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涙の屋上

 普段は入れない校舎の屋上で、コヂカは涙を手のひらで拭っていた。知らなければよかった真実なんて、この世界には沢山ある。コヂカは透明になることで、カヅキの生活を覗き見て、その一つを目の当たりにしてしまっただけだ。唇を伝いそうになる鼻水を懸命にすする。


「コヂカちゃん。どうして泣いてるの?」


 音もなく、ヲネは背後に立っていた。心配そうな眼差しでコヂカを見つめる。


「コヂカちゃんが悲しいと、ヲネも悲しい」

「ごめん……なんでもないの。1人に、させて」


 しばらくの間、コヂカが涙をすする音だけが響く。


「あの男の子? コヂカちゃんを泣かせたのは」


 ううん、違う。コヂカは声を出すことなく頭を振って否定した。


「じゃあ、あの女の人?」


 違う。勝手に勘違いしてた私が悪い。そう言いたかったが、言葉にはならなかった。


「ねえ、コヂカちゃん。教えて。ヲネ、コヂカちゃんの力になりたいの」

「だれでも……ない」

「ほんとにそう思ってる? ヲネの手にかかれば、なんだってすぐに消せるよ」


 舌足らずな高い声で、ヲネはそう言った。それでもコヂカが黙っているので、さらに彼女は続けた。


「3番目の、トレードの魔法を使えば、人間だって消せる。存在しない人間を生み出す代わりに、この世に生きている人間の命と取り換えるの。悪い子はみんないなくなって、コヂカちゃんをいじめない、いい子たちばかりになる」


 生贄。それがヲネの言ったトレードの魔法のリスクだった。あまりの恐ろしさに、コヂカは涙が引いていくのが分かった。


「さあ誰を消そうか。コヂカちゃんを泣かせた人を教えて?」

「だめ!!!!」


 そんなことできない。コヂカはそう思った。神隠しの力を使ったことは誰にも知られないのだとしても、それは殺人となんら変らないのではないか。その迷いがコヂカに強くヲネの言葉を否定させた。


「……そう」


 ヲネは残念そうに小さくそう呟いたが、すぐに元のトーンに戻って


「じゃあデリートの魔法で、二人の頭の中から恋人の記憶を消してみない?」


と言った。


「デリートの魔法はね、人間そのものには使えないんだけど、頭の中にある記憶には効くの。あの二人の頭の中にある『恋人』っていう概念を消したら、二人はこれまでと変わらないけど、お互いのことは好きじゃなくなってる。どう? いいアイデアだとは思わない?」

「それって、なにかリスクとかはないの?」

「もちろん、ないわ。ただお互いが恋人だったことを忘れるだけ」


 カヅキとユリカが、お互いの恋人モードを忘れて、付き合う前に戻る。それならヲネの出した妥協案も悪くないのかもしれない。


「じゃあ、お願い……」

「うん、まかせて!」


 コヂカの言葉にヲネは微笑むと、ぷっくりと頬を膨らませて目を瞑った。



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