03話 主人公、ごり押しされる
「ちょっと黒狼として人生やり直してみない?」
ついさっき事故で死んだ私を勧誘した神様のお言葉が、これです。
軽すぎません?
そんな、ちょとそこまで的な勧誘で済む内容じゃないよね?
固まっていると、可愛らしく小首をかしげてくる一般モブ外見の神様。あざとい。
「ダメかな? たった17年しか生きられなかった人生を、別の場所でやり直すのもいいと思うんだよね。ちゃんと責任もってアフターケアするし、滅多にないチャンスじゃないかな?」
いや、確かに私の人生短すぎたけど! まだたいして実感して無いけど!
けど、この話、不安要素が盛りだくさんだよね?
黒狼って、迫害か何かで絶滅してるんでしょ? そんな種族になって無事に生活できるわけ?
「あぁ、今は迫害とかはされないと思うよ? 仲間の人狼達が報復してたからね。だから亜人を迫害しようなんて思う馬鹿な人間はもう居ないし、それ自体が過去の話になってるし、大丈夫!」
「それ、安心できる内容じゃ無いですよね?!」
「え~そうかな? そんなこと無いって。過去のやらかしで、人狼達がちょっと怖がられてるだけだし。大丈夫、大丈夫」
「それのどこが大丈夫なのか、逆に聞きたいんですが」
「心配性だなぁ」
全然安心できない内容なのに、会話は更に続いていく。
人の話聞いてます?
「それでね、君には黒狼としてこう、日本人独特のお花畑思考……じゃなく、平和的思考でフレンドリーに振る舞ってもらいたいんだよね」
「さりげなく日本人をディスってません?」
「えっそんな事無いよ? 寧ろ褒めてるから。君達って気味悪いぐらいに親切だよね。おもてなし精神ってやつだっけ? それを駆使して、人狼っていうか黒狼は怖くないよーと世界にアピールしてもらいたいわけ」
「全然褒められてる気がしない……っていうか、何故そんなことしなくちゃならないんですか」
「そりゃ、次の黒狼達が生きやすいように環境を整えたいからだよ。さっき、実験に付き合ってほしいって言ったでしょ? 君が転移して問題無く生活出来る様なら、他にも体の復元と魂の勧誘をしてね、転移させるつもりなんだ」
「あー、言ってましたね、実験」
「うん。けど、無事に転移して増やせるようになっても、世界から怖がられたままだとまた迫害とかされそうでしょ? だから、君に黒狼の印象を良くしてもらう活動をしてもらおうかと思って」
にっこりと笑っておしゃっておりますが、なんか責任重大すぎませんか……。
一介の女子高生には荷が重すぎる案件だと思うのは、気のせいでしょうか!!
「大丈夫! 君なら出来る! っていうか、君以外に条件が合う魂が、僕の中では居ないんだよ! 僕としても疲れたし、もう妥協してもいいと思うんだ……」
そう言いながら正座のまま、力なく両手を地面につく。
いやいや、妥協して私とか、勘弁してください。
「え、ちょっと、なに投げだし気味になってるんですかぁ! もうちょっと頑張りましょうよ。そしてもっと良い魂見つけて下さい!」
「いや、もう無理……。いくら神様でも、自分の管轄外の領域は結構キツイ」
「じゃ、自分の所で探してくれませんか」
「居ないからこんな所まで来たんです」
むむ。正論過ぎて返せない。
言葉に詰まっていると、上目遣いでこちらの様子を伺ってくる。
「そんなに悪い話じゃないと思うんだけどなぁ。今はみんな心を入れ替えて仲良くやってるんだよ? 迫害されることも無いし。確かにやりすぎで人狼達がちょっぴり怖がられてるけど」
「そこが問題ですよね? 怖がられてるんじゃ、交流するのも難しいんじゃないですか」
「そこはまぁ、君の努力次第で頑張ってほしい」
「丸投げ?! 私、そんなに立派な人間じゃないし、他人の印象を良くするのだって無理ですよ」
「いや、そんな事無いよ。素のままでいいんだ、君なら大丈夫!」
「だから、どこからその自信が出てくるんですか……」
笑顔で太鼓判を押されて、胸のあたりがくすぐったくなる。
何を根拠にそう思うのかな。
自虐じゃないけど、私はすごい取り柄があるわけでもないし、人を引き付ける話術もない。自分自体が一般モブだと自覚している。そんな人間が、人の印象をおいそれと変えられるとは思えない。
「だって君、優しいでしょ。死んだと思った瞬間、自分じゃなく、他人の心配するなんて普通は出来ない」
その言葉に知らず伏せていた顔を上げると、にっこりと微笑まれる。
