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勇者がそれを知った日

 思っていた以上に良い天気だ。ダンプは太陽を見上げて目を細めた。

 肩からストールがずり落ちる。女子たちがどうやってこのスルスル滑るストールを肩に密着させているのか謎だ。摩擦係数が高いのだろうか。

「中央街だよね?」

 エアが首を傾げて見上げてくる。その姿にドキリとする。美女は美女だが、心臓に悪い美女だ。人間離れしている。

「どうしたの?」

「あ、ああ、なんでもない。お前はカイがああやってお前の顔を売り物にするの嫌じゃないのか?」

 ダンプが動揺した顔をさらに引きつらせながら、とりあえずといった形で質問する。

「カイとは元からそういう約束なんだ」

「約束?」

 そういえば、カイがどうしてエアのマネージャーなどというものをやっているのか聞いたことはない。ダンプとしては、保護者のような役割を単にマネージャーと呼んでいるだけだろうと思っていたのだが。

「カイは俺に魔王を倒させてくれる。俺はカイを魔王のところまで連れて行く。そういう約束。魔王を倒すために必要なら、この顔なんていくらでも使うよ」

 魔王のところまでに行くのは、剣が必要だ。国で生産が管理されている剣は、数に限りがある。けれど、それらの剣を奪い合うのは自由で、ある程度の戦いなら中央も目を瞑っていてくれる。

「カイなら笑いながら奪っていきそうだけどな」

「渡さないなら仕方ありませんね、とか言って?」

 エアと二人して笑みを交わす。

 カイの強さとあの性格を考えれば、ありありと想像できる。

「ラッキーだったよ」

 しみじみとエアが答えた。

「カイと俺の目的は一緒だったんだ」

「魔王を倒すってことか?」

 エアが首を振る。

「いや、あってはいるんだけど、ちょっと違う」

 エアは首から下げたお守りに触れる。えんじ色の味気ないお守りだ。端が少しほつれている。優しく撫でるように触れるその手つきにエアにとって大事なものだということがわかる。

「俺には姉さんがいるんだ」

「ん? ああ」

 急な話題の転換についていけなかった。間の抜けた返事になってしまう。

「俺たちの目的は、姉さんを救うこと。そのために魔王を倒す」

「なんだよ、囚われのお姫様なのか?」

 仇打ちならまだわかる。茶化したように言った言葉にエアは真面目に頷いた。

 魔王はハーレムでも作る気か、とさらに冗談を重ねるも、エアの表情は固いままだった。

 息を大きく吸ってゆっくりと吐き出す。エアの胸元が上下にゆっくりと動く。

 何度目かに胸元が下りたとき、決心したようにエアが一つ頷くと立ち止まり、ダンプの顔を正面から見上げた。

「俺の姉さん、魔王になっちゃったんだって」

「ふうん。魔王ね、まお」

 ダンプはどこともなく前を向いて歩いていたが、エアが発した言葉はダンプの中に一度着地して、大きく跳ね返った。思わず、言葉が詰まる。

「……は?」

 かろうじて出せた声はそれだけ。

「俺がそれを知ったのは、カイが俺の故郷に来た日」

 エアは再び歩き始めると、カイとの出会いについて話し始めた。

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