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30話 人狼さん、幻獣に声をかけられる

 無心になりながら、一人薬草を採取する。

 考えた結果、折角ここまで来たので、収納アイテム一杯になるまで採ることにした。

 ニコラも採れるだけ採ってきて欲しいって言ってたし、それでいいだろう。


 ……。

 ……。

 あー、しっかし眠い。

 ここにきて寝不足がたたったのか、草を毟りながら意識が霞んでくる。

 魔物は弱いし採取は単調作業で刺激が足りないし、更には天気が良くて暖かいから尚の事眠気に誘われてしまう。

 眠い目を擦りながら次の薬草はと足元を鑑定しながら歩いていると、その足元の風景が突然変わったことに驚く。


「っ!?」


 慌てて顔を上げるが、そこには今までいた雑木林とは全く違う景色が広がっていた。


 昼間だったはずなのに、目の前の世界は夜。

 木々の生えた森のようだが、その葉がヒカリゴケのようにぼんやりと淡く光り輝いている。

 しかも赤や黄、青など色とりどりの淡い光が木々の間に散らばっており、それが桜の花びらのようにはらりはらりと静かに散っていくのだ。

 光の粒が散るという、そのあり得ない幻想的な世界に茫然としてしまう。


 一体、どんなカラクリなのか。

 いくら異世界とはいえ、こんな景色は見たことが無い。

 夢の可能性を考えて頬を抓ってみるが、普通に痛いだけだ。

 という事は現実なんだけど……。


 無言で再度足元を確認するが、そこには小さな花々が咲き乱れ、それらも同じように淡く滲んだ光を放っている。

 夜でありながら見通しがきくのは、この光たちのお陰のようだ。


(……夢じゃないなら、ここってどこなの? さっきまで普通の空間にいたけど、ここは明らかに違う気がする)


 綺麗だが見たことのない景色に不安を抱きつつ、周囲を探る。

 ん? なんだか索敵が上手く機能していないような?

 周りの気配がぼんやりしていて、イマイチ把握できない。

 なんだか周囲に膜が張られているような、そんなもどかしい感じがする。

 これ、不味くない?

 私、元の場所に戻れるよね?


「そこにいるのはユーシスかニャ?」


 高めの可愛らしい声が背後から聞こえ、慌てて体ごと振り向く。

 うそ。全然気配を感じなかったよ!


 振り向くと同時にダガーに手をかけ、戦闘態勢に入る。

 そして声の主と対面する……が、予想外の存在に動きが止まる。


(……え。猫?)


 そこには不思議な生き物がいた。


 それは、二本足で立つシャムネコ……にしか見えない生き物。

 ただし、私の腰までの高さはあるだろう大きさだ。水色の瞳をきらりと瞬かせて私を見上げている。

 猫にしては大きすぎるし、佇まいに不自然さが無いことから、骨格が微妙に猫とは違うのだろうと察せられる。


 更に目を引くのは、その身に着けている服だろう。

 茶色いベストを身に着け、赤いブーツを履き、同じ色の羽根つき帽子を頭にのせている。

 右目には細い金縁のモノクル。

 それが、気取ったインテリ風の雰囲気を演出している。


 うわ、可愛い。

 可愛いけど、色々あり得ない。

 いくら異世界でも、こんな存在は聞いていない。


 でも、強いて言うなら、私達人狼が獣化した姿に近いような気がする。

 狼の代わりに猫で、大きさが半分以下だけど。

 ああでも、私達は体がもう少し人に近いかな。手足に肉球は無いし、人間に近いからなぁ。


「ムム。ユーシスじゃ無いニャ。それにユーシスは死んでたニャ」


 え、ちょっと、死人と間違えられてたの、私。

 ふむ、と顎に肉球を当て、私を上から下まで視線を往復させつつ観察してくる。

 その度に、髭と帽子の白い羽が揺れる。


 ああぁぁぁ、メッチャ可愛いっ。

 なにこれ。

 なにこのモフモフの可愛い生き物っ。


「成程。イヴァリースが復元したと言っていた黒狼の個体は、ユーシスの体だったんだニャ。この懐かしい気配も納得だニャ」

 

 フムフムと頷くが、私の耳には聞き捨てならない単語が聞こえた。

 その名前、心当たりがあり過ぎる。

 

「イヴァリース? その言いっぷりだと、君はあの邪し……神と知り合いなのか?」


「じゃし? 古い友人だニャ」


「ほう。仲間という事か」


「う~ん、仲間ではないニャ。僕は幻獣だから、存在が別ニャ。そうすると、やっぱり友人が一番ぴったりなんだニャ」


「幻獣……そう言えば、この世界にいると言っていたような……?」


 イヴァリースと出会った時に聞いたような気がする。

 人族の他に、魔物と幻獣がいるとか……ああ、思い出してきた。


 確か、互いに相いれないとか言ってたよね。

 魔物とは意思の疎通もとれないぐらい殺伐とした関係だけど、どうやら幻獣はまだ話が通じるっぽい。

 それに、イヴァリースの友人なら敵ではないだろう。


「そうだニャ。僕はケット・シーの一族で、ニケと言うニャ。よろしくニャ」


「そうか、俺はクロウだ。よろしく」


 差し出された肉球に戸惑うことなく手を重ね、握手をする。

 うおおぉお、肉球プニプニだ~。

 何で猫の手ってこんなに可愛らしいんだろうか。

 このモフモフ、癒されるよねぇ。

 あぁ可愛い、メッチャ可愛い!


 内心叫びまくりだが、私のポーカーフェイスは崩れない。流石だ。

 これで心置きなく悶えることが出来るね!


 ん? 待てよ?

 そういえば、ニケってどこまで知ってるんだろ?

 






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