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31話 人狼さん、迷い込んだ模様

「ところで、ニケはどこまで内情を知っているんだ?」


 肉球に未練を残しながらも握手を解き、ポーカーフェイスのまま問うてみる。

 この顔の表情筋が死んでいることに、何度助けられたことか。

 中身の私がタダ漏れだったら、確実に残念なイケメンになっていたと思う。


「イヴァリースが黒狼を復元しようとして、中身を別世界にスカウトしに行ったというのは知ってるニャー。クロウがそのスカウトされてきた中身で、間違いないかニャ?」


「ああ、そうだ。イヴァリースが言うには、実験に付き合うのと黒狼のイメージを改善するのが俺の役目らしい」


 ふむ。大体の話は通っているんだね。

 私がこの体と別の意識体だと知ってるなら、話がおかしくなることは無さそうかな。


「ム、僕もそう聞いてるニャ。それと、イヴァリース的には復元の話は広める気は無い様だニャ。クロウは黒狼の生き残りとして口裏合わせるニャー」


「ああ、そうらしいな。人狼の里でもそう言われたぞ」


 そうそう。

 イヴァリースは復元出来ることを、この世界の人達にら知られたくないらしいんだよね。

 まだ実験中だし、他も復元してくれって頼まれるとメンドイとか言ってるって、神託聞いたノアが呆れてたからな……。

 

「今の所イヴァリースが復元したいのは黒狼だけのようだニャ。他は諦めたようだから、上手くいくといいニャ」


 うんうんとニケが頷く。


 え? 他にも絶滅した種族って、いるんじゃなかったけ?

 で、その中で黒狼だけ復元に成功したって言っていたような……。

 他は諦めたって、諦めるの早!


 まぁ、神様っていうのは気まぐれで自分勝手と相場が決まってるしね。好きにやればいいんじゃないかな。

 私はヒナと日本にいた頃のように生活出来れば文句は無いしね。

 まだそこまで到達してないけどさ。


「けど、ユーシスの体を復元するとは思ってなかったニャー。もっと人懐っこい個体がいたはずニャ。黒狼の印象を良くするのに、強面のユーシスはないニャ……」


 そう首を振りながら言われ、全力で頷いて見せる。

 私もそう思うよ。絶対この顔のせいで、しなくていい損をしていると思う。

 でも、この体の恩恵や強さには助けられてきたので、あながち悪い選択ではないのかとも思う。

 あの神様がそこまで考えてこの個体にしたのかは分からないけど。


「で、そのユーシスというのがこの体のオリジナルなのか? ニケみたいに顔見知りがいたらややこしいな」


「それは大丈夫、本体は百年以上前の個体だニャ。クロウのいる場所なら問題無いニャ」


「そうなのか」


 そういや、死んでるとか言ってたもんね。

 百年以上前か。なら、この体の知り合いに会うことは無いかな。


 一応人狼は人間と同じぐらいの寿命だし、他の亜人もそれぐらいだ。百年生きれば御の字と言われているから、他種族でもオリジナルの体の知り合いはいないだろう。

 いたとしても、亜人の中で長生きなエルフぐらいかなぁ。でも、彼らは他の人族にあまり興味を持たないから、絡まれることは無さそう。

 もし知り合いに出会ったとしても、他人の空似で十分通用するでしょ。というか、私がそう押し通す。説明するのが面倒だもん。


 それにしてもこの体、やっぱり古い個体だったんだね。通りで周囲から浮いてると思ったよ。堅苦しい口調にも納得だ。

 まぁ、みんな気にしないで接してくれてるみたいだからいいけどさ。

 私は地の口調さえ出なければどうでもいいんだけどね。


「ところで、ここはどこなんだろうか。いつの間にか別の場所に来てしまったようなんだが」


 周囲をぐるりと見まわすが、私のいた昼の世界はどこにも見当たらない。

 あるのは、不思議な光る木や花が咲いている夜の世界だけだ。

 ここって綺麗なんだけど、静かすぎてなんだか怖くなる。

 索敵が機能しないせいか、生き物の気配が全然しないんだよね……。


「フム。クロウは妖精の道に迷い込んだんだニャ」


「妖精の道?」


 なにそのメルヘンな名前。可愛くない?


「僕らのいる幽世かくりよと、クロウのいる現世うつしよを結ぶ道ニャ。普通は現世の住人は生きたままは通らない道ニャ。何故かクロウは、そこを通って幽世に来てしまっている状態ニャ」


 へー、そうなんだ。

 そういえば、幽世って聞いたことがある。

 それって死後の世界じゃなかったっけ? それか神域。黄泉の世界もあったはず。日本神話に出てくるよね。

 あと、生きたままは通らない道って……あ、あれ? 一気に怪しくなったんですけど?

 というか、また死んだの、私。え?

 やっとヒナに会えたのに、運無くない!?


「ちょっと待ってくれ。幽世というのは死後の世界では……」


「それは常世とこよだニャ。死者の住む世界だニャ。幽世は僕たち幻獣や神々が住む世界だニャ」


 え、そうなんだ?

 常世は幽世の別の読み方じゃ……ああ、これは日本の神話だったね。

 在り方が若干違うんだ。

 似ているせいで余計にややこしいな。一旦まとめてみようか。


 えーっと、幽世が神様や幻獣の住む場所で、現世が私達が住む場所。

 常世が死人の住む場所、という感じかな。

 で、妖精の道とやらは普通は通らない道で、たまたま私が入り込んで幽世に来てしまった、と。

 

「という事は、俺は死んでないんだな」よかったぁ。また死ぬとかシャレにならないよ。


「当たり前だニャー」


 呆れた顔でモノクルを元の位置に押し上げるニケ。

 その際にチラリと、なめし皮のような肉球が見えた。

 うおお、肉球可愛い……。


「俺のいた世界では、幽世と常世は同じ意味だったんだ。こちらでは別なんだな」


「それはややこしいニャ。まぁ、死んではいないから安心するといいニャ」


「ああ。それを聞いて安心した」


 いやぁ、良かった良かった。

 思わず胸を撫でおろす。


 そんな私から視線を逸らして、ニケがポツリと呟く。


「でも、人族じゃ自力で戻れないから、いつか力尽きて常世へ旅立ってしまうニャ……」


「は?」

 

 ちょ、それって、全然安心できない状況じゃん!







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