アリアの演技
「は? 演技って……」
カイがゆっくりと半ば力づくでアリアの両手を開く。手のひらの上では小さな蛇がウニョウニョと動いていた。
「アリア、それ……、蛇、だよな?」
アリアは否定も言い訳もせず、ただ手のひらを見つめている。
「そもそもがおかしかったんです。剣を盗めるなら、私たちの部屋にあった手金庫を盗めないはずがありません。そうすると、アリアの目的は最初からエアの剣。剣の翡翠の石にスノウを宿らせたかったのか、スノウを宿らせて剣を売りさばきたかったのか」
アリアが、スノウという言葉に顔をあげる。
「スノウと話したのか?」
「すっかりエアと友達ですよ」
そういうと、アリアがため息をつく。
「スノウを逃がしてやりたかったんだ。でも、そっか。スノウ、気づかれちゃったか」
「お前を止めようとしたんだよ」
ダンプがアリアが操られていた時のことを話す。小さな蛇がアリアの手の中で少しずつ大きくなっていく。
「我々が剣を探し始めた時には、すでに翡翠の石にスノウは宿っていたはずです。だから、剣に新たな魂が混じり、私が召喚した霊は私たちをアリアへと導いた。アリアを襲っていた冒険者崩れたちが探していたのは、スノウが宿った宝石。もともとは、スノウは別の宝石に宿っていたんじゃないんですか?」
アリアが頷く。
「もともとは真珠に宿っていたんだよ。だから、スノウって言うんだ。雪みたいに白くて綺麗な宝石さ」
「その宝石とあなたが出会い、かつ逃がそうと思うなら」
「同じボスに囲われてたってことか」
ダンプにも筋が見えてくる。もしも、同じボスに囲われていたのだとしたら。
「でも、そうするとおかしくないか? 監視は憑いたままだったんだろ?」
「そうです。なぜ、アリアは蛇が憑いているままでスノウを逃がそうと思ったのか。スノウの元に戻ってこようと思ったのか。そのままでは、確実に見つかり、逃げたことがバレてひどい目に合わされるでしょう」
なぜ、そんなことをしたのか。
カイがアリアの手の中の蛇を見る。
「私にはわざと捕まるつもりだったとしか思えません」
だから演技なのだとカイは言う。
喰らったくらいでは消えないほどの霊に憑かれて、逃げろと言うのは筋が合わない。
「なんでそんなことを……」
アリアの表情はピクリとも動かない。手の中で蛇がにょろにょろと獲物を探すかのごとく、うごめいている。
「……あいつは、あたしごときで逃げ切れる相手じゃないんだ」
自分は捕まるつもりだったとアリアは言った。
「信じてくれなくてもいい。本当は、スノウをここに置いてきたら、あたしは別で逃げ回るつもりだったんだ。あたしはこの通り蛇に絡まれてるからね。スノウのもともとの石は私が持って、スノウは決して喋らない。そうすれば、あいつが出て来るまでは時間を稼げるし、運よく強い勇者に剣が渡れば、スノウは助かるかもしれない。ダンプとジオも足止めになってくれるはず。ただ、あんたたちを見て、運に任せるのをやめたんだ。こいつらならスノウを持ってあいつにつかまらずに逃げられるかもしれない。そう思ったんだけど」
そうしたら、このザマさ。
アリアが肩を竦める。
「逃げて欲しいのはウソじゃない。あいつの動きが早過ぎた。操られるとは思ってなかったのは、あたしの落ち度だな。蛇を消したからには、きっともうすぐこっちに来るよ。できれば、スノウと一緒に逃げて欲しい。あんたがいれば、逃げ切れるだろ?」
あなたねえ、とカイがため息をつく。
「本当に逃げて欲しいなら人選ミスですよ。うちの勇者ならわざわざあなたを探そうとするでしょうね。お人好しが服を着て歩いてるようなものですから。この人だって、無駄に情に厚いところがありますから、あなたを置いて逃げるかどうか」
「なあ。アリア」
ダンプが床に槍を二度ほど打ち付ける。
「俺さあ、アリアの生きるのに図太いとこ嫌いじゃないんだわ」
槍がダンプの背の2倍ほどの長さに伸びる。
「なのになんで、助けて、って言えないのかねえ」
カイがヴァンを召喚する。周りには煙が立ち込めてきていた。




