迎撃
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ぎりっと奥歯を噛みながら、戦闘に備えて身構える。しかし、その時だった。
「おい、貴様。一人で随分と楽しそうではないか!」
上空から聞きなれた声が響く。その声に反応して視線を上に上げると、上空で巨大な光球を作っているサラスの姿が目に入った。その光球の大きさは、集落でゴリラこと間宮に放った一撃の大きさに負けずとも劣らない。
その威力の凄まじさ、この中では俺だけが知っている。顔を青褪めさせた俺は、反射的に大蔵たちから距離を取るべく後退した。
「よい子だ。それでは勇者諸君、存分に食らうがいい!」
高らかにそう言い放つと、サラスは光球を投下する。心なしか集落の時よりも早く見えるその光球はみるみる勇者たちに迫っていく。
「おいおい、こいつはやべぇんじゃねえか?」
「その様ですね。これは予想外……仕方ありません。迎撃しましょう!」
「おう、じゃあ、行くぜ! スキル――【激天竜槍】!」
「スキル――【彗星滅弓】!」
「スキル――【破城撃滅】!」
スキルによる必殺技を、三人はサラスの光球目掛けて同時に放つ。
大蔵のスキルは龍のように成形された衝撃波を飛ばし、東雲のスキルは彗星を彷彿とさせる強烈な一撃を放ち、小川のスキルは強力なオーラを纏った槌が圧倒的速力で一直線に光球目掛けて進んでいく。
如何に圧倒的破壊力を有するサラスの光球といえど、流石に三人のスキルによる一撃を受けて押し勝つことは出来なかったらしく、衝突と同時に大爆発を起こして敢え無く相殺されてしまった。
「マジかよ! たった一人で、俺たち三人のスキルによる合体技を相殺しやがった!」
「ええ、これは予想外ですね! 何という破壊力――流石は魔神といったところですか」
「けど、こんな一撃をポンポン見舞える筈がねえ! 次の一撃で――」
「次なんて無いっすよ?」
爆風に晒されながらも何とか態勢を立て直そうとする大蔵たち。そんな彼らの背後から冷たく残酷な声が響く。大蔵たちが気付いて振り返った時にはもう遅く、サラスの攻撃で出来た隙を突いて勇者たちの背後へ回っていたチェシャの爪による高速の一撃が炸裂した。
しかし、流石はあれほど大量の魔獣を屠るだけの実力を有した勇者たちと言うべきか、懐に入った上での高速斬撃でありながら辛うじて反応して見せた奴らは、遮二無二体を捻って回避を試みる。だが、それで躱せたのは身軽な大蔵と東雲のみ。重量級戦士である小川だけは躱しきれずに左肩から右脇腹へ抜けていく一撃を受けたのだった。
「小川! このぉ!」
即座に反撃に転じてチェシャ目掛けて槍を振るう大蔵。しかし、チェシャはひらりとした身軽な動きでそれを回避すると跳躍。大蔵たちの頭を飛び越えて俺の方へと戻ってきた。
「今の一撃で三人纏めて――といきたかったんすけど、仕留め損なっちゃったっす。残念」
「いいや、悪くない一撃だ。これであのデカブツは戦闘不能だろう。三対二、形勢逆転だ」
「お前ら……すまん、助かった!」
「気にするな。戦いにおいて敵の隙を突くのは定石の戦略。吾輩はそれに倣っただけだ」
「そうっす! 勘違いしないで欲しいっす! お前を助けた訳じゃないっすよ!」
サラスに同意しているチェシャだが……何だろう、二人の言葉は奇妙に噛み合っていない気がする。サラスもそれに気付いたか、可笑しそうに笑いだす。そしてそれに釣られるように、俺もまた戦場だというのに笑い出してしまった。
「何っすか、二人揃って! アタシだけ仲間外れみたいでズルいっす!」
「余裕ですね……スキル――【彗星滅弓】!」
