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 サラスと目を合わせた俺は、精一杯の強がりで笑みを零して見せる。


「よう。中々このゴリラがしぶとくてな……お前には、こいつの消滅だけを頼みたかったんだが、しくじっちまった」

「ふん、吾輩に気を遣うなといった傍から独りでカッコつけおって! やはり貴様には、あとで目一杯説教が必要なようだな!」

「……厳しいな。これは後が怖い」

「ああ、手加減抜きだから覚悟しておけ! ……しかし、このゴリラが吾輩でも消滅させるのに手間取る程度には厄介な相手だったのもまた事実。そんな相手に貴様は一人で善戦して見せた――その雄姿、中々にカッコ良かったぞ」


 にっこりと優しく微笑むサラス。ただでさえ人並外れた美貌を持つ彼女にそんな表情を向けられただけでも直視が難しいのに、こうして酷く久しぶりに誰かに褒められたせいで余計に照れ臭くなって、ついそっぽを向いてしまう。そんな俺の頭を、サラスは笑顔のまま撫でまわした。

 しかし、そんな時間は長くは続かず、遂にゴリラはゆっくりと上体が地面に吸い寄せられるように倒れ始めた。


「――やばっ!」

「おっと、ぼやぼやしている時間は無いな。それに貴様一人にいいカッコさせていては、主人の名折れだ。そこで吾輩も、少しはいいところを見せてやらねばな」


 そう言って、サラスは俺の背中と足にその華奢な腕を回す――所謂お姫様抱っこの体勢である――と、そのままゴリラの頭部から跳躍。夜空に浮かぶ月にも届きそうな高さにまで飛翔して見せた。


「さて、吾輩の本気も少しは見せてやろう。さあ、刮目してみるがいい! 吾輩の必殺攻撃たるこの【破滅の光球(デストラクテッド・レイ)】をなぁっ!」


 サラスの背後から、その身の丈を優に超える巨大な球体が出現する。魔性を感じさせる真紅の輝きを放つそれは、まるで夜空に浮かんだ二つ目の満月のように幻想的だった。

 そして光球は、地に伏したまま動かないゴリラ目掛けて欠伸が出る程ゆっくりと直進し、数分かけて漸く着弾した。正直、拍子抜けするほど時間の掛かる攻撃であった。

 しかし、スピードこそ致命的に欠けるが破壊力は絶大。ゴリラの殴打など比較にならない程の轟音と衝撃、更には爆発を伴って炸裂した。地表を焼き尽くさんばかりの圧倒的破壊力を見せつけたこの攻撃によって狼煙のように高々と土埃と黒煙が巻き上がり、それこそ地表では何が起こっているのか皆目見当もつかない程に視界を奪われてしまう有様だった。


「これが吾輩の本気だ。どうだ? 凄いだろう?」

「いや、凄いけど何も見えねぇ……。ていうか、お前はこれを本当にキッチンで使うつもりだったのか? 俺は何よりその事実が怖えよ」

「ばっ、バカを言うな! 言ったであろう? 流石に手加減位するつもりだったと」

「……本当か?」

「そんな半眼でジッと見つめるでないわ! ええい、このまま叩き落として、もう一度黄泉の国へ逆戻りさせてやろうか?」

「ちょっ! バカ、揺らすな! 分かった、悪かった! 俺が悪かったって!」


 今の体力でこんな超高高度から落とされたら、多分無事では済まない。それこそ、本当に死んでしまうかもしれない……。

 強敵との戦闘を終えたばかりだというのに、危うく命の危険を味わう羽目になった俺なのであった。



「それにしても、凄まじいな……あの破壊力」

「ああ、そうだろう? だが、少しやり過ぎたかな?」


 漸く地面に戻ってきた頃には俺の体力も回復しており、自力で立てる程度には回復していた。自分の足で立って周囲の様子を確認してみれば、肉が焦げたような強烈な臭いが辺りに充満し、ゴリラの焼け爛れた焼死体が寂しく残るだけとなっている。地面に穿たれていたクレータはより深く大きなモノになっており、周囲に遭った住民たちの肉片も血溜まりも強烈な熱気の前に蒸発して失せていた。


