恐怖の人体実験
“人間は眠っている時に、嗅いだ匂いの食べ物を目覚めたら食べたくなる。”
テレビか雑誌か忘れたけれど、ある偉いさんが言っていた。
私は、これが何故か興味深く、いつか試してやろうと頭の片隅に引っかかっていた。
ある休日の朝。
寝ている妻や子供たちの鼻に、焼きたてのロールパンや白米を近付けて反応を見ていた。
面白いもので、人間、どんなに深い眠りについていようが、強烈に嗅覚を刺激されると、バチっと目があく。
そして、すかさず。
「パンとご飯、どっち食べたい!なぁ、どっち!」
すると、ほぼ9割方、匂わせた食物を選ぶ。
人間というのは貪欲な生き物だ。
2択に飽きてきた私は、とうとう禁断の人体実験を行う意志を固めた。
それは、“臭い物を嗅がされた場合、何を食べたいと言うか?”だ。
本当は、ウコを嗅がしたいけれど、さすがに糞別のついた大人である。
そんな幼稚な事はしない。
その代用として、最近、妻から、「アンタ、最近、屁臭いけど大腸ガンちゃうん?」と言われている私の握りっ屁で試そうと思った。
いつもと違う非日常。
さすがに興奮を抑えきれない自分がいた。
尿意ではなく屁意を感じ、早速、実行に移す段取りをする。
心なしか、妙な背徳感を感じた。
私の大腸を通り過ぎたプルトニウムを右手に掴みこんだ。
最初の犠牲者。
いつも言い負かされる妻にしようかと思った。
けれど、最近、妻に似て私に対して口うるさくなってきた娘に決めた。
右手のプルトニウムを、そっと娘の鼻に近付ける。
若干、気のせいか手が震えていた。
「なんだ、お前、怖いのか?」
私の中の悪魔が囁く。
そ~っと、手を開いた。
すると、これまでにない位、バチっと目が開いた。
「臭っ!何、この匂い!」
私は、腹を抱えて笑い転げていた。
娘よ!お前の父親は、悪魔に魂を売ったんだよ!
娘の蹴りの連打が、私を襲う。
でも、そうされても十分なくらいの対価を得た私だった。
「なぁ、なぁ、朝ご飯何食べたい?」
この実験の真の目的を果たすべく、聞いてみた。
ま、まさか「ん~ウコかな」なんて言うんじゃなかろうかと、固唾を飲んで娘の返事を待った。
「なんも、食べたないわ!バカじゃないの!」
・・・そりゃそうだ。
というわけで、禁断の人体実験終了~!