糸
縦の糸はあなた、横の糸は私と歌ったのは誰だったっけ?
当時はその歌が真理をついていると思っていた。固く織りなしたはずの二人の関係性は徐々にゆるくなっていき、いつの間にか端っこの方はただの二本の糸になっていた。
強く結んだ糸が解けずにいたことを祝おうとしたのはどの歌だったっけ?
運命の赤い糸だったはずの糸も、色あせて限りなく薄い桜色になっている。かろうじて色を保っているのは、きっとまだ少しはお互いへの気持ちが残っているからか。
貴様と俺とは同期の桜だって言ってたのはどこの誰だっけ?
お互い初婚で、確かに同期といえば同期だけど、感情は学年みたいに確実に一歩一歩進級できるものじゃなかったね。
桜は散るのが美しいって教えてくれたのは、あなただったね。
あの頃は、私達が桜になるなんて思ってもみなかったね。
一本だけの糸では綱渡りでも、二本あれば編み込んで橋になる。
涙の洪水も、一緒に耐えきれる。
もう一度編み直せば、元には戻れないけど、それなりの形にはなるかもしれない。でも、その形を気に入ってくれるかどうかはわからない。だったら編み直してやろうじゃないか。もう一度一緒に編み直して、誰かを温めてやろうじゃないか。でもそれはただの見栄っ張りで。本当は私を一番温めてほしいの。あなたから編み込んでほしかったの。
縦の糸はあなた、横の糸は私。
縦の糸は横の気持ちはわからないし、横の糸は縦の糸の気持ちを理解できなかった。
だったら次は、あなたは縦の糸を理解できる人を探して。私は横の糸を理解できる人を探すから。
縦の糸と横の糸を結べるようになれたら、糸電話でもして近況報告しようかね。




