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11話 人狼さん、出立する

 それから一か月後。

 私とノアは森の入り口に佇んでいた。


 なんで一か月も経っているかって?

 そりゃ、3日で獣化出来なかったからだな! 前回のフリは何だったんだって言うぐらいにボロ負けでした!

 で、約束通り人狼の里に連れていかれて、人狼達に大歓迎受けてたよ!


 その内容と言えば、ジジババの昔話に付き合わされて一日中放してもらえなかったり、代替えしたばかりの総領にオニイサマと呼べと理不尽な要求されたり、獣化の修行だと入れ替わり立ち代わりで里のみんなに構われて、何が何だか分からなくなったりと、怒涛の一か月だったよ!


 他にも、黒狼という今は無き種族のせいか、女の子達にやたらとモテまくった。

 空前のモテ期到来だったけど、中身同性な私としては、全て紳士的対応でやり過ごさせていただきました。

 外見上はノーマルカプだけど、私の中じゃ百合モノだもん、しょうがないよね。

 

 みんな受け入れてくれて友好的だったけど、獣化出来た後は剣の腕を上げた方が良いやらもっと常識を身に着けろやら言い出して露骨な引き延ばしにかかる始末。本気で里から出してもらえないかとビビったよ。

 ノアがフォローしてくれたから良かったものの、ここまでくるのが本当に長かった。


 思わず遠い目になりながら「漸くここまで来れたんだな……」と呟くと、「なんか色々すまんかった」とばつが悪そうな顔で、視線をそらしながらノアに返される。


 途中でノア的にもこれはヤバいとなっていたらしく、何かあるごとに「こいつは里を出ていくんだからな!」と釘は刺してくれていたんだけど、誰も聞いていないっていうか、みんな聞き流してたからね……。

 何故か大量の大型犬に構って攻撃を受けて、身動きできないどころか押しつぶされた過去を思い出したけど、狼も犬も同じだからしょうがない。

 

「まぁ、あいつらも悪気があった訳じゃなくて、純粋にお前を構いたかったというか、そんな感じなんで許してやってほしい」


「それは十分に理解してるから、気にしなくていいぞ」


 ジジババの昔話で、どれだけ黒狼が待ち望まれていたのかも知ったし、里での交流で人狼の仲間意識の強さも直に感じた。

 中身の自分が人狼どころかこの世界の人間でもないと知っていても、他の人狼と同じように扱ってくれた人々を嫌う理由はないと思う。


 差別は無くなったが人狼自体が恐れられており、確実に孤立すると心配するお年寄り達を、それを緩和させて次の黒狼が暮らしやすくするのが自分の役目だと説明すると、泣く泣く外に出してくれた。

 

「それに、みんな色々と教えてくれたからな。時間はかかったが、逆に良かったかもしれない」


「そう言ってくれると、俺としても助かるわ」


 あいつら、はしゃぎ過ぎてたからなーと、何を思い出したのか苦笑する。心当たりが沢山ありすぎて、こちらも一緒に笑ってしまった。

 うん、みんな気さくで楽しい奴らだったよ。

 ただ、女の子達が肉食系過ぎて、貞操の危機が何度かあったけどね……。オンナノココワイ。


「生活の基本は頭に入っているだろうし、獣化も難無く出来るようになったよな。もう心配ないとは思うが、無理すんなよ」


 俺が案内できるのはここまでだ、と彼方に見える街らしきものを指さす。


「この一か月で情報を集めた結果、ヒナという少女はあの街で冒険者として活動している。お前の恩恵も戦闘寄りだし、冒険者としてやっていくのが無難だろうな。本当は俺も付いていきたいんだが、人間の街に人狼二人はちょっとなぁ……」


 だよねー。

 人狼一人でも目立つのに、それが二人。しかもどっちも男だし、一緒に街に行ったら何事だと確実に警戒されるよね。なら、自分一人の方が活動しやすいと思う。


 しかもこの体、威圧感が半端ないんだよね……。鏡で初めて対面した時、本気でビビったし。

 多分、目つきの鋭さとガタイの良さで二重効果になっているんだと思うんだ。あと、顔がムダに整っているせいで、無表情だと近寄りがたい雰囲気も醸し出しているし。

 更に最悪なことに、懸念していた通り表情筋が死んでいるんだよね、この体。無理に笑おうとすると、人でも殺してきたかのような顔になるんだよ! どこの悪役だよ!

