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ピクシプ男子となろう少女 上

 なろう活動期間がだいたい二か月の人間が思ったことです。けっして誰をも貶めるつもりはありません。あと絵師と物書きの違いはあるのかなと思い書いてみました。読んで頂ければ嬉しいです。

 春から私はこの学園に通っている。


 創作学園1年N組――通称「なろう教室」

 このクラスは小説を書くのが趣味の者たちが集まっている。

 アマチュアと舐めてはいけない。なんと在学中にスカウトにあいプロ作家になった者たちも多数いるのだ。


 ちなみにこの学園は氷河期もビックリのマンモス校で、在校生は1億人とも言われている。多すぎる? いやいや、何故ならこの創作学園は別の教室にも重複所属できるのでペンネームとかでどんどん在校生が増えていくのだ。

 休学してる子や読専っていうファンクラブもあるし、訳分からんほど大きい。


 え? 私の志望動機? そんなの決まっている。


 小説家になりたい。

 まあ、無理かなーって思うけんだけど、ほんのちょっとイケルかもとも思ってるの。

 あと入学無料だしね。いやー、タダで入学して小説書いて出版すれば大金持ち!

 アニメ、グッズ、コミカライズ!! 夢は無限大でウハウハなのだ。





 そう、そんな輝かしい夢を見た日々もありました――。


「もう、辞めるーーーーーーーーーーーー!!!!」

「落ち着いて、えたーなる」


 あちらで発狂している娘はペンネーム「えたーなる」ちゃんだ。

 不吉な名だが想像通り彼女はよく「エタる」――あ、エタるは有名言語なので詳細は以下略します。

 不朽未完の名作を世に送り続けてる彼女は1日1回こうして発作を起こす。もはやこの教室の名物となっている。

 

「だって、昨日更新したのに1000PVしかつかなかったし。ブクマ150も減ってたし。ねえ、これって死ねってことでしょ? 私の作品面白くないって言ってるんでしょ! んなの知ってるし!……私なんてもう死んだ方がいいのよ……みんな、そう言ってるのよ……」


「違うって、ちょっと展開がエキセントリック過ぎたと言うか……。幼女死んで年増インとか誰得テメー需要舐めてんの? クズエタ作家!! ってことなのよ。決してえたーなるが悪いんじゃないの。そう、時代が悪いのよ」


「そのキャラ25歳なのに年増BBA扱いヒドイー!! 私も25歳になる前にやっぱ死ぬーーーー!!! 作品全部持ってエタって死ぬーーーー!!」


「ダメー! 作品仕上げてから死ねーーー!! ねえ、南さんもコレ手伝ってよ」



 慰めの言葉で余計発狂する「えたーなる」さんを後目に私は席を立つ。

「ごめん、私もう小説書くの止めるから。――今日から休学するから」


 じゃ、っと短く言って教室を出た。後ろからは騒めきも聞こえない。この教室では毎日誰かが消えている。えたーなるさんのようにPVとブクマが沢山ついている人なら引き留めてもらえる。けれども、それ以外は誰も気にも留めないのだ。



 母に「ただいま」と言ってさっさと二階に上がっていく。

 自分の部屋に入るなり、私はベッドに鞄を投げ捨てた。


「PV1000とかで悲しむなんて馬鹿みたい……」


 こちとら三桁の数字を取ったこともないのに。もちろん更新しなきゃ0の日だ。


「ブクマも1000以上あるのに辞めるなんて馬鹿みたい……読者悲しむじゃん」


 こちとらブクマ2だ。ちなみに自分と母のスマホを拝借したもの。つまり0である。

 悲しむ読者など存在しない。


「あ〝----! まあ、いつ辞めても全然良かったし。つか単に趣味だし? 早く次の楽しい趣味でも見つければ……」


 ベッドに制服のままダイブする。枕に顔を押し付ける。湿っぽいのはきっと梅雨のせいに違いない。


  

 ――ゴンゴン 

 ――ゴンゴン

 ――ゴンゴンゴンゴン

 ――ゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴン  

 ――ゴゴゴゴゴゴゴオゴオオオオオオオオオオオオオオン

 ――ゴゴゴーゴゴーゴゴゴゴゴーゴゴーゴゴゴゴゴーゴゴーゴゴン


「うっるせー!! ちょっとは浸らせなさいよ!!」


 私は窓を蹴り破る勢いで連打する幼馴染を怒鳴りつける。

 勢いよく窓を開けた私に、許可も取らず勝手に入って来たのは隣の家の腐れ縁「レオ」だ。


 彼も創作学園に通っている。

 同級生にして幼馴染だがレオは1年P組――通称「ピクシプ科」に所属している。


「オー、邪魔するぜ」

「ほんと邪魔だわ。今日は相手する元気ないから早く帰ってよね」


 ピクシプ科はなろう教室とは違い、オリジナルもあるが二次創作物も盛んである。

 ピクシプ科にも小説を書く人はいるがレオは専らイラストを専門にしている。

 こういっては何だが、幼馴染から見ても綺麗な絵を描くスター絵師の一人。信者がわんさかいるし、レオが絵をあげると瞬く間にコメントとファボの雨あられだ。


「分かったよ、お前に渡すもんあっただけだ。ほら、これ」


 レオは青く染めた髪を掻きながら一冊のスケッチブックを渡してくる。


「なにこれ、また企業の依頼?」


 セミプロとして彼の元には某有名スマホゲームからもイラストの発注が来る。企業からいくら貰ってるのかは聞いてない。だって、悔しい。悔しいので課金してゲットしたそのキャラを周回で過労死するまでこき使っている。ザマ―ミロ。


 やっぱりレオも自分の絵を見て欲しいのだろう。頻繁に私の元にやって来る。そんで見せつけるのだ。自分の実力と人気のほどを。――この底辺作家擬きのこの私に。


 受け取ったスケッチブックはずっしりと重い。そして古臭い。


「違う、見ればわかる。……えたーなるに聞いたんだけど小説書くの止めんの?」


 私は小さく頷く。レオはあっそとだけ言って窓から本当に自分の部屋に戻って行った。私にスケッチブックを残して。



「…………なによ。それだけ?」


 慰めに来たのではないんかい。

 レオの有名なオリジナルキャラ――三つ編みの犬耳巨乳美少女――が描かれているのだろうか。いつもなら喜んでみる絵を今日は到底見る気にはなれない。私はスケッチブックを机の上に置き去りにして眠りについた。



 翌日、寝ぼけ眼で机に着き小説の続きを書こうとする。

 そして机の上のスケッチブックを見て気づく。そうだ、私小説辞めたんだった。

 伸ばした背筋を丸めて下を向く。あの教室に行くこともないし、今日からPVやブクマで一喜一憂することもない――。



「ヒマだし、レオ先生の絵でも見るか」


 別に見たくもないけれど、することもない。手持無沙汰なのだ。あとやっぱりちょっと見たい。


 だが、そこで見たのは私の期待する華憐な美少女たちの絵ではなかった。

 

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