スキル側の配慮
ギルドは、冒険者達の会話で賑やかだった。だが、スキルの発動と同時にさっきまでの賑わいが嘘だったかのように静まり、静寂が訪れた。否、ギルドだけではない。スキルの名前の通り世界が静寂に包まれたのだと悟った。
ただ音が聞こえないだけではない。人の動き、雲の動き、時の動きさえ止まっている。そう、つまり世界が停止しているのだ。
ただひとつ、例外がある。それは、俺だ。静寂の中、俺の興奮した鼻息がフゥン!フゥン!と鳴り響いている。
ああぁ、すごい!本当に止まってる。隣にいる父さんをいくら揺さぶっても反応は無い。周りの冒険者も同様に揺さぶってみたが、やはり反応は無かった。全てが止まっているのに自分だけが動けるという事実に全能感が溢れる。つまりこのスキルは無双スキルだったわけだ。
これは凄いことになったぞ…。このスキルがあれば確実に冒険者になれる。ひとまず、父さんに知らせる為にスキルを解除しよう。
ん…?スキルの解除…?
「スキル解除!」
………。
「時よ動け!」
……………。おい。
「時よ戻れ!」
……………。まてまて。
「スキルオフ!」
……………。
「スキル終了!」「スキル完了!」「スキル(ry」「スキ(ry」
試行錯誤を続けておよそ五分。
俺はスキルの解除方法がわからず困り果てていた。半ばやけくそ気味でスキルの解除を唱える。
「あのースキルさん、もう大丈夫っすよ?戻っちゃっていいんで。てか戻せ」
すると、突如として脳内に直接語りかけてくる声が発生した。
「次に時が動き出すのは千年後です。あなたの力では時間を動かすことは不可能です。お疲れ様です。でも安心してください。あなたは千年間、寿命では死ぬことはありません」
声は早々と語るものだから重要なことを聞き漏らしてしまった気がする。いや、本当に重要そうなことを。しかし、当然ながら時は止まっている。止まっているというのに声がするのだから俺の頭は余計混乱してしまっている。
頭が混乱するが、なんとか疑問を言葉にすることができた。
「ち、ちょっと待ってくれ。そもそもあんた誰なんだよ!どこにいる!」
声は、俺の質問を予想していたかのように即答した。
「私はあなたのスキルの『世界停止』です。場所はあなたの中にいます」
これを聞いてしまった俺はさらに混乱した。だが、人間は不思議なもので、混乱しすぎるとかえって逆に冷静になるものだ。
さて、スキルは喋るだろうか。いいや、喋らないね。常識だ。
「なに言ってんだ?スキルが喋るわけないだろ」
落ち着きを取り戻した俺は、虚空に常識を投げかける。だが、これも予測していたかのようにスラスラと声は答えていく。
「普通のスキルは喋ることはできませんが、私のように選ばれしスキルは喋ることができるのです。常識ですよ?」
「そんな常識聞いたことねぇ!」
待て、この声がスキルだというのには一理あるかもしれない。
まず、時は止まっている。この時点で俺以外は動けないはずだ。
そしてこの声は、俺の中にいると言った。俺の中にいるのだから、動ける(声を出す)というのにも納得できる。俺の中にいるということは生物ではない。体の中で生物を飼った覚えはないからな。つまり、俺の中に入れるのは、この声がスキルだと証明することができる。
「…うん。頭の中が整理できた。あんたをスキルだと認めよう。認めるのだから、最初に言った、重要そうなことをもう一度言ってくれないかな?」
「わかりました。では、まず時は千年間動きません。あなたでは動かすことは不可能です。スキルの効果が切れるのをお待ち下さい。ですが、安心してください。寿命では死にません。さらに付け加えるとこのスキルは一度使うと二度と使うことはできなくなりお荷物スキルになるのでご了承下さい。…以上です。」
千年?死なない?お荷物スキル??駄目だ、情報一つひとつが濃すぎて理解できない。こういうのは何度も聞くことが大事なんだ。ベンよ、なにも恥ずかしがることはない、もう一度聞けばいいさ。
「もっかい言って?」
するとスキルの声は一変し、優しげな声だったのが、気だるげな声に変わった。
「(ちっ何度も言わせんなよ)千年生きれてお荷物スキルってことですよ。わかりましたね」
「まって今小声で悪口言ってなかった!?」
「もう!あなたは止まったままのゴミと化した魔物を倒せばいいんです!それで強くなればいいんです!それが私の役目ですから!」
最初の優しげな声はどこに行ったんだ…。
「ほら考えてみてください。止まったままの魔物倒して楽々レベルアップですよ?いいじゃないですか、無双ですよ?」
「む、無双…?」
「そう、無双です。敵をバッタバタ倒すアレです」
「敵を…バッタバタ…」
あぁ!駄目だ駄目だ!話に乗せられるな。
「ち、ちょっと無双の話は置いておこう。色々と衝撃的すぎて忘れてたけど、なんでスキルが喋れるんだよ?」
俺は苦し紛れに話を逸らす。意外ながらもスキルは、俺の質問に対して真面目に答えた。
「スキル側の配慮です」
「は?」
「千年間も喋り相手がいないってどう思いますか?」
「千年間も喋り相手がいない…」
想像してみたら予想以上に退屈だし怖い。
「怖いな」
「そうですよね。ですからスキル側の配慮です」
「スキル側の配慮、ありがたいっす」
でも、配慮ってだけで喋れるようになれんだな。ぶっ飛んでるな。
「まぁ、これから千年間よろしくお願いしますね」
「おう!よろしくな」
挨拶を終えるとスキルは、どこか小包を持っていそうな悪代官のような口調で問いかけた。
「それで、無双のお話なのですが…?」
その質問に対して俺は、ニヤリと笑い答える
「詳しく聞こうか!」
「待ってました!」