


「でもそれじゃあ、パートナーはどうするの?」


「兄に頼みました。嫌がってましたけど」


「そうなの? 見つからなかったら、私の弟を貸そうと思っていたんだけど」


「マリアンヌ様、弟様がいらしたんですか?」


「ええ。兄がいるのは知ってるでしょう? 実は弟もいるのよ。本当に可愛い弟なの。あの子には、あなたみたいな子と付き合ってもらいたいのよね」


(まあ! マリアンヌ様にそんなこと言われて嬉しすぎるけど)


「ありがとうございます。でも公爵家の方をパートナーに貸していただくなんて、もったいないお話ですわ。私なんか兄で充分です」


「そう? 気が変わったらいつでも言って頂戴ね」


 マリアンヌは優雅に微笑んでお茶を口にした。


「ところで、ホリーの事なんだけど」


「はい。ホリーが何か?」


「三年間、ほとんど話したこともなかったのに、突然私の屋敷を訪ねてきたのよ。約束も無しでマナー違反ではあるけれど、あの大人しいホリーが来たのだからと会うことにしたんだけれど……」


 マリアンヌは静かにティーカップを置いた。


「あなたの悪口を言うのよ。いつも自分をバカにして押さえつけ、喋らせないようにしてきたって。それで、今までクラスの人達とお話し出来なかった。でもこれからは、ナターシャではなく自分と仲良くして欲しいと」


 ナターシャは唖然として何も言えなかった。ホリーには、自分はそんな風に映っていたのかとショックだったのだ。


「でね。私はこう言ったのよ。『私は自分の付き合う人は自分で決めます。少なくとも、あなたとは仲良くしようとは思いません』とね。そうしたらすぐ帰って行ったわ」


「マリアンヌ様……」


「私はあなたと三年間付き合ってきて、信頼に足る人だとわかっています。だから他人から何か吹き込まれたとしても信用しないわ。そうでしょう?」


「ありがとうございます。本当に嬉しいです……」


 涙で目の前のマリアンヌがぼやけて見えない。マリアンヌはそっとナターシャの手を握った。


「ねえナターシャ。あなたにお願いがあるのよ。私はいずれ王宮に召されるわ。その時、私付きの侍女として付いてきてくれないかしら」


「ええっ? 私が、ですか?」


「そうよ。あなたの成績が優秀なのも知っているし、身のこなしもテキパキしていてそつがないわ。仕事が出来て心を許せる人を身近に置いておきたいの。今すぐじゃなくてもいいから返事を聞かせてくれる?」


 ナターシャはあまりに突然の話に感激していた。


「はい! 親とも相談して、お返事させていただきます」


 と返事をしたが、心の中ではもう承諾することを決めていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