「強さとかは僕が後からあげられる。けど、心根は変えられないんだ。君のような歪みの無い優しい魂が、僕は欲しい」
「全然、普通だと思うんだけど……」
「それは君の見解だね。さっきから言っているけど、僕の中の条件には君しか当てはまらないんだ。君なら歪まないで真っ直ぐ生きてくれるし、僕の願いを叶えてくれる」
「なんでそう言い切れるのかなぁ」
「それは僕が神様だから、だね。僕は君を信じてる」
自信満々に言い切る姿はいっそ、清々しい。
そうだね、神様なら仕方ないか。きっと人間では考えつかない何かがあるんだろうし。
神様の信じる自分を、信じてみてもいいのかもしれない。
「それに、君が転移してくれないと、僕、ウソつきになっちゃうんだよね」
「はい?」
「実はね、君一人の転移って細かすぎて僕にはムリなんだよね。周囲を巻き込んでの転移になるんだけど、その範囲がちょうどバス一台分」
「え?」
「で、そのバス一台分には君の死んだクラスメイト達の魂が今も乗っていて、君が転移すると一緒に巻き込まれてついて来ちゃうんだ」
え? ちょっと待って。
私、バスの中じゃなくて、三途の川の河原にいるよね? それでもって、周りに誰もいないよね?
「あぁ、君、まだ川を渡ってないでしょ? 川を渡り切って本当の死を迎えないと、魂は現世と繋がったままだからね。だから君の魂はまだバスの中。あと、見えていないけど、彼らもここに来てるよ」
「川を渡った人は?」
「まだ誰も。というか、突然すぎてみんな渡りたがっていないし。死んだ自覚が無いと普通は渡らないから、事故死の人間は時間がかかるんだよね」
そういえば、私も川を渡ろうなんて思わないで、ヒナを探そうとしたよね。
それで、何がどうなってウソつきになるのかな?
「なので、君が転移すると、みんなが巻き込まれてしまうことは分かったかな?」
「ハイ」
「そんな彼らが、何かの拍子で自分がタダの巻き込まれのモブだと知ったら、どうなると思う? 後から色々面倒になると思うんだ。まず、転移した先の異世界が恨まれるだろうし、それって僕が恨まれるっていうのと同義語だし。恨みって嫌な負のエネルギーだから、行きつく先が不透明でね、必要以上にかぶりたくないんだ」
「でしょうね。ついでに私も恨まれますよね、それ」
「うん。だからそこは内緒にしてさ。一旦みんなを集めてね、『死んだあなた達は異世界に召喚されることになりました!』みたいに神様ぶって話したんだよね。そしたら、その場で盛り上がって盛り上がって。で、気づいたら、いつでも行けるぜ! みたいになっちゃってね」
はぁぁああ?! 何それ。
それって、私が異世界に行く前提の話だよね?! 何勝手に話し進めてるの。
「ちょ、何してくれてるんですかー! 私、まだ転移するなんて言ってないですよね?!」
「うん。だから君が拒否すると、皆の盛り上がりが無駄になるんだよね。僕としても、やっぱ無理でしたー大人しく死んで下さいwとか、神様の沽券にかけても言いたくないし、嘘つきになりたくないし」
困ったよね☆ みたいな顔してこっちを見ないでくれないかな。
勝手に話を進めたほうが悪いに決まっているのに、何故私が悪い、みたいな流れになってるのか。解せぬ。
「もうみんな行く気満々だし、元と同じ体もあっちに用意してるしで、君が来てくれないと収まるモノも収まらないんだけど」
「だから気が早すぎっていうか、なんでみんなそんなに乗り気なの?! ついでに、いつそんな話が纏まったのかな?!」
「僕も神様のはしくれだしね。同時に存在するとか朝飯前だし」
そう言いながら、得意そうに星が飛びそうなウインクをかましてくる。
「そうだった! 神様だったんだっ!!」
「いや、そんな力一杯に言わなくても。本当に失礼だよね。君。それがさ、最初は結構渋られてたんだよね。で、元の体も用意するし恩恵もあげるって話したら、みんな前向きに考えだしてくれてさ」
「ちょっと待って、恩恵? って何?」
「神様からもらった才能、みたいなものだね。それがあると、普通の人より生きやすかったりするんだ。巻き込んでしまったせめてものお詫びの気持ちかな」
「それだけで、そんなに盛り上がるかな?」
「あぁ、そこはちょっと精神いじくって一気に乗り気にさせたというか「うわっ! ここに犯罪者が!」
つい、ドン引きして言葉をかぶせてしまった。
いや、精神いじるとか、犯罪案件だよね?!
