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更新します。

どうぞご一読ください。

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺は解放されるんじゃないのか? それなのに死刑って、一体どういうことだ?」

「どうもこうもありません。貴方を正式に魔神の手先として認定し、死刑に処されることが決定しただけです。それ以上でも以下でもありません。何より、『魔神の手先』である貴方が解放されるなど、そんなことある筈がないでしょう」


 狼狽する俺に、クレア王女は凡そ温もりが感じられない冷たい口調で機械的に淡々と言い放つ。


「そんなバカな……だってクラスメイトたちが、いや勇者たちが進言したって――」


 必死に食い下がる俺の言葉に、くっくっく、という含み笑いの声が帰ってくる。

 この耳なじみのある声から繰り出される嫌味な笑い声を聞き間違えることなど絶対にない。何故なら俺は元の世界において、幾度この声を聞いたか分かったものではないのだから。

 声の主へ睨みつけるような鋭い視線を送る。するとそこには、やはりクラスの中心人物である天藤才人の姿があった。


「天藤……貴様一体何が可笑しい!」

「おいおい……そんな怖い目で睨むなよ。だって仕方がないだろう? だって今のお前の必死こいてる姿が、凄く間抜けで凄く滑稽で凄く面白くて仕方なんだからさ」

「――なっ!」


 天藤は心底楽しそうにケタケタと笑っている。

 それどころか、天藤に釣られるようにクラスメイトたちがこぞって笑い始めた。向けられる皮肉めいた笑顔の数々と嘲笑が、どうしようもなく俺の神経を逆なでする。


「笑うな……笑うなよ! 大体お前ら、俺を解放してくれるよう掛け合ってくれるんじゃなかったのかよ? 俺を助けて、全員で元の世界に帰還するんじゃないのかよ? そのために進言してくれたんじゃなかったのかよ?」

「はあああぁっ?」


 小馬鹿にしたような口調で、天藤が嘲る。


「そんな訳ないだろ、馬鹿じゃねえの? 何で俺たちがお前みたいなカスな極悪人を助けてやらなきゃなんないんだよ? そんなことして、俺たちに何のメリットがあるんだよ? まさかお前、自分に救われるだけの価値があるとでも思ってたのか? ホント自意識過剰過ぎだろ、笑うしかないわ! そもそも、帰還するためには魔獣を倒さなきゃいけないんだぜ? 何の能力も持たないお前なんてただのお荷物だから! 悪人の上にお荷物なお前なんて、いない方が俺たちのためになるに決まっているだろ?」

「……俺に、価値が無い?」

「当たり前だろ? 気付いてなかったのかよ? ホントにおめでたいヤツ。

 ああ、それとなあ、俺たちの進言っていうのは『高階琉人は元の世界でも俺たちを困らせるとんでもない悪人だったから、魔神の手先で間違いない。だから危険なんで、すぐに処刑した方がいいですよ』って内容だよ。しかもお前以外の全員の連名で提出してやった。間違っても『お前を解放してあげてください』なんて言わねえよ。分かったか、このバーカ!」


 天藤の口からは、俺を貶す言葉が湯水のごとくあふれ出してくる。

 その言葉一つ一つが俺の心を容赦なく傷付けて、砕いていく。

 だが、その前に天藤の言葉にどうしても引っかかる箇所があった。

 確かに奴は『俺以外全員の連名で進言した』と言った。それが本当ならば、つまり――


「……その全員の中には、三崎も含まれているのか?」

「三崎? ああ、勿論含まれているさ。当然だろう? 寧ろ、彼女は積極的に同意してくれたよ。尤も、今日は欠席だけどね」


 恐る恐る問い掛けてみれば、絶望を与えるには十分過ぎる効果がある最悪の答えが天藤から返ってきた。

 最初は嘘だとも思った。だが、彼女は『クラス全員で俺を助けるために動いている』という嘘を俺に付いた。手放しに信じることなど、到底出来ずはずがない。

 俺は、信じたいと思った人に、味方だと言っていた人にも裏切られたのだ。その事実を認識した途端、俺の心中に深い影と絶望が差し込んだ。同時に強烈な怒りが込み上げてくる。