「流石魔神様……というべきか。ていうか、こんな破格の力があるのなら、俺無しでもシュミルの勇者を討伐できるんじゃないか?」


 甚大な被害を齎した破壊力を目の当たりにした俺は、嘆息しながらそう零す。

 するとサラスは、やれやれと言わんばかりに困った顔を浮かべてため息を漏らした。


「バカを言え。仮にも神である吾輩だが、こんな破壊力を気軽にポンポン出せるものか! 先ほども言ったが、ここまで威力を上げるにはタメが必要。そしてその間、吾輩は完全に無防備になる。あのゴリラの習性から逃れるために隠れていたのは、そのためだ。それに見ただろう? あの速度の無さを!」

「……ああ、確かにな」


 破壊力に目を奪われて霞んでいたせいですっかり忘れていたが、確かにアレは遅すぎる。幾ら威力があって範囲が広くても、あそこまで遅くては防御態勢を整えるなり全速力で逃げるなり、対処法は幾らでもある。


「だからな、アレを使うには信頼に足る仲間が必要なのだ。そして吾輩にとってのソレは、貴様以外にあり得ん。自信を持て! 貴様は、たった一人で吾輩を復活させ、吾輩がその心根の強さを認めたただ一人の男だ。貴様無しでの戦いなど、吾輩からすれば論外だ」


 喝を入れるかのように背中を強く叩くサラス。その衝撃で思わず噎せ返ってしまったが、せき込みながらもこっそり笑みを零してしまう位サラスの言葉を嬉しく思う自分もいた。


「おっと、そういえば忘れるところだった」


 サラスは、ゴリラの焼死体の方へと向くと再び口を大きく開けた。するとゴリラからも先ほど同様に黒い靄のようなオーラが出現し、それがサラスの口の中へと吸い込まれていく。

 その全てを残さず飲み込むと、満足そうに口の周りを拭った。


「よし、これで完璧だ。思った通り、こいつの負の感情はまだ吸い残しが――っ?」


 突然バランスを崩してふら付くサラス。突然の出来事に驚きつつも反射で動いた俺は、何とかサラスが地面の倒れ込む前に抱き抱えることが出来た。


「大丈夫か? 気分でも悪いのか? それともお前も、力の使い過ぎとか……?」

「ふっ、心配してくれるとは嬉しいが、吾輩は大丈夫だ。どうやら奴にはシュミルの力も混じっていたようでな、それに少し中てられたらしい。それよりも、もっと由々しき問題があるのだが……貴様、どこを触っておる?」

「――えっ? あっ!」


 一瞬で血の気が引くのが分かった。焦っていて気が付かなかったが、俺の右手は言葉にしがたいほどに柔らかい幸せの感触を意図せずに堪能していた。

 俺の血の気が引くのに比例して、真っ赤になっていくサラスの顔。言うまでも無く、これはヤバい。間違いなく、蘇生して初めて避けようのない死の恐怖を味わった瞬間だった。


「さて、何か言い訳はあるか?」

「……ありません」

「では、何か言い残すことはあるか?」

「……できれば、手加減をお願いします」

「それは無理だな」

「……ですよね。ホントすんませんでした」

「うむ、謝罪の言葉は受け取っておこう。まあ、許さんがな。――ふんっ!」

「――がはぁっ!」


 サラスの全力の殴打を左頬に食らった俺は、水切り石の如くバウンドを繰り返しながら数十メートル後方まで吹き飛ばされた。ゴリラの一撃など目ではない、見事な一発であった。

間違いなく、サラスの肉体強化無しでなら死んでいただろう。魔神様からの一撃を魔神様の加護で耐え抜くとは……何とも奇妙な話ではないか。


如何でしたでしょうか?


宜しければコメントや評価、ブクマなど頂けると幸いです。

宜しくお願い致します。

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