異世界に勇者として転生したらヒロインが毒フェミだった件
「勇者なら、これぐらいやってくれて当然よね」
え、この国の人達は俺に魔王を倒して危機から救って欲しいんじゃないの?
気が付いたら俺はこの世界に転生召喚され、剣や魔法だのが使えるスキルを身につけていた。そして、この国は魔王に侵略されており、俺はその魔王を倒す勇者だ、というのは理解できた。
けれど、なんだか町の人の様子がおかしい。特に俺を転生させた王女は何かにつけて要求してくる。
「私達は魔王という権威主義者によって抑圧されている被害者なのです。あなたは勇者なのだから、私達のために自由を獲得してきて頂戴」
この後、俺はこの王女によって勇者として必要な最低限の装備ということで、銀行から35年ローンを組まされた。魔王を倒し、勇者として退職金を得ても払いきれない。しかもその装備の大半は王女の使う洋服や部屋の備品である。
しかし王女の話では、この世界での勇者は女性の為に尽くすのは当然だという。
「勇者なんだから、女のために奉仕して当然でしょ」
この文言で、俺はモンスターを倒してゴールドを獲得しても、全ての財布を握らされ、毎月3万Gの小遣いだけで戦わされた。
もちろんボスを撃破した臨時ボーナスもすべて奪われる。
「もう少し、小遣いを上げてくれよ! これじゃ魔王軍と戦っている時の昼メシも碌に食えない!」
俺は王女に懇願するが、王女はいつも冷たい。
「あなたは魔王を倒す仕事"だけ"をしているんだから必要ないでしょ。私は国民への挨拶に、友達とのお茶会、食事の手配、掃除の指示、お買い物、お洋服の手入れと、毎日たくさんやることがあって忙しいんだから! わかってよ!!」
勇者は魔王を倒すだけで……って、どう考えてもお茶会や挨拶より魔王を倒すために魔王軍と戦う方が大変だが、この国の女性にはそういう比較はできないらしい。
とにかく王女は自分がいつも大変だ、と自己主張を繰り返し、俺にそれを解決させようと次々と要求ばかりしてくる。自分で解決しようとは一切しない。
それでも俺は魔王を倒すために必要だと根気強く理屈で説明しようとすると。
「勇者の正論は聞きたくないわ! 私の気持ちを分かってくれない! もういい!」
と、これである。
俺はかなり不満だったが、それでも勇者として使命を果たすべく、毎日必死に戦った。
世界中を出張し、寝る間も惜しんで国を救うために戦う。
そんな中、俺はあるスキルが使えるようになった。
国の人々が、互いの連絡に使う魔法掲示板を見ることができるスキルだ。
試しに王女とその友人達が使っている掲示板を覗いてみる。
そこにはこんなことが書かれていた。
「勇者ったら家事を手伝わないのよ。勇者なら家事ぐらい手伝って当然じゃない?」
「それモラハラ勇者じゃん、わかるー」
「王宮にいられると邪魔なのよね、魔王戦で死んでくれないかしら。そうすれば保険金がたくさん出るのに」
「あー、私も年収600万G以上で身長170cm以上で剣と魔法が使える正勇者資格のある男を召喚できないかなー」
「最近いい勇者いないよねー」
「東の国の勇者とかよくない?」
「あいつ生理的に無理、マジキモい」
「ないよねー」
「あ、隣の大通りにトマトパスタの店ができたらしいよ」
「いくいくー」
「猫飼いたい、かわいー」
「だよねー」
その日から、俺は王女のいる王宮に戻らないことにした。
ただ黙々と魔王の城を目指す。
そして、俺はついに魔王の城までたどり着いた。
このまま魔王を倒せば、俺は国に帰るなり、魔王を倒した利益はすべて王女に奪われ、感謝されるどころか、用済みの認定を受けて放逐されるに違いない。
国の女達もそれを支持するだろう。
俺は勇者だ。モンスターではない。それぐらいの予測はできる。
「よくぞ来た勇者よ。ところで世界の半分は欲しくないか?」
「世界の半分はいらない」
「ほう、では戦うというのか?」
「いや、魔王は正しかった。俺も一緒に世界の毒フェミを滅ぼすよ」