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ベンの討伐初体験

無双についての詳細をスキルは話し出した。


「まず、敵を倒すと経験値が発生します。世界は停止しているので、どんな魔物も倒し放題です。攻撃を心配することも無ければ、命の危険もありません。まさに無双ですね。そして、魔物を倒したら当然レベルアップするのですが、時が止まっているのでステータスカードに血を垂らしても更新することができません。ですから、どれだけ強くなっているかは千年後のお楽しみです。とまぁ、今のところはこれくらいですね」


「なるほど、ステータスカードを更新できないというデメリットはあるが、十分に無双だ」


「では、説明はこれくらいにしておいて、レベル上げに行きますよ!」


「ああ、わかったよ」


なにか良い情報がクエストに記されているかもしれないな。そう思い、俺はクエストの紙が貼ってある壁まで歩いていく。やっぱりギルドの中にいる人が動かない。俺は時が止まってるのだと改めて思う。壁の前に着き乱雑に貼られているクエストの紙を見ていく。



ローウルフの討伐……トルの森に生息するローウルフを10匹ほど討伐をお願いします。



ゴブリンの討伐……ティーヤの森にゴブリンの集落を発見しました。集落のゴブリンの全滅をお願いします。



ハイウルフの調査……トルの森に目撃情報が多数。ハイウルフが生息しているか調査をお願いします。



トルの森というのは俺の住んでいる町のすぐ近くにある森のことだ。俺の町はトルの森、ティーヤの森に囲まれている。

ちなみにこの世界には二つ大陸があり、一つは人間が住んでいるハイドル大陸、もう一つは魔族と魔物が多く住んでいるブルド大陸である。

ハイドル大陸の西側に三分の一ほどの大きさの樹海があり、そこには魔物が多く生息している。大陸の中央に巨大な壁に囲まれたハイドル王国があり、人間の多くは東側に住んでいるため、この王国が西側の樹海と東側を分け隔てている。

東側にはいくつかの都市がある。

まず、娯楽都市と呼ばれるユロドール

そして魔法都市と呼ばれるポタハリー

最後に俺の町がある都市、クツタイ、この都市には特に呼び名は無い。


まぁ、トルの森なら近いしこのローウルフ討伐に行ってみよう。一応、スキルにも確認を取っておく。


「なぁ、ローウルフの討伐に行こうと思うんだが」


俺がした確認に対してスキルは、軽々しく物騒なことを言い出す。

「いいですね。初心者にはピッタリの魔物です。軽く森の生態系をぶち壊すくらい討伐しましょう」


「いや、駄目だろ…」








石造りのそこそこ大きい門の前に兵らしき男が立っている。俺は、町を囲む城壁の入り口まで来ている。そこから門を抜けて数分ほど歩くとトルの森が見えてくる。俺は森に来るのは初めての経験であるため、見るものすべてが新鮮であり奇妙にも感じた。

トルの森は、木々の一つひとつが太く、背が高い。大木に包まれている森の中は不気味であり、葉が生い茂っているために光を塞いでいる。それによってまた不気味さが増す。

魔物が生息する森というのは、時が止まっているとわかっていても本能的に恐怖を感じる。俺が森の怖さに尻込みしているとスキルは、浮き浮きとした様子が目に浮かぶほどの明るい声で言った。


「ささ!はやくローウルフを探しましょう!」


そんな、場違いな声に俺は何処か安堵し、恐怖も和らいだ。きっとスキルがいなければ、森に入っていなかった可能性だってある。喋り相手がいるだけで、こんなにも気持ちが変わるのか…

。スキル側の配慮には感謝しないとな。だから俺は感謝の気持ちを言葉にした。


「なぁ、ありがとうな」


「……急になに言ってるんですか。気持ち悪いです」


するとどうだろう。あろうことか、こいつは俺の感謝の気持ちに対して軽蔑の気持ちを伝えてきたのだ。

こんなやりとりをしてすっかり恐怖は無くなり、俺は森の中へと入っていった。

いざ入ってみると、見たこともない景色に心が躍り、俺の冒険心がくすぐられた。ローウルフを見つけるため奥へ奥へと進んで行く。ローウルフの捜索中、一つ気掛かりなことがあった。


「なぁ、スキル、お前って名前なんていうんだ?」


そう、スキルの名前だ。ただスキルって呼ぶのは変な感じだしな。


「『世界停止』ですよ」

スキルは当たり前だと言わんばかりに答える。いや、そうじゃないんだ。


「いやそうじゃなくて、世界停止って呼びづらいじゃん。だからなんかないの?」


「特にありませんね。もし呼びづらいのであれば、あなたが呼びやすいようにして構いませんよ」

俺が命名するのか…。うーん。そうだな…俺はシンプルなのが好きなんだ。ここはひとつ、シンプルさ重視でいこう。となると、答えはもう決まっている。


「セカイってのはどうだ?」


「シンプル過ぎませんか…まぁ、いいですけど」


「よし、じゃあセカイで決まり!」


スキルの名前が決まり、捜索を続けていたら、使い古された白い布のような毛並みを持つ魔物を見つけた。これが人生初の魔物との遭遇である。俺は慎重に近づき、足下にある石を拾い上げ、白い的を狙い投石した。見事に石は命中したが、魔物が反応する気配はない。そこで魔物の前に移動し、姿を確認する。