「お前らの行動次第で人一人死ぬっていうのに、どうしてお前らそんな楽しそうなんだよ? 何でそんなに簡単に人を見捨てられるんだよ? それがお前たち全員の嘘偽りの無い意見なのかよ? お前ら、分かっているのか? 今お前らは、人殺しの片棒を担ごうとしているんだぞ? 救える命を見捨てようとしてるんだぞ? 今ならまだ間に合う。天藤に脅されているだけなら、周りに同調しているだけなら、すぐに撤回するんだ! そうじゃないと、きっと後悔することになる。人を殺したっていう事実と、ずっと向き合うことになるんだぞ? それでもいいのか?」

「必死過ぎだろ、お前! 都合のいい事ばっか言い過ぎ。ていうか、人聞きの悪いことを言わないでくれよ。俺がクラスメイトを脅す? そんなワケないだろ。だってみんな俺の友達。俺と心で通じ合った真の仲間なんだよ! お前と違ってな。だから、皆本心からお前に死んでくれって願ってんだよ。そもそも、お前はずっと俺たちに迷惑かけてきたんだ。いや、俺たちだけじゃない。他にも大勢の人に迷惑掛けたんだろ? なら、最後くらい皆の意見を尊重して潔く死ね。なあ、皆もそう思うだろ?」


 俺の必死の叫びを嘲笑する天藤の問いかけに、クラスメイトたちは各々で首肯する。そしてその中には、担任教師である花藤先生までもが含まれていた。


「先生、貴女まで……」

「何を言っているの? 当然でしょ? だってこれが皆の意見ですもの。生徒の意思を尊重して、生徒の自主性を育てる――それこそが教師の務めというものよ?」


 恍惚としたその表情は、自分自身の言葉に酔いしれているかのよう。そしてそんな彼女に向けて、天藤を始めとする生徒たちは黄色い声援と拍手を送る。


「教師の務め? 生徒を護ることも、教師の務めじゃないのかよ!?」


 花藤先生は、小馬鹿にしたように鼻で笑う。


「可笑しなこと言うのね。私は、私の生徒のことはしっかり守っているわよ? 

 だって、今私に声援を送るこの子たちこそが、私の護るべき生徒ですもの。そして高階君、私に文句を付ける君なんて、私に反抗的な君なんて、そして人に迷惑をかけるような悪さばかりする君なんて、私の生徒じゃないわ。そこまで性格の曲がり切った救いようのない悪い子なんて、私の生徒に相応しくない。だから、私には貴方を守る義務なんて無いわ」


 花藤鏡花は、味が無くなったガムを捨てるかのような淡白さでそう言い切った。

 薄々感づいてはいた。だが、ここに来て漸くはっきりした。この女は、ちやほやされている自分が大好きなのだ。皆に愛されて支持される自分が好きなのだ。だからこそ、自分の好感度のためなら平気で生徒を見捨てられるような女なのだ。

 花藤鏡花だけじゃない。思えば俺の周りにいるのは、ロクでもない奴ばかり。

 自分の感情を優先して子供を捨てる親、他人を都合よく利用することしか考えない元友人、自分の気に食わない生徒を死ぬまで追い詰める陰湿な優等生、長い物には巻かれろな精神で自分の意見を持たないクラスメイト、自分の人気と保身以外興味の無い教師、そして味方だと言っておきながら呆気なく掌を返して裏切る人の良さそうな女。

 思い返せば思い返すほどに思う。どいつもこいつも本当に――


「……最低な奴ばっかりだ」


 ぽつりと呟いて、憮然と全員を漏れなく睨みつけた。


如何でしたでしょうか?


よろしければコメントや評価等頂けると幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんで天藤なんかの言う事を信じて三崎のことを裏切り者って思っちゃうかなあ。自分をいじめてた人間と手当てしてくれた人間なら、手当てしてくれた人間を信じるべきだろうに。
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