ざまぁみろ!!
左右田莉李亜は夫である優太郎の報告を新婚旅行先のハリウッドで聴いていた。
報告は彼のはとこであり、莉李亜が不当解雇された原因である児木ふり男が精神病棟に入院する事になったと聞いた。
それを聞いても莉李亜は何の感情も湧かなかった。はとこである優太郎は少し悲しそうにそれ以上に諦めの気持ちを込めた溜息を吐いた。
「やっぱり学生の頃に立ち向かわずに大人しく虐めを受けていた事が間違いだったかな?」
「そうだとしても、あの男が精神崩壊したのは優太郎さんのせいじゃないわ。全て優太郎さんのはとこの自業自得よ。跡取りとしての椅子も子供が持てる未来も全部はとこが選んで捨てた物よ」
「……そうだね」
お人好しだった優太郎もはとこの愚行を聞いて流石に呆れ果ててしまった。もう一人のはとこだったりふ子も自慢だった美貌がすっかり衰えて同年代の女友達よりもかなり老け込んでしまったと聞き伝えてきた。
勿論厳しい尼寺の生活も理由にあるが、どうも彼女の元夫と我が子から電話越しではあるが絶縁宣言をされたショックが大きいらしい。
まだギリギリ違法ではないとは言え脱法ドラッグに手を出して不倫相手と乱交、挙句りふ子の火の不始末で息子を殺しかけた。しかも育児放棄をしたり軽い暴力を振るったりと虐待まで行っていたと聞いて怒りで強く拳を握り締めた程だ。
優太郎の親戚は二人の家族を含めて誰も二人に同情する者はいなかった。自業自得、因果応報だと誰もが口を揃えていた。優太郎も其処は同意している。
「それにしても莉李亜さんは彼にかなり苦労を掛けて本当にゴメンね。まさか交際を断っただけで解雇するなんて……」
「私も前の会社の専務が優太郎さんのはとこだなんて知らなかったもの。仕方がないわ」
本当は『恋人』ではなく『愛人』なのだが、それを言ったら流石の彼も怒るだろうから嘘を付いた莉李亜。
正直夫には秘密だがふり男の末路には愉悦だった。
幾ら友人達から『マリアナ海溝並に心の広い』称されている莉李亜でも流石に突然の解雇は頭にきた。しかも愛する夫を散々イジメていた相手だと聞いて余計に怒り心頭だった。が、その旦那自身怨んでいないと言うので渋々大人しくしていた。もし怨み言一つ言っていたら報復の一つはしていただろう。
そんな中、夫からの報告を聞いて莉李亜は心底スカッとした。天は間違いなく奴等に罰を与えたと夫がいなければ高笑いしていた。
『それにしても此処まで転がり落ちるなんて、絶対に第三者がいるわね。三人に怨みを持つ人間が』
流石に今の職場の先輩・上司達が関わっているは知らない莉李亜。それから夫の作品の実写映画の試写会の為に化粧や衣装を忙しく準備する莉李亜はそれから暫くふり男達の事を忘れてしまう事になる。
鈴野倫子はやっと熱が下がり穏やかに眠っている我が子の寝顔を眺めていた。
「お疲れ。後は俺が見ているからお前は休んで良いよ」
「ありがとう」
夫の言葉に甘えて夫が用意してくれた軽い夜食をツマミに軽く酒を嗜んだ。
「それにしてもお前も大変だったな。前の会社は仕事を押し付けられた挙句に、愛人にならければ解雇って今時、そんな会社あるか?」
「頭が可笑しかったのは前の専務を含めたごく一部で後は真面な人ばかりよ。現に前の会社から慰謝料貰ったでしょ?」
「まぁな……そう言えば先輩が今度倫子の前の会社の専務になるんだってさ」
「えっ?」
倫子の夫が言う『先輩』とは夫がお世話になっていた会社の先輩だ。
人柄が良く部下や上司、取引相手からも信頼が厚かったが、奥さんの御実家が会社をやっていてその手伝いをする為に周りに惜しまれて辞めていったが、まさかその会社が倫子の前の会社の事だったとは知らなかった。思わず大きな声を出しそうになるが、隣で寝ている我が子の顔が思い浮かんでなんとか押し黙った。
「偶々先輩と再会して立ち話していたら分かった事でよ……話の流れで分かったんだ」
「そんな偶然があるものねぇ~」
「それでさ。倫子を不当解雇した元専務……と言うか先輩の義兄のその後を聞いたんだけどさぁ」
そこから元専務であるふり男の自業自得の末路を倫子も知る事になったのだ。それを聞いて倫子は心底嬉しそうに満面の笑みとなる。
「おいおい。そんな人の不幸を喜んじゃあ駄目だろ」
「ゴメンゴメン。でも正直可哀想とか思えないわ。前の会社で働いていた時も傲慢な所があって嫌いだったわ」
「そっか。先輩も義理の兄貴とは昔っから性に合わなかったみたいだな。傲慢な所がある事は誰もが分かっていたから先輩が右腕となって窘めて上手い事舵を取って貰う予定が、本人のせいで全部ぽしゃった訳。まぁ正直先輩が社長になった方が全てにとって丸く収まる事だけどな」
倫子の夫の言う通り、その後専務となったふり男の義弟は非常に優秀で会社の発展に尽力し、社長になった後はふり男達のせいで一度は落ちた信頼や売上を落ちる前よりもアップさせる事が出来、社員達が働きやすい環境作りにも力を入れたお陰で有名なホワイト企業として有名となるのだが、それは又別の話である。
『親兄弟、同僚や上司や部下、血の繋がった子供すら見捨てられるって自業自得も一周廻って憐れね……同情出来ないけど』
その後少しぐずり始めた我が子を夫婦であやしながら三人川の字で眠りについた。倫子にとって我が子の寝顔見ながら愛する人と一緒に眠る時が一番幸せな瞬間であった。
『でもまぁ』
『あの三人は本当に』
そんな事を莉李亜と倫子が思っていたの同じ時に、会社の人間達が最後の乾杯の音頭を取った時に皆皆が思った事は同じ言葉だった。
『『『『ざまぁみろ!!!!!!』』』