ダンプの母親、マーガレット
オレンジがかった赤毛の髪を太い三つ編みに結ったそばかす顔の女性。その女性がくるぶしまで覆われたブーツで床をふみ鳴らしながら近づいてくる。
「あんたたちは! 私のいない間に! どうしてこうも! 家を壊すんだ! しかもあの大量の黒いやつらはなんなんだ!」
ダンプとジオが首を縮める。まるで叱られた子供のようだ。
「いや、母さん、これにはふかああいわけがあって」
「そ、そうなんだ、マーガレット。かなりのゴタゴタがあってな」
ダンプがカイの脇腹をつつく。カイがやれやれといった表情で首を横に振る。一歩前に出ようとしたその前に、エアがマーガレットと呼ばれたダンプの母親に駆け寄る。
「ごめん、おばさん! 半分くらいは俺が壊したかも! 建物は無理だけど道具なら直すの手伝うから!」
「……お、ば、さ、んだとお?」
エアの言葉にマーガレットの語尾が怒りで上がっていく。
カイは大きなため息をついてエアの前に割り込む。
「失礼しました。ご婦人。このウスラトンカチにはきつく言っておきます。ですが、ここは一つ怒りをおさめていただけないでしょうか。ご自宅の弁償については、改めてお話しさせていただければと思います」
カイが出した名刺を指でつまみ、マーガレットが目の高さまで持ち上げる。ふうんとカイの姿を上から下まで見ながら、胡散臭げな表情を隠そうともしていない。後ろではエアが「俺、ウスラトンカチ?」とダンプに聞いて、小突かれていた。
「言い値を払ってくれるのか?」
「努力します」
その言葉にマーガレットは怒りの矛先をおさめたようだ。
「父さん、この人がお金払ってくれるらしいから、今度はイペの木と超硬鋼素材使おう。どんな攻撃でも耐えられるやつだ」
「シェルターでも作る気かよ」
ダンプの呆れた声に、マーガレットは助走もつけずに飛び上がると自分よりも背の高いダンプの頭にゲンコツを落とした。手にはめていたグローブには、かなりの硬さの鉱石が威力の集約する形で装着されている。
「――ッッッ!」
痛さにダンプが頭を抱え込む。
「誰のせいだと思ってるんだ! 毎度毎度、私が建てた家をボロ雑巾のようにめちゃくちゃにして! お前をここからひねり出したっていいんだぞ、私は」
「俺だって好きでやってるわけじゃねえ! 仕方ねえだろ! 敵はこっちの家の事情なんて考えてくれねえんだから!」
「どうしてお前に槍術を叩き込んだと思っているんだ! 最小限の動きで的確に敵を仕留めるためだろうが!」
「んなの知ったこっちゃねええええー!」
「二人とも落ち着いた方がいいんじゃないか」
なだめるジオに今度はダンプとマーガレット二人で詰め寄る。
「もとはと言えば、親父が暴走しそうになったのがいけねえんだろうが! 親父はどっちの味方なんだよ!? 俺、今回悪くねえよな?」
「あ、ああ。すまん。ダンプは悪くないぞ」
「そもそも、あんたが村の防衛なんか引き受けるから、うちはいつでも敵がやってくるし、ダンプが引きこもりになるんだろう!」
「そ、そうだな。俺が悪い」
ジオが二人を抑えながら、でもな、と続ける。
「二人はそれが嫌だったのか?」
唸り声でもあげそうなほどいきり立っていた二人が、ジオの言葉に途端にうなだれる。
「それが」
「嫌じゃないから」
「「困るんだ」」
その会話にスノウが思わず笑い声をあげた。
「お人好し一家ね」
「ん? 誰の声だ?」
マーガレットが順繰りにエアたちの顔を見比べる。どう見ても、可愛い女の子の声を出せそうな者はいない。
「マーガレット、話すと長くなるんだがな」
そうして、ジオは事の次第を話し始めた。