 なので確実に目立つ。


 ノアは同じ人狼でもここまで酷くないし、むしろ愛嬌がある方だ。他の人狼達も、普通に表情豊かだったので、それが一般的なんだと思う。

 黒狼の特徴かと思ったんだけど、前に自分を鑑定した時、黒狼は『温和で友好的』っていう情報だったんだよね。

 なのでこの威圧感は、この体特有のモノということになるんだよなぁ。

 人狼達は気にしないでくれていたけど、人間はどうだろう。無駄に怖がられないといいんだけど。こればかりは対面してみないとわからないよね。

 

「まぁ、俺一人で何とかなるだろ。そんなに心配しなくてもいいさ」


「うーん、確かに強いし、そこは問題無いんだけどな」


 何やら言いたそうな表情でこちらを伺ってくる。


 この一か月、里で剣の相手をして貰ったが、今では自分より剣を使いこなせる人狼は里にはいないと自負している。

 恩恵の影響なのか打ち合うごとに強くなっていくのが実感でき、夢中になって打ち込んでいた。その結果、《剣術》のLvは5まで上がったが、これがどのくらいの強さなのかイマイチよくわからない。


 後は獣化だけど、《身体強化》発動で里でも上位の強さに入る程だ。発動しないとそこそこだけど、恩恵を使いこなすのも強さの一つなので問題無いらしい。

 本当にこの体って、戦闘に特化してるよね。


 強さに問題が無いとすれば、後は常識だろうか。


「冒険者なら、恩恵は《剣術》と言っておけば問題ない、か?」


 そう言いながらノアを見ると、ニッと満足そうに笑う。


「そこは《索敵》も追加しとくといいかもな。冒険者の中では重宝される恩恵だし、これ持ちだとパーティー組みやすくなるらしいし、人狼のお前でも有利に働くんじゃないか?」


「そうだな。どうせこの外見で嫌でも目立つし、それなら箔付けで二つ持ちにしておいた方がいいか」


「おう。兎に角侮られないようにしとけば、トラブルにも巻き込まれづらいしな。二つ持ちだと迂闊に手を出す馬鹿もいないだろうし、それでいけ」


 ノアの助言に、「わかった」と同意する。

 この世界では、恩恵が二つというのは最強の部類に入るらしい。

 それを切り札として隠すことも無く開示するということは、それだけ腕に自信があると言うことなのだそうだ。


 まぁ、私は他に三つ残ってるんだけどね。そう考えると異常な恩恵の量だよね。本当、神様奮発し過ぎ。

 《鑑定》と《身体能力》は切り札に取っておけば、戦いになっても有利に事が運ぶはず。特に《鑑定》は、相手の情報を引き出せるという超便利な恩恵だし、内緒にしておきたい。

 《料理》……は、まぁ、あって損はない、よね。うん。

 

「うん、ここまで自覚してるなら大丈夫か。あと、これやるから付けとけ」


 そう言って、革ひもに黒い石のついた装飾品を渡される。


「? これは?」


「恩恵の《鑑定》を阻害する魔道具だな。身に着けていると《鑑定》されても情報が読み取られない優れモノだ。恩恵五個持ちとか、普通はあり得ないんだからな。ちゃんと隠しとけよ」


 そうだった。自分以外にも《鑑定》もっている人が居てもおかしくないんだった。ノアの言葉に漸くその可能性に気づく。

 忘れてたけど、私の場合、鑑定されたら恩恵の他にも色々特殊な情報が出ちゃうんだよね。この体、復元やら実験体やらおかしな単語が多いんだった。


「うん、その顔は気づいてなかったって顔だな。わかってた」


「い、いや? わかってたぞ?」


「嘘つけ。目が泳いでるぞ、お前」


「……」


「ま、餞別代りだ。持ってけ。そんで、ちゃんと身に着けてろ」


「ああ。ありがとう」


 そう言って首から下げ、邪魔にならないように服の中に仕舞い込む。

 本当に、相変わらずの世話焼きだ。

 これじゃぁ、どちらが年上なのかわからない。いつか纏めてお礼をしないと。


「なんかあったら、すぐに里に戻って来いよ? あと、落ち着いたら近況報告しに顔を出しとけ。じゃないと、しびれを切らした奴らが乗り込んで行くかもしれないからな」


「それは不味いな」


「あはは、だろ? じゃぁ、元気でやれよ。応援してるからな!」


「ノアもな。何かあれば声をかけてくれ。手を貸すから」


「おう、頼りにしてるぜー!」


 笑顔で手を振りながら森へと帰るノアを、こちらも手を振り返し見送る。

 賑やかだったノアが居なくなり、一気に静かな空間になった。


 こちら来て、早一か月。

 ヒナ達もこちらの生活に落ち着いている頃だとは思うけど、ノアの話ではそこまで詳しくは分からなかった。

 けど、街に行けば多分何とかなるはず。


「さて、行くか」


 口に出し、気合を入れ直して足を踏み出す。

 目指すは『オーティアス王国』の辺境都市、『レティーナ』。

 そこでヒナと合流して、これからのことを考えよう。




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