4-10
それからというもの、私はつばさの店や秘密基地に何度も訪れた。
彼女は週に数度、この秘密基地に寝泊りしているらしい。なぜそうなのかは分からない。聞いても、「うーん」と曖昧にごまかされるからだ。
私は祐一にバレないように家を抜け出していたので、つばさに会いに行くのは命がけと言っても過言ではなかった。しかし、そこまでしてどうして彼女の元へ行くのかと言えば、彼女には不思議と人を惹きつける魅力があったからだ。
「さくらさんは、どうしてあの日店に来たの?」
つばさと出会ってから一ヶ月。
私たちはお互いの核心に触れないまま仲を深めていたが、ついに彼女の方からあの日のことを聞き出してきた。
「それは……」
私は一瞬、祐一のことを全部話そうか迷った。だって、良い歳した年上の女がDV男にハマっているなんて知られたら、笑い飛ばされてしまうかもしれない。
けれど私は、彼女ならどんな話でも受け入れてくれそうだという淡い期待もあって、Tシャツの袖をまくった。
「これ、彼にやられたの」
私の肩には青い痣がある。祐一はよく、私の肩をぐっと握る。そのまま潰してしまうんじゃないかってくらい強い力だ。「いたい」と漏らしてもやめない。やがて私の口から呻き声が漏れると、魔法が解けたみたいに、彼は「ごめん!」と謝り続けるのだ。
正直、痣を人に見せるのには勇気がいった。どんな反応をされるか分からなくて、怖かったから。
でも、つばさは私の予想通り、青い痣を見て眉をひそめた。
「……ひどいね」
彼女はポツリと一言。それだけ言うと、何か考え込むようにして自分の膝を見つめた。そういえば彼女、出会ったときから長袖に長ズボンだ。時々スカートの時もあるが、丈は長い。彼女の見た目から、もっとはじけた服装が好きなのだと思っていたから意外だった。
「ええ。でも、私が悪いのよ。そんな男でもまだ愛しているの」
そうだ。
本当に嫌だったら、いますぐ祐一を捨てて逃げ出せばいい。それなのに、私は考えることを放棄して、ただ彼を愛し続けている。
たぶん、私だけが特別なんじゃない。世の中には私と同じようにダメ男と分かっていても相手と別れられない人がごまんといるんじゃないか。
私はそこまで話すと、一度黙って呼吸を整えた。
彼女なら、「そういうこと、ありますよね」ってきっと慰めてくれるだろう。それでいいのだ。だから別れろとか、そんな男はやめた方がいいとか、気休めを言われるのはもう懲り懲りだったから。
私は、つばさの様子をじっと見つめる。
彼女はなぜか、いつになく不安げな表情でたっぷりと間を置いてから口を開いた。
「そんな男……捨てちゃえばいいのに」
「え」と耳を疑った。
根拠はないけれど、彼女なら共感してくれると思ったのだ。どうしてかと聞かれたら答えられないけれど、彼女が放つ、人を幸せにするオーラが私の心ごと包んでくれると思って。
それが、はっきりと裏切られた。
勝手に期待した私がいけないのだろうけれど、この時は人の気持ちを考える余裕などなかった。
「そうよね。あなたみたいに若くて可愛らしい子に、私の気持ちなんて分からないわ」
「……」
荷物をまとめて、秘密基地から逃げ出そうとした。つばさが、「待って」と口を開きかけたのだけれど、それよりも先にドンドンと扉が叩かれる音が響いて、とっさに振り返る。




