幕間④ 男女
更新します。
その言葉が意味することは、考えなくても分かる。
このまま放置すれば、魔神はみるみる力を付けてやがては大量の魔獣を生み出すかも知れない。そうなれば、世界は本当に滅亡の危機に陥ってしまう。それだけは、何としても避けねばならない。俺がこの世界を手に入れる前に、滅ぼされて堪るものか!
「彼らはどこへ逃げたのですか? 如何に魔神とて、恐らくは復活したばかり。きっと今なら、まだ勝機はある。すぐに討伐隊を編成し、奴らが力を付ける前に討ちます。なので教えてください。奴らは、一体どこへ?」
「それが……分からないのです。映像は間宮様が敗北した瞬間で途切れており、それ以上の情報は掴めませんでした。しかし、既に王国領内には検問を設置して、彼ら二人に指名手配を掛けました。もし王国領内にいるのであれば、網に掛かるのは時間の問題。寧ろ問題は、彼らが王国領以外の場所に潜伏する選択をした場合です」
「王国領外に潜伏――まさか!」
「ええ、そうです。この大陸は、ほぼ全土に王国の威光が轟いております。しかし、例外の土地が一か所。それは、王都より西へ遠く離れた辺境の地の更に向こう側の一帯。初めて魔獣の出現が確認され、瞬く間に魔獣によって制圧されてしまった通称魔獣制圧区域です」
なるほど。流石は若くして王座に就く聡明な王女。目の付け所は悪くない。ここまで聞けば彼女の言わんとすることがよく分かった。
「今は辺境領に絶対防衛ラインを敷いているために、魔獣のこれ以上の侵攻を辛うじて抑えられている。だが、そこに件の魔神や高階が加われば、恐らく防衛線は崩壊してしまう。一方で増援を送ろうにも、そこは名前の通り魔獣が跋扈する危険地帯。無策で兵士の数を増やしたところで無意味。寧ろただ犠牲者を増やすだけという結果になりかねない。そこで、我ら勇者の出番という訳ですね?」
「はい。ですからお願いです。かの最悪の種、どうか魔獣制圧領へ逃れられぬように手を打って頂きたいのです。このようなこと、貴方様にしかお願いできません。どうか――」
「どうか顔を上げてください、クレア王女」
目を潤ませて、今にも泣きそうな程悲しげな声で懇願してくるクレア王女。そんな彼女を安心させるために、俺は彼女の手をそっと握りしめて自信を滲ませる笑顔で答える。
「分かりました。他ならぬ貴女様のお願いだ。どうして私に無下に出来ましょうか? 然る上は、この私自らへ魔獣制圧区域と進軍して直々に――」
「それはいけません!」
力強く言い切ろうとした俺の言葉を、王女が絹を裂くような声で遮る。普段お淑やかで清楚な印象を受ける王女からは、想像もつかないような声だった。
「どうされたのです? 何故、ダメだと?」
「そ、それは……」
言葉にし難そうに口を紡いて俯く王女。
しかし数舜の後、意を決したように力強い眼になったかと思えばまっすぐに俺の目を見つめてきた。
不安そうで、でも確固たる決意を固めたことが見て取れるこの目には、どこか心当たりがある。そうだ、俺に告白してくる女子の目によく似ているのだ。
「私、不安なのです。魔神が復活し、死んだ筈のあの男までもが復活した。まさに未曽有の危機が、この国に迫っているのです。そんな中で、この国における最強防人のたる天藤様が不在となるなど……クレアは怖くて仕方が無いのです」
柔和でありながら、どこか凛と筋の通った印象を見せていた王女。そんな彼女が初めて見せた弱音だった。こうなれば、放っておくわけにはいかないだろう。
ましてや彼女は、ゆくゆくは俺の妻となる女。ならば願いの一つくらい聞いておくのも、甲斐性というモノではないだろうか?
それに、今回はあくまでいるかも知れない奴らの探索と、魔獣共の討伐がメインとなる。となれば、俺でなくとも腕に覚えのある者を数名見繕って派遣してやればいい。
幸い、適任者もいる。それに魔獣制圧区域に一番近い辺境領を収めているのはあの男だ。あの男が居れば、最悪どうとでもなるだろう。ならば、ここは願いを聞いてやっても――。
「分かりました。私は王都に残り、クレア様をお守りします。代わりに、私が腕を見込んだ勇者たちを派遣致しましょう。彼らは強い。きっと要塞のような醜態は晒さない筈です」
「まあ、それは心強い。流石は、私の召喚に応じてくださった勇者様」
妖艶な笑みを浮かべると、王女はそっと俺の耳元へ顔を近付ける。
「強くて勇敢な英雄は、美女を好むと相場が決まっております。どうでしょう。貴方の前で微笑む女は、英雄の眼鏡にかなうと思われますか?」
何という大胆で魅惑的な誘い方。しかもクラスの女子では相手にならないくらいの蠱惑的とすら言える美貌を有する彼女からの言葉。その破壊力の前に、つい口角が緩んでしまう。
「ええ、勿論。英雄色を好むと言いますが、今私が見ている色は他のどの色をも超える極上です。その色を求めない英雄など、この世界にも私の世界にも居ないでしょう」
ふと周囲を見れば、いつの間にかクロエとかいうメイドは姿を消していた。
つまりこの広い広間には今、俺とクレアだけ。流石は王女のメイド、気配りも一級品だ。
俺はクレアをそっと抱き抱えると、そのままクレアの案内で寝所を目指した。
如何でしたでしょうか?
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今回で要塞建設編は終了となります。
明日より新しい章が始まりますので、お楽しみに。
宜しくお願い致します。




