墓所
更新します。
最近時間が不規則気味で申し訳ありません。
凄まじく苦労をしたものの、何とか――主に、飯と紅茶とスイーツで釣って――サラスの機嫌を取ることに成功した俺なのだが、これまでにないくらいの気遣いをしたことで、正直ここに来る前よりも疲れていた。
療養の名目で返ってきた筈なのに、何とも不思議なこともあるモノだ。
しかし、ここから先は完全な療養タイム。その日の夜、俺はいつ以来かもわからないくらい久々に何の気兼ねも心配もなくぐっすりと就寝することが出来た。
今宵もまた抱き枕にされるのかと思っていたのだが、チェシャという天然ふかふか抱き枕が登場したことと、『今朝の一件があるからな、貴様は暫く抱き枕に使わん』と宣言されてしまったことで、無事にお役御免となった。
お役御免になったことを喜ぶべき筈なのだが……何だろう、このちょっとモヤっとする気持ちは。例えるなら、好きでもなければ告白した訳でもない子に何の前触れも無くフラれたみたいな、そんな気分といったところか? いや、経験ないから分からんが。
とにかく、久しぶりに気分よく就寝出来たお陰で、今朝は昨日よりもまして気分よく目を覚ますことが出来た。
ふと横に目を遣れば、サラスもチェシャもまだ夢の中。抱き合って、ぐっすりと幸せそうに眠りこけている真っ最中。
予定では今日には再び魔獣制圧区域へ戻り、そこから隣接する大蔵の逃亡先であるスルヴェニア辺境領に侵入する計画。それが成功すれば、暫くここには戻れないだろう。
なら、ここに来たこのタイミングで訪れておきたい場所がある。
俺は身支度を整えると、物音を立てないようにこっそりと拠点を抜け出した。
◇
拠点のある森を抜けると、復讐の舞台となった集落に到着する。
ここの集落の住民を巻き込んで黒木たちをだまし討ちにし、彼らの策を悉く封殺して完膚なきまでに叩き潰した絶望的状況で怒れる住民たちに処刑させた。
しかし、住民たちはシュミルの力によって暴走した間宮によって潰されてしまい、老若男女合わせて数十名はいた住民は文字通り全滅してしまった。
結果として残ったのは、至る所にこびり付いた血痕の数々とすっかり崩壊して廃墟同然と化したこの集落だけ。そしてこの惨状は、俺の中の暗い感情を湧き起こす。
何故なら俺は――この集落の住民を全員巻き込んで殺してしまったのだから。
復讐を始めたことを、後悔などしていない。
黒木怜、佐藤純也、土田真由美、井上桜、小野寺健司、佐倉井竜、間宮始、東雲太陽、
朝日翔、小川梢、そして三崎春香――彼ら十一名を手に掛けたことだって、何の後ろ暗い気持ちも持っていない。
まあ、三崎に関しては少し思うところが無いワケではないが……それも今となってはどうだっていい話だ。ヤツだって俺を見捨てた敵の一人、その事実に変わりは無いのだから。
だが、唯一申し訳ないと思うことがあるとすれば、それは彼ら何の罪も無いこの集落の住民を巻き込んだ末に、無残に死なせてしまったこと。
巻き込んだ手前言えた義理ではないが、俺は彼らを死なせるつもりは無かった。
話を聞く限り、勇者はクレア王女主体で支持する者がいる一方、勇者を疎ましく思う勢力もまた存在するらしい。つまり、王国とて一枚岩ではないのだ。
住民たちには『魔神の手先に操られていた』と言った内容で証言させるつもりだった。そして同時に、勇者の横暴によって苦しめられていたことも証言して貰うつもりだった。
そうすれば、自分が召喚した勇者が国民を不当な理由で虐げたという事情がある以上、如何にあの王女といえども彼らをぞんざいには扱えない。寧ろ国を護るために召喚した勇者に国民を苦しめられたとあっては、反王女派にとっては格好の攻撃材料となり得るだろう。
無論、俺が投獄・拷問・処刑されるまで何もしなかった反王女派だ。絶対に俺の目論見通りに動いてくれるとは限らないし、その保証も無い。
しかし同時に、同じ神を信じる同じ国の民と、同じ神を信じている訳でもなければ持っている筈の天職もスキルも持っていない余所者の異端者では、まるで話が違う。
住民が反王女派によって救われる公算だって、十分あった筈だ。それでも無理な時は、その時は俺が王女を潰してこの国を崩壊させる。少々強引だが、万事解決に――。
「いや、住民たちが生きていたら……などと、今更そんなことを考えても無駄か。俺が彼らを死
なせてしまった事実にもまた、変わりは無いのだから」
見ているだけで胸が痛くなってくる集落跡を見ていることにどこか痛みを感じ始めた俺は、そのまま背を向けては逃げるようにそこから立ち去った。
◇
集落を通り過ぎてから、王都の方角を背にして更に一時間程歩く。すると、再び眼前に広がるのは森。俺はその森の中へ、一切の躊躇なく足を踏み入れた。
そして歩くこと暫し。森の中で一際木々が生い茂るその場所に、今日の目的はあった。
眼前に広がるのは、自然溢れる森の中にあって酷く不自然な盛土の山。それも一つや二つではなく、夥しい数が点在していた。
そして盛土頂点にはただ一つの例外もなく全てに、木製の十字が立てられている。
俺はその盛土たちの前で膝を折ると、徐に手を合わせ始めた。
そう、これは全てお墓である。少々粗末で不格好なのは、俺が一つ一つ手作りしたからに他ならない。俺に黒木のようなスキルがあれば、もっといい格好になっただろうが、無いモノは仕方ない。それに俺は、今の自分のスキルが気に入っている。黒木のスキルをくれると言われても、手放すつもりは無い。
――閑話休題。
ここには、俺が関わった死の、殆ど全てが存在している。
俺が最初に介錯した魔獣の墓から始まり、昨日運び込んだあの集落の住民全員の遺体と、そして黒木たち七人の勇者の遺体。その全てがここに眠っている。
そして今日、ここに三つの墓が新たに加わる。小川、東雲、朝日の三人である。
魔獣制圧区域で死んだ魔獣たちの墓も作ってやりたいところではあるが、如何せん数が多すぎてそれは叶わないのが心苦しい所。せめて最初に介錯した一体と共に冥福を祈るとしよう。
俺は穴を三つほど新たに掘ると、そこに粉状のモノ――遺体から採取した三人の遺灰である――が詰まった袋を埋めると再び埋めて、頂点に十字架を立てる。
流石に一昨日の晩にあれだけ作ったこともあって、随分と手慣れてしまったモノだ。
まあ、住民や黒木たちと違って、小川達は灰しか持って帰ってきていないから、作業の楽さに差が出るのは当然と言えば当然だが。
かくして、新しい墓を簡素だが建立した俺は、再び手を合わせて冥福を祈った。
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