19話 人狼さん、戸惑う
チンピラ風の男達が、道の真ん中で華麗なる土下座ショー。
土下座なんて、十七年間生きてきて初めて見たよ。
え? なにこれ。
もしかして私、滅茶苦茶目立ってない?
「すみませんでした! 子供相手に調子乗ってました! ついでに亜人だと思って見下してました! もうしません、反省します!! なので殺さないで下さいぃぃぃっ。すみませんすみませんすみませんすみませんすみません……」
がくがくと震えながら、壊れたように「すみません」が繰り返される。
しかも、三人とも、だ。
なんかこの人達、勝手にゲシュタルト崩壊気味なんですけど……。
どこの某労働党の仕業だよ。あ、私の仕業か。
いや本当。
ついさっきまで子供相手にあんなに強気だったのにね。
あの威勢のよさは一体どこにいってしまったのか。
そのあまりに情けない姿に、私のテンションが水をかけられた炎のごとく消え去ってしまう。
「わかったのならもういい。さっさと立ち去れ」
あまりの見苦しさにそう捨て置き、少女達へと視線を向ける。
あーあ。
せっかく集めた野菜たちが踏みにじられてるよ……。
地面に泥だらけになって転がっている野菜くずたちを見て、むなしい気持ちになる。
この子達が何かしたのかな? こんな仕打ちをされる理由が分からないよ。
「大丈夫か?」
そう言いながら恐る恐る姉妹たちの前へ進む。座り込んだまま私を見上げるが、その目には怯えた色は無い。
良かった。
泣かれることは無さそうだ。
ついでに少しでも怖がらせないようにと、片膝を地面につき身を低くする。
そのまま目の前の幼女の手を取り、立たせて服の埃を払ってやる。
「あの、ありがとうございます」
自力で立ち上がった少女が礼を言いながら頭を下げ、それに釣られるように幼女も頭を下げてくる。
その横で、腰を抜かしたまま男達が逃げ出していくのが目の端に映った。
そして、遠巻きにチラ見する人々。
うーん、なんてシュールな光景。
「怪我は?」子供達の状態を確認しつつ聞いてみる。
「な、ないです。リリーは? 大丈夫?」
「うん、大丈夫! ありがとう、お兄ちゃん」
戸惑いながらもきちんと答える少女と、元気に返してくれる幼女。うん、可愛い。
幼女の尻尾が、嬉しそうにブンブンと左右に振られているのが見える。
子供だからかな、感情がタダ漏れだ。
「そうか、良かった。……そういえば、君達は俺が怖くないんだな」
街での今までの反応を思い出し、首を傾げる。
事情を知らない日本人のミナちゃんや運転手さん以外は、みんな私を怖がってたんだけど。
「ぜんぜん怖くないよ! お兄ちゃん黒狼でしょ? 黒狼はカッコよくてつよいんだよ!」
んん?
何やらこぶしを握りしめ、力説してくる。目をキラキラと輝かせ、鼻息荒く興奮気味だ。
幼女よ、一体どこの黒狼さんと間違えてるのかな? とは言え、私以外、黒狼はいないはずなんだけど。
困惑気味に少女に助けを求めると、すかさず説明をしてくれる。
「昔のお話にあるんです。黒狼が亜人を助けてくれるっていうお話」
「うん! わるい領主にいじめられてたみんなを助けてくれるの! お兄ちゃんも助けてくれたでしょ? 黒狼はつよいよね!」
な、成程。
昔の強くてカッコいい黒狼さんの事なのね。
私の場合は、あっちが勝手に逃げて行っただけなんだけどな。つい、苦笑してしまう。
笑った私に釣られてか、幼女もくすぐったそうに首をすくめて笑い出す。
へぇ、本当に私が怖くないんだ。何か嬉しい。
が、途端に悲しそうに顔を歪ませる。
「でもね、さいごはわるい領主にころされちゃうの」
何だってぇ?! ハッピーエンドじゃないのか! どこの残酷物語だよ!
「それを聞いたもりの人狼がおこって領主をころしちゃうんだ。もっとはやく助けにきてくれたら、黒狼もしななかったのにね」
本気で悲しそうな顔をする幼女を、少女が慰めるかのように頭を撫でる。
ちょっと待って。
どこかで似た話を聞いたことがあるような。
あれ? その話って本当にあった話じゃないの?
確か里で聞いた話によると、代替わりした領主に黒狼が迫害されて絶滅して、その領主と関係者を皆殺しにしたのが人狼だったはず。
そうか。
過去にあった話が、今もそのまま伝わってるんだね。
「だからね、悪いことをしたら狼にたべられちゃうんだよ。黒い狼はすごいこわいんだって!」
「えぇ……」
「すみません、子供はみんなそうやって親に怒られるんです。本当にすみません!」
幼女の言葉に慌てたように少女が謝りだす。
そ、そうなんだ。
まぁ、黒狼本人を目の前に話しちゃったら、気まずくなるよね。
「別に謝らなくていいぞ。怒るほどの事でもないしな」
「はい、すみません……」
そう言いながら、更に頭を下げてくる。
そんなに気にしなくても大丈夫なんだけどな。
しかし、みんな、か。
そうやって聞いて育ったから、この街の人達はあんなに怖がっているのかもね。
悪いことをしたら黒い狼に食べられるって、黒狼が報復に来るイメージだしねぇ。
今も昔話で残っているとなると、黒狼や人狼のイメージを改善するのは大変そうだ。中々に厄介だね。
そんなことを真剣に考えていると、くぅぅ~と可愛らしいお腹の音が聞こえてきた。
音がした方に目を向けると、そこには顔を真っ赤にした少女。そのそばで、幼女も「お腹減ったね」とお腹をさすっている。
ああ、そうだよね。晩御飯を集めていた最中だったもんね。
それが無くなってしまったんだった。
うん。乗り掛かった舟だ。
奢ろう。
ここはそういう流れでしょ。
というか、これで見捨てたら鬼じゃん、私!
お読みいただきありがとうございます。
次回、奢る気満々の人狼さん、何やら決断するようようです。
宜しくお願いします。