そんな隙だらけの俺たちを待ってくれる筈もなく、東雲のスキルによる一撃が俺たち目掛けて圧倒的な速力で風を切りながら飛翔してくる。スキルによって攻撃力も速度も段違いに底上げされた強烈なこの一矢は、まさに彗星のよう。矢が纏う光が尾を引いている様が、彗星らしさに拍車をかける。
しかし、それにいち早く反応したサラスは迫りくる矢に向けて手を翳すと再び光球を生成する。
「跡形もなく消し飛ばせ――【破滅の光球】」
放たれた光球は真っ直ぐに矢へ進んでいく。そして正面から衝突すると、再び大爆発を起こして相殺されてしまった。
先ほどの攻撃の時にも感じたが、サラスの攻撃は――黒木たちの負の感情を吸収した影響で強化された影響か、将又威力を抑えている影響かは不明だが――スキルによって威力が底上げされた勇者の攻撃を相殺できる程の高威力を誇りつつ大幅に速度が向上していた。
あの欠伸が出るほどゆっくりだった攻撃が嘘のようである。
「おいおい、折角人が談笑しているのだ。温かく見守るのがマナーというモノだろう?」
「戦いにおいて敵の隙を突くのは定石の戦術――ではなかったのですか?」
「……ふんっ、口の減らないガキだ。可愛くない」
不機嫌そうにそう零したサラスは、再度光球を生成する。
「その口、二度と利けないように跡形もなく消し飛ばしてやろう!」
「そうはさせるかよ!」
「うおおおおおおおおっ!」
しかし、サラスと東雲の攻撃で出来た爆風の中から唐突に跳躍して姿を現した大蔵と小川が、サラス目掛けて落下してくる。そして落下によって威力を上乗せした一撃をサラスに叩き込もうと獲物を振り下ろす。
「――はっ! 『そうはさせるか』だと? それはこっちのセリフだ、バカ野郎!」
「そうっす! 魔神様には、指一本触れさせないっす!」
そんな二人を迎撃すべく、俺とチェシャが跳躍して立ち塞がる。
「――ちっ! どけええええええっ!」
「遅いっすね!」
気合の籠った叫びと共に繰り出された大蔵の槍による一撃を、チェシャはその鋭利な爪で難なく受け止めるとその槍を掴んで引っ張ることで強引に間合いを詰める。
「――なっ!?」
驚いて隙が出来た大蔵。その隙を見逃すことなく、チェシャは空いているもう片方の手を手刀にしてカウンターを叩きこむ。
「ぐぁあああああああっ!」
チェシャの手刀は大蔵の右肩を容赦なく深々と突き刺す。手刀が貫通した患部からは止めどなく血が溢れ、その激痛に耐えきれずに大蔵は顔を醜く歪めて絶叫した。
しかし、仲間を大勢殺されたことで怒り心頭のチェシャがここで容赦する筈もなく、追撃とばかりに手刀を引き抜いた反動のまま体勢を変えて大蔵に両足でのキックを叩きこむ。
俺との戦いやここに来るまでの移動で散々見せつけられてきたので俺にはわかる。チェシャの脚力は正直、人間のソレなど遥かに凌駕している。その脚から繰り出されるキックが並みの一撃である筈が無く、腹部に直撃を受けた瞬間に鈍い音を響かせた大蔵は吐血しながらふっ飛ばされて地面をバウンドしていった。
一方の俺も、小川の一撃を受け止め――るのは流石にリスクがデカいので、回避を試みる。
先のチェシャの不意打ちで、既に小川は手負い。そのせいで自慢の槌による攻撃は酷く遅く鈍いモノになっているため、見切るのは容易。難なく躱すと、俺はヤツがケガを負っている個所を狙って拳を叩きこんだ。
「がふっ!」
大蔵同様に吐血しながら吹き飛ぶ小川。その拍子に獲物である槌を手放してしまい、地面と激しく接触した際の金属音を立てながら手の届かない距離まで転がってしまった。
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また、本作遂に20,000PVを超えました。
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