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変装

 次の日は秋の恵みに感謝するほどの快晴で、フードをかぶるとかえって目立ってしまうだろうと変装していくことになった。

「で、どうして、こんなもん持ってるんだよ?」

 化粧道具にウィッグ、女物の洋服。机の上に並べられたそれらは、全てエアとダンプのサイズで用意してある。

「もちろん、最初に騒動が起きたときに、ツテを使って用意したに決まってるじゃないですか。マネージャーとして当たり前のことですよ」

 カイが栗色のセミロングのウィッグをエアにかぶせる。

「可愛いー!」

 この顔で中央街の女性たちを虜にしたのだ。伊達ではない。?に入っている三本の刺青に違和感を感じるが、それを差し引いてもおそらく凄まじい美女になる。

「もうちょっと短いのない? 俺、首に髪がかかるのダメなんだよね」

「お前は男としてのプライドがないのかー!!」

 エアがキョトンとした顔をする。

「え? だって、これが一番スムーズに移動できるんでしょ?」

 グッと喉がつまる。ジオが贔屓にしている素材屋は中央街の一角にある。確かに、変装しなければ、その人通りの多い場所で度々面倒なことに巻き込まれるだろう。

「器の小ささが透けて見えるようですね」

「う、うるせーな! だいたい女装じゃなくていいだろう! こいつなんて無駄にキレイな顔してるんだから、変な男が寄ってきたら意味ないだろ!」

 半ば言い訳だが核心を付いているはずだ。ナンパなんぞされた日には、騒動になることは目に見えている。

「大丈夫ですよ。エアは男性のあしらいには長けてますから。それに、この顔を隠すのは難しいので、むしろ性別を変えた方が周りの目を欺けます」

「は? ……いや、なんでもない」

 前半、聞き捨てならないセリフが聞こえたが、エアがダンプを無言で見続けていたので何も聞かなかったことにした。

 エアはダンプからフイと顔を背けると、黙々と自らを女子に仕立て上げていく。

「なんで、お前化粧やらその服の着方やらわかるんだよ」

「俺、小さい頃から近所の姉ちゃんたちのおもちゃにされてたから……」

 遠い目をするエアにダンプは何も言えなくなる。

 化粧がわかるほどにおもちゃにされていたのなら、それは壮絶な遊び方をされていたのだろう。

「……俺、このウィッグ似合うかな?」

「ダンプは、髪長いから地毛でいいんじゃない」

 あはは、と乾いた笑いを上げながら、エアと二人、宴のような変身を葬儀のごとく執り行った。

 30分後、エアの顔をスノウとカイがのぞき込んでため息をついた。

「ちょっと私、心配になってきたよ」

 スノウが翡翠の石を明滅させながら、不安の声をあげる。

「これほどまでに化けるとは……」

「本当に外を歩かせていいのか悩むところだな」

 髪の短いウィッグはなかったので、ウェーブのかかった栗色の長い髪を1つにまとめあげている。?の三本の線は完全には消えていないが、化粧のおかげで薄まっており、違和感はだいぶなくなっていた。服は巷で女性が来ているような薄緑色のワンピースだが、エアが来ていると一段明るい色になったかのように見える。

「私も霊を憑かせられればいいんですが」

 スノウと今は魂だけ抜けているアリアを捕えに来たグリムという男は、アリアに霊をとり憑かせて監視することができた。

「心配しすぎだって。ダンプもいるし、大丈夫だよ」

 ダンプはといえば、髪を解きかなり濃い化粧を施している。体が大きく肩幅が広いため、どうしてもノースリーブのワンピースしか入らず、肩から薄い布のようなストールを羽織ることでなんとか隆々とした筋肉を隠した。

「ある意味、化けてますね」

「化けの皮が今にも剥がれそうだけどね」

 カイとスノウが息のあったようにひどい言葉を投げたかと思えば、エアは「味があっていいよ」などと微妙なフォローをしていて、ダンプはがっくり肩を落とした。

「いや、似合ってなくていいんだけどよ」

「問題は槍ですね。どう見ても、隠して持っていけるとは思えません」

 昨日はローブで覆って隠したが、ただでさえ背の高いダンプに合わせて作った槍だ。薄っぺらいストールで隠しきれるはずもない。

「諦めるしかねえな」

「大丈夫なの? ダンプ、槍を使わない日ってないじゃんか」

 エアの言う通りだ。今でこそ、包丁まで使ってみせるようになったが、ダンプはもともと最小限の動きだけで生きてきた男だ。物を取るのにもスイッチを押すのにも何かを運ぶのにも、全て槍を使っている。

「その槍がなくて生きていけるんですかねえ?」

「バカにすんじゃねえよ。大丈夫に決まってんだろ。しかもたかが歩いて買い物に行くだけだ。そこらへんのガキでもできるわ」

 いつも槍を持っている右手が、所在なさげにダンプの髪を触ったり、足を叩いたり、はたまた閉じたり開いたりすることには気づいていないらしい。もはや、中毒者一歩手前の症状だ。

「……まあ、私としては、エアが無傷で無事に帰って来れば問題ないです。あなたの命に代えても無傷でお願いしますね」

「俺の命はエアの傷より安いのか!」

「当たり前です。この顔でいくら稼いだと思ってるんですか!」

「……俺は、あいつからお前を守る必要がある気がしてきた」

 カイとダンプのやりとりにエアが笑う。

「そろそろ行こう」

 エアがリュックからいくつかの道具を取り出すと、何が入るのかと思うほどの小さいカバンに入れた。女性用のカバンらしい。

「ダンプ」

 呼ばれて振り向くと同時に、放り投げられたものをとっさに受け取った。

「これ、カイのじゃないのか?」

 短い刃に柄。装飾は一切ない。カイが唯一使っている武器の短剣だ。

「私は、スノウがいますから」

 翡翠の石が明滅して、剣がぐるりと宙返りをする。

「まかせておいて!」

 ダンプは肩をすくめると、短剣をストールに隠れるようにしまう。

「それじゃあ、出発するか」

「行ってらっしゃあい」

 スノウの陽気な声が部屋に響いた。

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