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「しかし、現実問題どうする? 治療が出来なければ、お前はいずれ――」
「安心しろ。この状況を打開する実に単純な案なら思い付いた。材料も揃っている」
「何? どういうことだ?」
怪訝そうな表情を浮かべるサラスに説明すべく、俺は眼前の禁樹のある一点を指差した。
「アレだ。ここへ来た最大の目的である禁樹の実――それを使ってお前の力を復活させる。そんでもって俺を強化して貰うって、ただそれだけだ。単純だろう?」
自信満々にそう言い放つと、サラスは唖然とした表情を浮かべた。
「な、何を言っているのか分かっているのか? あの果実にはプロテクトが掛かっている。しかもそのプロテクトは、先ほどのダガーの比ではないぞ。ダガーを抜けたから大丈夫だと考えたのなら、それは見通しが甘すぎる」
「分かっているさ。両方触れた俺だぞ? 確かにあの果実、俺たちが素手で回収するのは不可能だ。拳銃で撃ち落とそうかとも考えたが、生憎弾丸は打ち切ってしまったのでそれも無理。でも、俺たちにはあるじゃないか。シュミルのプロテクトを突破し得る、戦利品が」
「……戦利品? ――あっ!」
思い出した表情を浮かべて俺の足元に転がるダガーに目を遣るサラス。
「その通りだ。プロテクトがシュミルの力によるものならば、同じシュミルの力で生み出されたこのダガーで突破できる筈。まあ、確証はないが、試してみる価値は十分にある筈だ」
「なるほど……しかし、いいのか? それは持っただけでも相当苦しいだろう?」
「苦労も無しに人間が何かを力を手に入れようだなんて、そもそもおかしいんだよ。この程度の苦痛、耐えてみせるさ。望むモノを手に入れるためなら、喜んで」
不敵に笑ってみせれば、不安そうな顔をしていたサラスが一転して笑顔を取り戻す。
「よし、じゃあ行くか!」
足元に転がるダガーを拾い上げると、やはり右手に激痛が走る。歯を食いしばって何とか激痛に耐
えるが、あまり長く耐えられそうもない。俺はすぐさま足に力を入れて、そのまま高く跳躍。するとすぐに果実の高さまで跳躍することが出来た。
あとは果実を収穫するだけ。俺は、果梗部分目掛けてダガーを横一閃に振るった。
果実に掛かったプロテクトは如何なる外部からの接触にも反応する仕掛けらしく、同じシュミルの力から生み出されたダガーと接触しても発動した。
だが、この果実はシュミルにとっては宿敵たるサラスを封印したモノ。重要性の高さから察するに、その程度のことは想定済み。今更驚きなどしない。
「はぁあああああああああっ!」
再び手には、プロテクトに長時間触れたことによる火傷のような外傷が現れ始めた。
しかしそれでも俺はダガーを振るう力を緩めることなく、寧ろ歯を食いしばって更に力を込める。するとそんな頑張りが漸く結果として現れ始め、頑強なプロテクトに少しだが罅が入り始めたかと思えば、それが放射状にみるみる全体へと広がっていく。
そして遂に――硝子のような破砕音と共にプロテクトは完全に崩壊した。
「よしっ! おらぁああああっ!」
プロテクトを破壊した勢いのまま更に横へダガーを振り抜く。するとプロテクトとは違って果梗部分はまるで糸でも切断するかのように容易く斬れた。
禁樹から解放された果実は、重力に引かれて地面に落ちていく。そしてそれは俺もまた同様で、果実切断と同時に引かれるように地面へ落下していく。
そこで俺は共に落下していく中で難なく果実を掴み取ると、何事もなく着地を決めた。
着地点にはサラスが笑顔のまま待ち構えており、俺は彼女に手にした果実を差し出す。
「取り戻したぜ、お前の力。さあ、受け取ってくれ」
力強く首肯すると、両手を差し出して果実を受け取るサラス。そして感慨深いのかそれをまじまじと見つめた後に、徐に果実へ一口噛り付いた。
続いて二口、三口と噛り付いていき、五度目で遂に完食。果実はサラスの中へ納まった。
すると彼女の胸の中心辺りで、まばゆい光が輝き始める。
温かく神々しいその光を目に、サラスはうっとりと目を細める。
「おお……感じるぞ。吾輩の中に、確かに力が戻ってきた。長らくだ……この時を長らく待ち焦がれ
ていた。きっと吾輩一人では、あと何十年かかってもこの時は訪れなかったであろう。琉人、吾輩の勇者よ……礼を言うぞ」
感涙が、止めどなく頬を伝い落ちていく。
それでも涙ながらに儚げな微笑を零すその姿はまさに神の名に恥じない美しさであり、その美貌に思わず見惚れてしまう。
だから気付くのに遅れてしまった。サラスの手が、徐に俺の胸へと延びていたことに。
「これは、ほんの気持ちだ。受け取ってくれ」
そう言ってサラスは俺の胸倉を掴んで強引に自分の方へと引き寄せると、そのまま俺の唇を奪った。突然の事態に、俺は驚きのあまり目を見開くしか出来ない。
小さいが柔らかく、それでいて熱を帯びた感触が唇から伝わってくる。その上、彼女の舌が俺の口内へ無遠慮に侵入してくる。それを俺は、何の抵抗も無く受け入れてしまった。
まさに溶けてしまいそうな程甘く濃厚なキス。その素晴らしく幸せな感触に浸っている間は、時が止まったかのような感覚すら覚えた。
いや、この瞬間がずっと続けばいい――心のどこかで、そう思う自分すら存在した。
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