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 ドレスの準備も終わり、後はパートナーだけ。卒業パーティーまでひと月を切ってしまった。


 そんなある日、ナターシャは学校代表としてマリアンヌと共に孤児院への慰問に行くことになった。


「明るいナターシャがいると子供たちも喜ぶから」


 とマリアンヌが推薦してくれたのだ。未来の王太子妃から直々のご指名とあって、ナターシャは誇らしさで胸がいっぱいになった。当日は学校を公休扱いで休み、二人で朝から三ケ所の孤児院を回った。


「マリアンヌ様、お菓子をとっても喜んでいましたね、子供たち」


「そうね。ナターシャの紙芝居も良かったわよ」


「それを言うならマリアンヌ様の歌だって! とっても伸びやかで素晴らしかったです。あまりに美しい歌声なので伴奏する手が震えてしまいました」


「まあ、ナターシャったら」


 扇子で顔を隠しながらコロコロと楽しそうにマリアンヌは笑った。


(ああ、ホントに素敵な方だわ。同じ歳と思えないくらいマナーも気配りも完璧で)


「ところでナターシャ、まだパートナーが決まっていないんですって?」


「はい、そうなんです」


「どなたか想う方がいらっしゃるの?」


 ナターシャはポッと頬を染めた。


「いいな、と思ってる方はいます」


「そう。その方に申し込んでもらえそう?」


「……わかりません。ずっとヤキモキしてるんですけど。いっそ、自分から言っちゃおうかと思ったりしてます」


「まあ」


 マリアンヌはまた楽しそうに笑った。


「あなたらしくていいわね。それを受け入れてくれるような方があなたには似合うわ」


(私らしい、か……。確かにそうかも。申し込んでくれないかな、なんて待っていないで行動してみようかしら)


 マリアンヌとの会話でナターシャは決意を固めた。


(振られたってどうせあとひと月で卒業なんだもの。恥ずかしいけど思い切って告白してみよう!)




 翌日、ナターシャは朝からドキドキして登校した。


(お昼にカフェで会ったら、少し時間をもらおう)


 ホリーにも相談したかったが、今朝は登校していなかった。


 午前の授業が終わりチャイムが鳴る頃、ホリーがそっと教室に入って来た。


「ホリー! 今日は午後から出席なの? 体調は大丈夫?」


「ええ、ありがとうナターシャ。少し頭痛がしていたのよ。寝ていたら治ったわ」


「良かった。お昼はどうする? カフェテリア、行ける?」


「行くわ。朝は食欲なくて食べられなかったから、実はお腹が空いているのよ」


 カフェテリアに行った二人はいつもの席に座った。時間が経つにつれ、ナターシャは落ち着かなくなってきた。


(どうしよう、ディーンが来たらまず立ち上がって……後で話がある、って言えばいいかしら)


 その時、ディーンがこちらへ来るのが見えた。今日は友人と一緒ではないようだ。


(一人なんだわ。良かった、声を掛けやすいわ)


 ディーンがどんどん近づいてくる。いつものように、『やあ、ナターシャ』って言われたら立ち上がろうと決めていたのだが。


 ディーンはいつもと違い、まったくナターシャの顔を見ようとしなかった。そして、


「やあ、ホリー」


 と言ったのだ。驚いてホリーの顔を見ると、ホリーは頬を染めてディーンを見つめていた。


「こんにちは、ディーン」


「一緒にお昼を食べないかい?」


「嬉しいわ。でも……」


 ホリーがナターシャをチラッと見た。ナターシャは混乱した頭のまま、


「ホ、ホリー。私なら大丈夫よ。行ってきたら」


 と心にも無いことを口にした。


「ありがとう」


 ホリーはそう言うとランチの載ったトレーを取り、立ち上がった。ディーンが彼女のトレーを持ってやり、二人で日当たりの良いテラス席に行ってしまった。


 遠くの方で仲睦まじく話している二人を見ながら、ナターシャは呆然としていた。


(ホリーもディーンが好きだったのかしら……そしてディーンもホリーのことを。私ったら何も知らなかったのね……)


 ランチが喉を通らず、ナターシャは席を立った。あの二人をこれ以上見ていられなかったのだ。


(ダメだ、涙が出そう……どこか人のいない所へ)


 中庭を突っ切り、裏庭の木立の中に入った。一見鬱蒼として暗い木立だが、通り抜けた向こうには陽の当たる芝生のスペースがある。


 そこまで辿り着くとペタンと座り込み、ハンカチを取り出して涙を流した。

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