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解放?

更新します。

どうぞご覧ください。

 三崎と会話してから六日、つまり俺が拘束されて遂に一週間が経過してしまった。

 その間も俺は変わらず、この劣悪な環境下で容赦の無い拷問を受け続けている。

 いや、時間が経つに連れて拷問はどんどん残虐な行為へと変化していった。

 殴る蹴るに宙吊りと鞭打ちは毎日のこと。それに加えてナイフで体中に無数の傷を付けられたり、逆さ吊りにされて冷水の入った桶に頭から叩き込まれて窒息寸前まで放置されたり、挙句の果てには赤く光る程熱せられた鉄の棒を体中に押し付けられたりと実にバラエティに富んでいた。その上昨晩吐き捨てるように言われた話では、今日は生爪を剥がす拷問を行い、それでも口を割らなければ歯を抜く拷問を、それでもダメなら一本一本手の指を圧し折って、最後には足の指を一本ずつ潰すという。まさに身の毛もよだつ話だった。

 苛烈な拷問も当然辛い。だがそれと同じくらい辛いのが休息と食事の決定的な不足だ。

 一日の食事は朝の一度だけ。それも硬くて食感が悪い上にまともに味のしないパンが一つ程度。どう考えても栄養が足りていない。しかし、俺が死んで自白も情報も取れないと困るとでも考えたのだろう。食事と睡眠は無くとも水だけは与えられていた。だが、水で腹が膨れる筈もなく、俺は常に飢餓状態で苦しめられていた。

 その上ただでさえ拷問の傷が痛んで眠れないのに、それでも俺が何とか寝付いたと思ったら強引に叩き起こされるのだ。休息も何もあったものではない。

 そんな生活が数日に亘って続いたのだから、当然体は傷や火傷の跡だらけになってしまった上に、懸命なトレーニングで身に付けた筋肉が見る影もなく萎んでやせ細っていた。

 身体つきの変化は何となく感じていたのだが、流石に鏡も何もない部屋で自分の顔の変化までは分からない。しかし、今朝方食事と一緒に与えられた水に映った自分の顔を見て酷く愕然とした。頬はすっかりこけてしまい、さながら無人島に漂着して数日間のサバイバルを余儀なくされたかのよう。  ストレスで髪はすっかり色が抜け、総白髪になっていた。何となく体の右側の感覚が鈍くなっているような感覚があったのだが、顔の右半分も痙攣して上手く動かすことが出来ない。まるで幽鬼の類にすら見えるその面貌が自分なのだと認識するために、かなりの時間を要したものである。

 ただ辛く、安らぎも楽しみも無い生活。その上体中に消えない傷が幾つも残り、情けなくやせ細って面貌までもがすっかり変わってしまった。

 その現実を突き付けられて、俺の頬をまたしても涙が伝う。そして声を上げて、嗚咽を漏らしながら、ただひたすらに泣いた。泣き続けた。地下中に俺の声が反響するほどに。

 どうして自分がこんな目に遭わなくてはならないのかと、俺が一体どんな悪事を働いたというのかと、幾度も幾度も自問した。しかし、当然答えなど出ない。

 分かったことはただ一つ。もう心身ともに限界を超え、心が壊れそうだということだけ。

 この数日間、俺が苛烈な拷問に晒されながらも心折れずに堪えられたのは、言うまでもなく三崎春香との約束があったからだ。あと少しで解放されるという期待を抱けたからだ。

 しかし、拘束から今日で一週間。いくら何でも時間が掛かり過ぎている。いつに解放されるのか分からない状況で、口約束だけを心の支えにし続けるのは流石に限界だった。

 それに恐怖を覚えるほどに様変わりしてしまった自分というのは、想像以上に精神に来るものがある。こんな風に変わってしまった自分が生きていてどうするのかと、ネガティブな考えばかりが頭の中を駆け巡っていた。

 しかもこれから待っているのは爪剥がしに抜歯と手指折りに足指潰しだ。こんな精神状態で、そんな凄まじい拷問を耐えきる自信など無い。

 何でもいいから解放されたい。これ以上悲惨な目には遭いたくない。ならば拷問が始まる前に、もう自白してしまおう――諦観に支配された心で、俺はそんなことばかりを考えるようになっていた。そんな時だった。錆びた金属が軋むような音と共に牢の扉が開いたのは。

 虚ろな瞳で扉の方へ視線を向けると、そこにはもはや見慣れたゴルドンとその配下の姿があった。まだ食事に手を付けてすらいないのに、どうやら泣いている間に食事の時間が終わってしまったらしい。そして今日もまた、拷問が始まる。でも、もう拷問は嫌だった。


「あ、あの……お、俺は……俺は――」

「出ろ。そして我々に付いてこい」


 拷問が始まる前に自白してやろうと思い、乾いて上手く喋れない口で何とか言葉を紡ごうとした矢先に、ゴルドンは忌々しげな表情でそう告げた。

 何を言われたのか分からなかった。訳も分からず固まっていると、配下の兵士によってここへ連れて来られた時と同じように両腕をガッチリと掴まれて強引に立たされる。

 そしてそのまま扉を潜り、実に一週間ぶりに牢の外へ出た。


「こ、これは一体? ……俺はどうなる?」

「黙って付いてこい。そうすればわかる。だがその前に、貴様臭いな。それにみすぼらしい格好だ。その様で王女様の前に出す訳にはいかない。おい、お前ら身だしなみを整えろ」

 

 命令を受けた兵士たちはゴルドンに敬礼をすると、そのまま進行方向を変える。

 しかし、なおも肝心な情報が何もないまま。俺はますます混乱していた。これから一体何が起こるのかと不安に潰されそうな心持ちのまま、俺はされるがまま兵士に連れられて行くしかなかった。本当に、一体何がどうなっているというのだろうか?


如何でしたでしょうか?


よろしければコメントや評価等頂けると幸いです。

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