28話 人狼さん、依頼を受ける
「うわ、いつも以上に凶悪な顔だな……」
宿の部屋に備え付けられている鏡を覗き込みながら、思わず呟いてしまう。
それもそのはず、鏡に映る私の顔がいつもよりも数段に凶悪顔なのだ。
原因は寝不足による目の下の隈。
元々眼つきの鋭い三白眼なのに、目の下に出来た濃い隈のせいで更に凄みが増してしまっている。
しかも眉間の皺がいつも以上に深く刻まれており、不機嫌さが一目でわかる風貌だ。
確かにいつも寝起きの顔は怖いよ?
でも、ここまで凶悪な顔になったことは無い。
見慣れた私でも引くとか、ヤバすぎないか。コレ。
あははは。今日はいつも以上に街なかで避けられそう。
私だって、こんな殺気を撒き散らしているかのような男には近づきたくない。
殺気なら消せるけど、寝不足はどうしようもないよね……。
ああ、想像しただけで気が重くなってくるよ。
外に出たくないなぁ。
さて、何故こんな状況になっているかと言うと、昨夜見つけたヒナの事が心配過ぎて眠れなかったからだ。
戦闘系の恩恵を持っていない人間が、冒険者やってる理由ってなんなの?
強制的に組まされているからなのか、ヒナ自身の意思なのか。
どっちにしても、危なっかしくて見てられない。
そりゃ、早く合流したい。私がいた方が絶対に守り切れる。
でもさ、あんなに周りに人がいたら、今の私の外見じゃ近づけないよね。
絶対に目立つし不審がられるに決まってる。
そんな状況で、どうやって怪しまれずに接触しようかなんて色々考えていたら、いつの間にか朝だった。
気が付いたら日が昇っていたとか、本当にあるんだね。
びっくりだ。
何だか考え過ぎて頭がぼうっとするけど、結局良い案の一つも浮かばなかったなぁ。
ただ時間を無駄にしただけだったよ。
このまま二度寝したいところだけど、色々買い物したせいで懐も寂しいし、仕事には行かないとね……。
さて、ダルいけど行くかぁ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
さて、やってまいりました冒険者ギルド。
仕事を探しに来た冒険者達でギルド内が賑わっております。
が、私の周りはいっそ清々しいほど人がいません。
まぁね、人殺しそうな顔した人狼がいたら、冒険者でも近づかないよね。
うん。分かってる。
気にしてないもん。ホント、全っ然気にしてないし。
それに、ヒナにさえ会わなければどうでもいい。
ヒナ達はケガ人が多くて今日は冒険者業は休みらしいから、この人を殺しそうな顔を見られる心配はないのだ。
え? 何で休みを知ってるのかって?
それはですね、偶然聞こえたんですよ。
ホント、たまたま聞こえてきただけなんですー。帰り道が同じだったから、そういうこともあるんだよ。スゴイヨネ。うん。
「おはようございます、クロウさん」
一人掲示板で依頼書を確認していると、にこやかな笑顔でニコラがやって来る。
周囲が何事だと驚いたようにどよめくが、一切気にしていないらしく、更に話しかけてくる。
どうやら昨日の案を実行する気らしい。行動が早いよね。
「ああ。おはよう」
「? 今日は雰囲気が違いますが、どうかされましたか」
不思議そうな顔でニコラが首を傾げてくる。
え、この凶悪さが醸し出されまくっている私を見て、それで済んじゃうんだ?
優しい顔して、相変わらず肝が据わってるなぁ。
なんたって、初対面で黒狼だと分かっても逃げなかった人だからね。流石だ。
「若干寝不足でな。それでいつもより眼つきが悪いんだ」
「ああ、それで。言われてみれば隈が浮いてますものね」
うんうん、と頷かれるが、ニコラ的にはそれだけらしい。
どうやら昨日の件で、かなり偏見無しで私を見てくれているようだ。
有難いよね、うん。
「ところで、昨日のお話なんですが、よろしいでしょうか?」
「ルカ達の事か」
改まった様子に、こちらも聞く体制に入る。
「ええ。母親と面会しましたが、どうやら過労から体を壊して寝込んでますね。風邪の方は落ちついたようですが、疲労が抜けずに体調が回復していないようです」
そうか、過労か。
母子家庭らしいから、無理して体を壊したのかも。
で、過労ってどうやったら治るの。ご飯食べれば元気になるのかな?
