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04話 人狼さん、神様に騙される

 次に目を覚ますと、そこは森の中だった。


(……ここは?)


 地面に仰向けで寝ているようで、視界には青い空とそれを遮る木々の葉が見える。

 木漏れ日が降り注ぐ中、まぶしさに思わず手をかざし、そして気づく違和感。


(? 私の手、こんなに大きかったっけ?)


 ぼんやりとした頭で考え、先ほどまでのやり取りを思い出していく。

 ああ、そうだ。この体、私の体じゃないんだった。確か新しい体は、人狼という亜人だったはず。

 そんなことを思いながら、かざした手をそのまま握りしめてみると、骨ばった筋が浮き出る。

 人間じゃないからなのかな、なんか男の人の手みたい……。

 ……?!

 いやこれ、モロ男の人の手なんじゃないの?!


 勢いよく起き上がり、そのまま首から下を見る。

 そこにあるのは見事に平らな胸と、それに続くがっしりとした下半身。どこからどう見ても、女性らしさの欠片も無い体が、そこにはあった。


(え? ちょっと、どういうこと?!)


 混乱しつつ震える手で触ってみても、現実は変わらない。柔らかさなど一つも無い、真っ平らな胸の感触のみが、事実を伝えてくる。

 諦めきれずに襟元の布を引っ張り、中を覗いてみるが、どう頑張っても女の胸には見えない。むしろ、程よく筋肉の乗った男らしい体が確認できただけだった。


「……やられた」


 下草の生い茂った地面に手と膝をつき、うなだれる。

 漏れ出た声も低い男の声で、これは下の確認をしなくても男の体だとわかる。


(完っ璧に騙された!!)


 それしか頭に浮かばない。


 人狼の件は、納得していた。

 けど、性別の話は聞いていない。まさか女じゃなく、男の体に転移させられるとは思いもよらなかった。というか、普通は思いもしないよね?!


「邪神め……」


 つい口から出たけど、この際、邪神認定で良いと思う。


 そういえば、黒狼の体を復元したとは言っていたけど、性別の話は一切しなかったよね、あの神様。

 だから意識もせずに新しい体は同性だと思い込んでいたし、それ以外は思いもしなかった。男の体だとわかっていたら、こっちも転移なんかしなかったし、断固と断っていたはず。

 それを見越して、故意に隠していたとしか思えない。

 だとしたら、あの神様、性格が悪すぎないかな?!


 そこまでして転移させたかったとか、すごい執念を感じる。 

 まぁ、神様曰く、漸く見つけた魂だもんね。男も女も関係ない。そりゃ、逃がすわけないよね。

 最後の満面の笑みを思い出して、更にうなだれる。なんだか物凄い敗北感を感じるんだけど、気のせいだろうか。


(いやー、元女子高生に男として生き直せとか、どんだけハードモードなのかなぁ?! やっていける自信が無いんだけど!!)


 思わず目頭が熱くなるが、この姿で泣くのはちょっと勘弁しいたい。

 鏡が無いから顔は見えないけれど、がっしりとした体格のいい男が女々しく泣く構図はいただけないし、自分だって見たくない。

 泣くぐらいなら、これからのことを考えた方が前向きでいい。というか、そうでも思わないとやってられない。

 迂闊に信じた自分が馬鹿だったんだしなっ!! 


 ……とにかく、転移は成功したんだよね。

 ということは他のクラスメイトやヒナも来ているはず。性別のことは一先ず置いといて、まずは現状をしっかりと確認しよう。

 うん、泣いてない。泣いている暇なんか無いよね。


 無言で起き上がり、衣服の確認をする。

 丈夫で厚い布の服に、皮で出来たと思われる胸当てと籠手、それにごついロングブーツ。

 肘の下まである籠手は、金属の板が縫い付けられていて、盾代わりとしての用途もありそうだ。

 そして両足の太ももには、ベルトで固定された短剣が一振りづつ装備されている。鞘から抜きやすいように、どちらも体の外側に沿うように取り付けられていて、これがこの体の武器だと認識する。


 そういえばこの体、人間じゃなく人狼だったと思い出し、おそるおそる頭に手をやり触って見る。

 あたたかいモノが手に触れ、同時にくすぐったさに動くそれが、「獣の耳」だと分かる。


「本物……」


 思わず口から出た低い音に、軽く驚く。

 落ち着いてから改めて聞いたけど、いい声してるよね。自分の声だということに軽く凹むけど。


 次に体をひねり、腰を見ると、そこには予想通りふさふさな黒い尻尾が。

 うん、流石人狼、立派な尻尾だ。

 この尻尾のせいで、武器が太ももにあるんだろうね。腰に剣をさしていたら、尻尾を振った時にぶつかって邪魔になるもんね。

 そんなことを思いつつ、つい尻尾をモフモフしてしまう。

 この感触、昔家で飼っていた大型犬を思い出すなぁ。メッチャ癒される。


 ……いや、確かに癒されるんだけど、同時になんだかもの凄く体に違和感を感じるような……?

 まあ、自分の尻尾を触るというあり得ない状況に、脳が追い付いてないんだろうね。これはこれで現実として受け入れて、徐々に慣れるしかないかな。男の体なのもきっと慣れるはず。うん。


 次に、足元に投げ出されていた袋を草の中から拾い上げ、中を覗き込む。

 替えの服らしきものと、数枚の金貨が入った小袋が一つ。これがこの体の持ち物らしい。これが多いのか少ないのかは分からないけど、心置きなく使わせてもらおうと思う。

 それを肩から下げて出発の準備をする。


 まずは最初の計画通りに、ヒナを探そう。

 というか、何でヒナのそばに転移させてくれなかったのかなぁ。余計な手間だよね。

 いや待て。

 この姿じゃ、隣にいても私だなんてわからないか……。


 もし、この姿でヒナの前に転移してたら、さっきみたいに確実にテンパってたと思う。だとすると、ただの怪しい人だよね。

 そんな相手に従姉妹や親友とかいわれても、簡単には信じてくれなさそうだ。

 しかも、周囲に他のクラスメイトも居るかもしれない状況なわけでしょ。

 どう考えても、ファーストコンタクトが最悪になるのは避けられなさそう。


 うん。よく考えた結果で、森に一人なわけね。

 仮に同性だったとしても、外見が全く違うわけだし、説明が大変だよね。

 というか、納得いく説明が出来る気がしない。最悪、巻き込まれで転移してきたことまで口走りそうだ。

 まず自分が落ち着いてから、ヒナ達と接触するのが望ましいという感じかな。思ったより考えてるんだね、あの神様。

 だからこそ、この性別詐欺は悪質過ぎるんだけど。


 神様の案件は……人狼や黒狼のイメージを改善すればいいんだっけ? それはその後でいいか。というか、いつも通りの私で良いっていう話だし、問題ないだろう。

 それでヒナを見つけて、事情を話して。


 ……話して、受け入れてくれるかなぁ。

 はぁ。





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