やっぱりだ。俺は人生最初の魔物でローウルフに遭遇した。


「ささ!はやく倒してしまいましょう」


セカイが急かしてくるが、俺には武器がない。


「いや、でも俺武器持ってないぞ」


「なに言ってるのですか?武器がないなら殴ればいいじゃないですか。拳は武器ですよ」


殴るって………はぁ、面倒くさいけど殴るか。


「そりゃ!そりゃ!うりゃ!おりゃ!」


動かない敵を拳で痛めつけるなんて…なんか申し訳ない気持ちになってくるな。てか、これ効いてるのだろうか。まったく手応えがしない。さらに殴っていくうちにどんどん申し訳なさが募っていき自然と力が抜けていた。


「魔物に情をかけていたら終わりませんよ。さっさと倒してください」

しかしセカイは辛辣に俺を責める。こいつは心がないのか?


「これは魔物なのですよ。放っておけば人を襲います」


それもそうだな。こいつは魔物なんだ。魔物は人間に害をなす。ならば遠慮してる場合ではない!


「は!そい!オラ!オラ!ソイヤ!………………」


殴り続けておよそ五分。


「ソイ…はぁはぁ…うりゃ!」


俺の最後の一撃でローウルフの首が変な方向に曲がり、初勝利となった。ローウルフの死体は首が曲がったまま静止しているので、ちょっと可笑しいかった。


「…はぁ、はぁ、やっと終わったぁー!」


俺が初勝利に喜んでいると、セカイは褒めることもせず、逆に叱ってきた。


「長すぎます。次の目標は三分を目指してください。多少はレベルアップしてるはずですから」


う、なんて辛辣なんだ…。

でも人生初の魔物の討伐だ!もう殴ってる途中から魔物への申し訳なさは消えて一撃一撃が快感だった。

場所を変え、辺りを見渡すと二組のローウルフがいた。


「セカイ!何分で倒すか数えておいて!」


「わかりました。頑張ってください」


俺は助走をつけておもいっきりローウルフを殴りつける。するとローウルフの首が曲がり、死体に変わる…こともなくピンピンしている。(動いてないけど)

さっきの戦闘で、胴体を狙っても入るダメージが少ないことに気がついていた。その経験を生かし、今回の戦闘では顔を集中的に殴っている。


「オラオラオラオラオラオラ!!」


殴り続けて数分後、


「ホアッチャア!」


ローウルフの首はポッキリと折れ、俺の経験値となった。首が折れたまま静止した姿は何度見ても面白い。殴り終えてセカイにタイムを教えてもらう。


「セカイ。何分だった?」


「4分半です」


うーん。微妙だなぁ。三十秒くらいしか縮んでない…。俺は少しガッカリする。だが、セカイは言う。


「そんなことないですよ?今、息切れしてますか?」


言われて気がつく。そういえば最所のときよりも息が切れてない。続けてセカイは優しく俺を慰める。


「ちゃんと成長してますから落ち込まないでください」


俺は少し嬉しかった。成長できていなくて落ち込んでいる俺のことをこんなに心配してくれるなんて…。俺はもう一度、感謝の気持ちを伝えてみた。


「セカイ…ありがとうな」


「うぇ、いえいえ」


「おい!今うぇって言ったよな!?」


「ささ、無駄口叩いてないで早くもう一匹も倒しちゃいましょう」

セカイは何事も無かったかのように話を逸らした。またもやこいつは、俺の感謝を蹴飛ばしたのだ。

こ、こいつ……!

俺はセカイへの怒りの矛先を残っている一匹のローウルフに向ける。


「この野郎ッ!オラッ!オラオラオラ!」


「ローウルフに八つ当たり。なんて情けない」


セカイがなにか言った気がするが無視だ。聞いちゃ駄目だ。心が痛くなる気がする。


数分後、ローウルフは俺の経験値に変わった。

ふぅ、なんかスッキリしたな。


「何分だった?」


「三分です」


「おぉ!最初より二分も早くなってる!」


「いえ、まだまだです。あなたにはローウルフ程度は一撃で倒せるくらいにはなってもらわないと困ります」


んな、無茶な…


「ささ、次の経験値を探しましょう」


「ローウルフって呼んでやれよ…。…あと、俺もセカイのこと名前で呼んでるからセカイも俺のこと名前で呼んでよ」


これから千年、二人でやっていくのだ。なんか“あなた”って他人行儀で寂しいしな。しかしセカイの態度は一貫しており


「なんですか。口説いてるのですか」


「いや、ちげーよ!どうしたら口説いたことになるんだよ!千年もあなたって呼ばれるのは、なんだか寂しいだろ!?」


「はいはい、わかりましたよ。ベン」


このときの名前を呼ぶ声が異様に優しく安心する声だったので、つい同様してしまった。


「お、おう…」


なんなんだよ。名前で呼ばれただけなのに、ちょっと胸が熱くなったぞ…。

ま…まさか、これが俗に言う…


「アメとムチ…」


「何か言いましたか?」


「いえ、なんでもないです」


うん。余計なことは考えないでいこう。こいつはスキルなんだ。スキルに胸が熱くなるほど俺は変態ではない。きっと、さっきの俺は魔物を倒したことに胸が熱くなっていたんだ。そうに違いない。

俺は思考を切り替えてローウルフの捜索を続ける。



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