人狼は肉食べてれば元気になるんだけど、この世界の人間はどうなんだろ。
「食事で回復するものなんだろうか」
「そうですね……。食事も大事ですが、休養が一番効果があるようです。ただ、話を聞いたかぎりでは、寝ていても回復していないようなんですよ」
「医者に見せた方がいいのか?」
「医師の診察は値が張りますから、一般人では無理でしょう。薬を買うぐらいでしょうか」
小首をかしげ、思案するようにニコラが話す。
成程。
この世界では、庶民にお医者さんは高すぎて無理なんだね。
私も所持金が寂しくなったし、診察は躊躇するかも。むしろお金の心配をされて、ルカに拒否られるのが目に見えてるよね。
さて、そうなると、エイダの店で薬を探してくるのが一番いいのかな。
「あ、これ……」
「何だ?」
隣で依頼書を見ていたニコラが声を上げる。
「この依頼、今の話に丁度いいですよ。クロウさんにおススメです」
そう言って指さした依頼書の内容を読むと、疲労回復用の薬草採取と書いてある。
ふむふむ。
これだと依頼も達成できるし、ルカ達の母親の分もタダで手に入るよね。
私の懐にも優しいし、一石二鳥どころか三鳥だよ。
「これにするか」
「え? いいんですか?」
「自分で勧めておいて、何故驚く」
「いえ、そんな簡単に即決されると思わなくてですね、つい。まぁ、受けてもらえるとギルドとしても助かるんですけど……」
バツの悪そうな顔で言い訳しだす姿に、何やら裏があることに気づく。
「何か都合が悪い依頼なんだな」
「……ええ。勧めてておいてなんですが、労力の割に儲けの少ない依頼なんですよ、それ。定期的に来る依頼なんですが、いつも人気が無いので最後の方まで残るんです」
ちょ、そんな依頼を平然と勧めるとは、流石ですね!
目を逸らしながら話すニコラに、内心突っ込みを入れてしまう。
「今も残った状態なんだな」
「ハイ……」
そっかぁ。残ってるんだ。
そりゃ、ギルドの人間としては捌きたいよね。
うん。別に損するわけでもないし、丁度欲しい薬草だし、受けてもいいか。
「別に受けてもいいぞ?」
「いいんですか?!」
「ああ」
「助かります! ギルドとしても依頼が残るのは評判が悪くなるので、出来る限り捌きたいんです。すみませんがよろしくお願いします」
そう言って頭を下げられる。
そこまでされたら断れないよね。流石、分かってるな。
「しかし、人気が無いなら報酬を上げればいいんじゃないのか?」
「そうすると、薬の価格に響いてしまうんですよね……。街の人達が手軽に買えなくなってしまうんですよ」
「ああ、そうなのか」
「この薬草の採取場所は、本来なら弱い魔物の縄張りだったんです。それが強めの魔物が住み着いてしまい、初心者では無理な依頼になってしまいました。そのせいで効率が悪くなってしまって……」
ふう、と頬に手を当て、困ったように依頼書を見つめる。
そっか。元々初心者用の依頼だから報酬が安いのか。
報酬は固定されたまま魔物だけ強くなったんじゃ、確かに割に合わないよね。
「最近は魔物が活発化していて厄介なんですよね」とため息をつかれる。
ふぅん。
どうやらギルドも色々大変なようだね。
ニコラには良くしてもらっているし、昨日の件もあるから、私も冒険者として真面目にお仕事しようかな。
そういえば、これが私の冒険者としての初仕事だ。
よし、寝不足なんて言ってられないね。気合入れて頑張ろうかな!
ブックマークや評価、感想、ありがとうございます。
ヒナは見つけたけど、中々会えない主人公。
あともう少しで手が届く……ハズ。




