25話 人狼さん、協力者を得る
運転手さんとお姉さんのやり取りを見て、自分の浅はかさにがっかりする。
今現在、人狼が怖がられている状況なのに、自ら火に油を注いでどうするのか。
馬鹿なの? 馬鹿なんだろうね。うん。
街の人達の前で乱闘なんてしたら、大迷惑だろうし品性を疑われてしまう。
それでなくとも人狼というだけで第一印象が悪いのだ。
これ以上人狼の評判が悪化しないように、きちんとしないと。私が街で唯一の人狼という事は、彼ら人狼達の代表なんだから。
「クロウさんにも、初日で迷惑をかけてしまってすみません。人間と人狼の関係に影響が出ないといいんですが……」
「意外だな。気にしてるのか」
彼女の言葉に、素で驚く。
初日のギルド内の対応を見る限り、そんな考えは無いのかと思ったんだけど。
みんな怖がってるだけだったし、人狼と人間の関係はお世辞にも良いとは言えなかったよね。
「それは勿論、気にしますよ! 今の領主は、人狼との関係改善を進めてますから。その為にこの土地に送られてきた一族なんですよ」
へぇ、そうなんだ。
確かに人狼が集中して生活しているのはこの領地だし、問題を起こしそうな人間には任せられないよね。
だけど、その割には改善していないような。
「気にしててアレなのか……」
「ま、まぁ、人狼の冒険者という、初めてのケースでみな動揺してるんだと思います。害を加えられないと分かれば、過度な反応は無くなっていくと思いますので、もう少し時間を下さい」
そう言って、ぺこりと頭を下げられる。
そうか、この街じゃ初の人狼の冒険者なんだね、私。
しかも黒狼だもんね、そりゃパニックにもなるか。
でもさ、誰にでも噛みつく猛獣みたいな扱いは無いと思うんだ。同じ人族として扱って欲しいよ。
それでもこの人は、冒険者として私を受け入れてくれる気はあるようだ。
それなら、報復する気も危害を加える気も無いと、きちんと説明しておいた方がいいよね。不安要素は少ない方がいいだろうし。
「俺、というか人狼もなんだが、過去にあったことは水に流して人間達と接しているつもりだ」
そう言うと、驚いたように目を見開いて私を凝視してくる。
「誰も過去の事で恨んでいない」
「え? それって」
「君達は信じていないようだが、俺達にはすでに終わった事で、蒸し返すものではないと考えている。なので、誰も人間相手に報復する気が無いということを分かって欲しい」
「そう、なんですか? ……エイダさんの言っていた通りなんですね」
そう呟いたまま、あごに手をかけ考え込む。
ああ、この人、エイダの話を聞いたことがあるんだね。
だからあまり私を怖がらないのかな。
これなら、他の人間より話を聞いてくれそう。
「ただ、人間に怖がられているのは知っていたからな。だから俺達も距離を取っていたんだが、まさかここまで誤解されているとは思っていなかった」
「確かに、同じ人族に対する接し方ではないですよね……。闇雲に怖がってますものね」
「俺は出来ればその恐怖感を緩和したいと思っている。今の所人探しとそれが、この街へ来た俺の目的だ。なので、俺から危害を加えることは無い。そこは安心して欲しい」
「成程。貴方の目的は分かりました」
私の思いを伝えると、お姉さんがキリっとした顔で見つめてくる。
よく分からないけど、やる気が伝わる……いや、すっごいやる気に満ちてません?
薄紫の瞳が輝いてるんですけど。
「人狼との関係改善は、領主の方針でもあり国の方針でもあります。また、私も常々そう考えていた側の人間です。クロウさんのお話が本当なら、私達にとって大変にありがたいことです」
ほほう。
国も関係悪化は望んでないんだ。それは知らなかったな。
というか、お姉さんが最初から関わってこようとしていたのって、関係を良くしようと頑張ってくれていたからなんだね。
「なので、まずは私とクロウさんとで交流して、互いに理解を深めませんか?」
「俺と?」予想していなかった言葉に首を傾げる。
「そうです。実はですね、現在、貴方の受付に回ってもいいと思っている人間が、ギルド内には私以外にいない状態なんです」
「そこまで酷いのか」
「はい。ですので暫くの間、私がクロウさんの専用受付になろうと思います」
「まぁ、他に対応する人間がいないなら、それがいいだろうな」
そう呟くと、お姉さんも頷いてくる。
カウンターに行く度に、一々怯えられてたらかなわないよね。
そのせいで更に私のイメージが悪くなりそうだし、そうやって誤解が広がっていきそうな気がする。
「そこからみなさんに私達のやり取りを見てもらいましょう。貴方が普通の冒険者だと分かれば、彼らの誤解も解けるのではないかと思うのです」
「確かに、まずは俺が危険対象ではないと理解してもらわないと話にならないな」
「ええ。その後、冒険者達に話を広げ貰おうかと。噂と言うのは足が速いですし、この件を早めに解決できるかと思われます。……ということで、この案はどうでしょうか?」
「それは俺が助かるんだが、そちらに問題はないのか?」
私にかまけていたら、下手したらお姉さんも孤立しちゃうんじゃないのかなぁ。
本当にそれで大丈夫?
「私もこの道のプロです。底辺の冒険者も日々相手にしていますからね。多少の荒事では揺らぎませんし、寧ろ日常茶飯事で手慣れています。心配する必要はありません」
そう言って、上品ににっこりと微笑まれる。
んん? 若干、お姉さんの台詞が不穏な気が……。
けど、ここはその道のお姉さんに任せた方が絶対に良さそうだよね。
「では、その案でよろしく頼む」
「ええ。お互いに上手くやっていきましょう。冒険者の大半は脳筋……いえ、説得可能な柔軟な考えの持ち主です。すぐにでも誤解が解けますよ」
頑張りましょうね、と優しく微笑まれたけど、台詞に不安な単語がチラホラしてるような……。
兎に角、私は良き理解者を手に入れたようだ。
これでギルドでの立ち回りは楽になりそう。
やったね!




