マネージャーは幻のネクロマンサー
弓の男は膝をついたまま、息を切らしている。
カイはその様子を表情一つ変えずに見ていた。
「誰に雇われているんですか?」
「俺らは、仲介屋に、紹介して、もらっただけだから、何も、知らないんだ」
もう吐くものはないだろうに、えずきが止まらないのか、息つぎを細かくしながら弓の男が話す。
「どこの仲介屋ですか?」
その問いに、弓の男は首を振る。
言えない、ということは、相当黒い仲介屋から紹介してもらっているということになる。
仲介屋は、魔物退治をはじめ、様々な仕事を冒険者たちや街の人たちに紹介する、いわばマッチングシステムだ。仕事を依頼する人たちも様々で、国や街単位のものもあれば、個人でも依頼することができる。
幾らかのマージンを仲介屋は取るが、そのマージンの安さよりも仕事の内容や客の素性について、どれだけ仕事を任せた奴らに守らせることができるか、話さずに依頼できるかが重要視される。
そうすると、自ずと口封じが横行し始める。今では取り締まりも強化されているが、トカゲの尻尾切りで、裏の経済を回していると言っても過言ではない仲介屋は野放し状態だ。
「何の仕事だったんですか?」
「……宝石だ」
少し逡巡したあと、弓矢の男はわずかな単語で答える。それくらいならば問題ない、と判断したということだろう。
宝石。そんなものをあの女が持っていたとすれば売っぱらったあとだろうが、もしかしたら何かの隠喩かもしれない。
「まあいいでしょう。あとは、彼女から聞きます。それでは――」
カイがエアの方を振り返る。エアは、すでに起き上がっていた女に肩を貸しているが、背が低いせいか貸しているのか、のしかかられているのかわからない格好だ。
「エア、いつものやつ持ってます?」
あーい、とエアが返事をして、左ポケットの中に手を突っ込む。
いくつかの腕輪のようなリングが出てきた。鍵はついていない。
それぞれ放り投げられたものを受け取ると、カイは弓の男を壁際に引きずっていった。
腕輪についている丸いボタンを押すと、リングが大きく広がった。弓の男はすでに抵抗する気も起きないのか、ぐったりとしてなされるがままだ。
リングを揃えた足首に通し、ボタンをもう一度おす。キュッとリングが縮まり、揃えた足首の太さになった。それほど窮屈にもなっていないはずだ。
手首も同じようにする。残りの2人も同じようにリングで自由に動けないようにしておいて、彼らの武器や荷物らしきものを近くに置いておいた。
弓の男が眉をあげる。
「時間稼ぎはさせていただきたいんですけど、ここで、周りの人に襲われたりしても寝覚めが悪いですからね。そのリングは一定時間経つと外れる代物ですが、それまでは無理して外そうとすると爆発しますので気をつけてください」
カイが両手をかざし、ヴァンを引き出す。
「ヴァン、ここ一帯にモヤを出しておいてくれますか」
ヴァンが鞭を振るう。その横で、カイは左手で弓の男に触り、右手で白いモヤから犬の形をした霊を引き出す。
「この魂を守ってくださいね」
犬の形をした霊は一つ飛び跳ねると、弓の男の前にちょこんと座った。他の2人にも同様の番犬を召喚する。
「この子たちがモヤが消えるまではあなたたちを守ってくれます。ですが、このモヤが消えたり、ここから出るとあなたたちを守るものはなくなりますので」
「……こんなことが」
弓の男がゴクリと唾を飲み込む。
「あんた、もしかして、ネクロマンサー、なのか? 世界に5人もいないっていう、幻の」
「さあ、どうでしょう?」
カイが不敵に笑った。