「犯罪ねぇ。それ人間の概念だし、僕には関係ないし」
「うわー……なんか、神様っていうより悪魔に見えてきた。っていうか、邪神?」
「失礼な。それより、親友のヒナちゃんだっけ? 彼女も乗り気だけどいいのかな? 断られると、君のせいで17年間しか生きられませんでしたって伝えなきゃならないんだけどなー。泣いちゃうかもなー、あー可哀そー」
あー辛い辛いとか言ってるけど、棒読みなんですが。
それと、なんかキャラ変わってない?
この会話、わざわざ私のせいでって強調してるけど、罪悪感持たせようって考えなのかな。
だとしたら、なんて姑息な……。
というか、どうせ、ヒナの精神もいじってるんだよね? あの子はこんな怪しい勧誘に乗り気になるようなタイプじゃないし。
ああ、ダメだ。
ヒナの名前を聞いたら、会いたくなってきたじゃないか。
周囲を見回してもやっぱり私達しかいないし、なんの気配もない。
(本当にヒナ達もここにきてるのかなぁ)
まさか、さよならも言えずに別れるなんて考えてもいなかったから、確かに未練はある。
更に言えば、会えずに別れるぐらいなら、転移してまた一緒に生きるというのも魅力的な案だと思う。
こんなチャンスは滅多にないだろうし。
うーん。ヒナが転移しても後悔しないように、私が頑張って努力すれば……問題ない、よね?
ちらりと正面を伺うと、自分の勝ちを疑わないような自信満々な顔と出くわす。
やだそのドヤ顔。ムカつくわぁ。
何かに負けた感が滅茶苦茶するけど、やっぱり私はまだ死にたくない。
そう、死にたくないんだ。
これが私の本音で、私の我が儘。
みんな、巻き込んでしまうけどごめんね。
でも、突然前触れも無く死ぬよりはマシだと思うんだ。
意を決し、口を開く。
「わかりました。その代り、ヒナを守れるように恩恵、でしたっけ? 私にも下さい。それが条件です」
「勿論あげるよ! そのつもりだったからね! いやー、本当によかったぁ。乗り気になってくれて!」
満面の笑みで私の両手を握り、上下に振りまくられて驚く。
これって握手のつもりかな? 無邪気に喜んで見せてるけど、こうなると確信してたよね? むしろ誘導してたよね?!
「好きで乗り気になったわけじゃないですけど。むしろ後半、脅されてたし」
「まあまあ、そこはね。とにかく、恩恵は奮発するから楽しみにしててもらっていいかな。あと、神託の恩恵持ちを向かわせるから、あっちで色々聞いてね!」
「え? ここで説明とかは? しないの?」
「君の気が変らないうちに転移させないとね! じゃ、頑張ってね、応援してるよ!」
え、ちょっとまだ色々確認したいこととか、言いたいことが沢山あるんですが?! 主にあなたに対する文句とか!
満面の笑みの神様を見ながら口を開こうとした瞬間、そこでぷつりと意識が途切れた。
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