38話 人狼さん、ギルドへ戻る
詰め所を出て、冒険者の男性と共にギルドへと歩く。
すっかり日が傾き、仕事帰りの人達で通りが賑わっている。
そんな中を歩いていると、何やらこちらを見ながら盛り上がっている人達があちこちにいることに気が付く。
耳を澄まさなくても、優秀な獣耳が彼らの声を次々と拾ってくる。
「へー、あの黒髪が黒狼なのかい。犬系の獣人にしか見えないけどねぇ」
「おいおい、よく見な。金目だろ。一目で人狼だってわかるじゃねーか。それに今は獣人にしか見えないが、さっきまで二本足で歩く狼だったんだぜ」
「ホントかよ?」
「本当だって。真っ黒な狼の姿で女の子を抱き抱えて、詰め所に駆け込んでったのを見たからな」
「それじゃあ、人狼がオークの群れから街を救ったってのは嘘じゃないんだな」
「ああ。見てたやつの話だと、かなり強いらしいぜ。何人も助けられたってよ」
「残念。今は人の姿なんだな」
「私も見てみたかったねぇ」
……なんか、凄く注目されてるんだけど。
獣化したままだったらもっと注目されてたね、これは。
ヒナが倒れた後に気づいて獣化を解いたけど、回復師の人達にも珍しそうにみられたからなぁ。
彼女達が特殊なんだと思ったけど、何だか違うっぽい。
けど、おかしくない?
いつもなら目が合うとすぐに視線を逸らされるのに、今は何故かガン見されてるよ。
そんなに見ないでくれるかな、慣れてないんで恥ずかしい。
「どうかしたか?」
人間には聞こえないレベルの音量らしく、隣から不思議そうに声をかけられる。
こういう時は聞こえない方が良かったかも。
みんな人狼の耳が良いことを忘れてるよね。いや、もしかしたら知らないのかな。
「街の人間達の雰囲気が、いつもと違うような気がする」
「ああ、俺らの話がもう出回ってるんだろう。魔物相手に街を守ったんだから、そりゃ目立つし好感度も上がるさ。今回は規模が大きかったから、余計なんだろうな」
何気なくそう返されたが、そういうものなのかな?
確かに結果的に街の人間を守ったわけだし、そんな相手を非難するような恩知らずは普通はいないだろう。
そう思いながら周囲を見回すと、かなり街の住人達の空気が柔らかくなっているように思える。これって、今朝の雰囲気とは全く違う。
まぁ、今朝の私は寝不足で人を殺しそうな顔してて、余計に怯えられていたんだけど。
それを抜きにしても、なんかいい方向に風向きが変わった感じがするね。
「そうか……。このまま怖がられなくなればいいんだが」
そう呟くと、「気にしてたのか?!」と本気で驚かれる。
いや、普通に気にするよね? 失礼過ぎないかな。
いくら私でも、そこまでふてぶてしくないぞ。
「ま、これからは、そこまで酷くは無くなるだろうさ」
軽く笑いながらそう言われ、一番の変化を見せてくれた彼に頷く。
気づいてるのかなぁ、この人。
街に来た初日に出会った頃は、かなり警戒されてたんだけどな。
ここで笑顔をみせてくるとか、あの時と比べたら雲泥の差だよね。
なんかいいよね、この雰囲気。ありがたいじゃないか。
ギルドに到着し扉をくぐり、そこで冒険者の男性と別れる。
二人並んで入ってきたことにギルド内が一瞬騒めくが、それは無視。一々反応するのも馬鹿らしいし、相手も同じ意見のようなので、そのまま手を振り別行動となった。
私は朝の依頼の件もあるので、そのままニコラの元へと向かう。
丁度受付の椅子が空いているようで、ニコラに促されるまま座ると、「お疲れ様です」といい笑顔で迎えてくれた。
うん、何だか長い一日だったよ。
薬草を採りに行ったら幽世に迷い込んで幻獣のニケに出会い、雑談しながら現世に戻ってみたら街がオークに襲われていて、ヒナを助けつつ楽しくオーク狩り、とか内容が濃すぎる。
しかもイヴァリースの件やら何やら色々あったりで、イベント発生が多過ぎだ。こうやって並べてみると凄すぎる一日だ。
「ハイオークの襲撃にあったようですが、大丈夫でしたか?」
心配そうな顔で尋ねられ、「問題無い」と頷きながら返す。
実際、獣化して戦ってみたらあっけなかったし。オークとあんまり変わらなかったかな。
しかしまぁ、もうギルドにも話が回っているんだね。人の噂って本当に速いんだな、とつくづく思ってしまう。
「そうですか。怪我が無くて何よりです。今回は何人か死者が出たようで、心配していたんですよ」
「そうらしいな……」
「まだ身元はハッキリと判明していないようですね。出来ればギルドの被害は最小限で済むといいんですが」
そう言いながら、ニコラが頬に手を当てため息をつく。
私も詰め所で死人が出たと聞いたけど、やっぱり気分のいいものじゃない。
ニコラのように街の住人なら、私よりもっと感傷的になるのもわかる。
こうやって考えると、魔物の襲来は城壁で守られているこの街でも大ごとだったんだなと改めて思う。
ヒナの心配ばかりしていたせいで、憂い顔のニコラの表情を見ると若干罪悪感が沸く。
これからは、もう少し街の人達の心配もしとこう。これでも一応、お世話になっている身だしね。
「そういえば、ハイオークが街付近にでるとか、この街では普通の事なのか?」
オーク自体も街の近くで遭う魔物としては珍しいはずだけど、ハイオークは更にありえない。彼らの活動区域は、人間の少ない場所だとノアから聞いているのだ。
「いえ、初めての事です。その為今回は被害が大きいくなってしまい、大騒ぎになってますね」
「そうなのか」
だよね。あんなのが側にいたら、新人冒険者が育たないよ。
育つ前に死んでしまう。
「本当に最近は魔物が活発化しているというか……。今も動けるベテラン達には街周辺を巡回してもらってますが、これ以上何事も無いといいんですが」
そう自分に言い聞かせるように、ニコラが微笑んで見せる。
うん、やっぱり不安だよね……ていうか、え? みんなまだ働いてるの?
私も参戦した方がいいのかな。
「俺も巡回してきた方がいいのか? 一応無傷なんだが」そう問うと、ニコラが明らかに驚いた顔になる。
「クロウさんは十分に活躍しましたよね?」
「そうか? まだ動けるんだが」
そう答えると、思わずというように笑われてしまう。
「一番仕事した人が何を言ってるんですか。そのクロウさんが出たら、他の冒険者達の立つ瀬が無いですよ」
おかしそうに笑いながら、そう言われてしまう。
そっか、そういう風に見られちゃうのか。なら、大人しくしておこうか。
ひとしきり笑った後、にこりと微笑まれる。
「今回の件で、クロウさんの評価は上がったと思いますよ。私達が何か画策しようとする前に終わってしまいましたね」




