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受領

更新します。


 どれくらい時間が経ったのだろうか。

 俺の唇から、サラスが徐に離れていく。どうやら、至福の時間はもう終わりらしい。

 恥ずかしいのか少し顔を赤らめたサラスが、上目遣いで俺の方をジッと見つめてくる。


「どうだ? 感想は?」

「……あ、ありがとうございました?」


 混乱する頭を限界まで振り絞って出てきた回答は、自分でも情けなくなるくらいしょうもないモノだった。

 するとサラスは、突然噴き出すと心底楽しそうに腹を抱えて笑い出す。


「な、何だそれは? 感想としては落第点だぞ。せめてそこは、『嬉しかった』とか『最高だった』とか言って欲しい所だな」

「す、すまん。つい、驚いて……」


 気の利いた答え一つ出てこない自分に、嫌気が刺してくる。

 というか、いささかばかりの冷静さを取り戻してみると、気恥ずかしくてサラスを直視できない。……どうしよう。

 そんな俺の内心の葛藤を敏感に感じ取ってくれたのか、サラスは優しく俺の肩を叩く。


「まあ、突然唇を奪った吾輩が言えることではないかも知れんな。それより、吾輩が貴様に送った気持ちは、何も熱い接吻だけではないぞ? 往年の力を取り戻したことで、貴様の傷を完全に治療することが出来た。その証拠にほら、ダガーを握る手が直っているだろう?」


 言われてみれば確かに、ダガーを握っていた手に負った火傷に似た外傷はいつの間にか治癒していた。

 それだけではなく、ダガーを握っていても最早何ともない。プロテクトが解除されたかのように、普通のダガーのように握ることすらも出来ていた。

 体の中に意識を集中させてみれば、確かに微かに残っていた違和感も完全に無くなっている。和らいだだけでずっと感じ続けていた痛みすらも、完全に消えていた。


「本当だ、もう何ともない。先ほどまであんなに弱っていたのに、こんなあっさりと……本当に力が戻ったんだな! よかった」


 思わず頬が緩んでしまう。


「ああ、お陰様でな。そして、最後にもう一つ。貴様が心の底から望んでいたモノもまた、貴様に授けておいた」

「――! それって、まさか」

「ああ、そのまさかだ。内に精神を集中させてみろ。吾輩の言葉の意味が分かる筈だ」


 目を閉じて、自分の中に意識を集中させてみる。

 すると確かに、俺の中にこれまで感じたことが無いほど強烈な力の奔流を感じられた。

 思わず戸惑ってしまうほどの強烈な力を宿した今の自分は、まるで別の生き物に生まれ変わったかのような感覚。同時に沸き起こってくる高揚感で、口角が大きく持ち上がる。


「素晴らしい! これが……これこそが俺の求めていたモノだ!」

「気に入ってくれたようで、何よりだ。何せ取り戻した力の半分を貴様に譲ったのだ。これで足りぬと言われたら、流石にどうしようかと思ったぞ」


 あっけらかんと笑うサラス。


「半分? そんなに? いいのかよ? 完全復活を望んでいた筈じゃないのか?」

「この力は、貴様が取り戻してくれたモノだ。それを吾輩が全て貰うなど、そんな横暴があるか? 元は吾輩の力、そして取り戻したのは貴様、だから折半――それでよいではないか。それにだ――」


 サラスが、邪悪な笑みを浮かべる。


「貴様は、これからも勇者どもに苦痛と恐怖を与えるための復讐を続けるのだろう? そして負の感情を吸収して強くなるという吾輩の特性は、禁樹から解放されようが失われる訳ではない。つまり、吾輩は貴様と共にいればもっと強くなれる。そしてそれは、貴様も同様だ。ならば、今力を半分失おうが何の問題も無いだろう?」


 自信満々に言い放つサラスの言葉に、思わず笑みが零れる。


「ああ、そうだな。確かにそうだ。これからも俺は、奴らを潰し続ける。そしてその手始めは、あの三人だ!」

「よし、いいだろう。あまり待たすと、チェシャが可哀そうだ。それに、シュミルがまた余計な横槍を入れてこないとも限らない」

「ありえるな。そうなると厄介だ。その前に、第二ラウンドの決着を付ける!」


 差し出されたサラスの手を、俺は引き締めた顔で力強く頷きながら取った。


「では、行くぞ。――スキル【転移】発動!」


 すると俺たちは瞬き程の一瞬でその場から姿を消し、再び戦場へと戻っていった。


如何でしたでしょうか?


宜しければコメントや評価、ブクマなど頂けると幸いです。

宜しくお願い致します。

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