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農作業とスキルの実

目の前に広がる茶色の海。そう、畑である。俺はこの広大な畑に麦の種を黙々と撒いている。数ヶ月後、麦は十分に成長し収穫される。つい最近までは畑を耕していた。これは本当に辛い。重い(クワ)を上げて降ろす作業が永遠と続く。

天気は晴れ。広大な畑に魔物の姿無し。嗚呼なんて平凡な暮らし、なんて平凡な人生。



「ちがーーう!!!俺が求めているのは冒険だ!!農作業なんてやってられるか!!」


俺は手の中の種を地面に投げつけた。すると屈強な男が鬼の形相で近づいてきて口を開いた。


「ベン!なんだその種の撒き方は!?いいか、種はな、こういう風に撒くんだ」

男は大きな図体に似合わない繊細な手つきで種を撒いていく。


「わかったか?優しくだぞ」

「わかったよ、父さん」

そう、この男は俺の父さんだ。父さんは農作業だけであの体を作り上げた。それに比べて俺は、農作業をしているというのに父さんの体ようにはならない。だがそれは当然のことではないだろうか。だって農作業であんな体になること自体おかしい。仮に父さんのような体を手にいれたとしても、大きな問題がある。レベルが上がらないのだ。

農作業だけではレベルが上がらない。生き物を殺したとき経験値なるものが発生してレベルが上がるのだ。もちろん、普通の生き物も経験値にはなるが、普通は、人に害を成す魔物とよばれる生き物を殺す。そのほうが経験値は多いし魔物を倒したことによって冒険者ギルドから賃金を貰うこともできる。なので基本的にクエストの依頼などが冒険者ギルドに集まる。冒険者は、それらのクエストを受けて生計を立てている。しかし俺はまだ九歳だ。クエストを受けれるのは十歳からなのだ。


「フフ、だけどこんな日々ともあと少しでオサラバだぜ!」


この世界にはスキルの実というのが存在する。その実を食べた者は一つランダムにスキルを得る。しかし、一回食べたたらスキルの実からはスキルを得ることはできない。一人につき一個までという訳だ。一般的には子供が十歳の誕生日のときにその実を食べさせる。そして、クエストを受けれるようになる。

俺の誕生日は三日後だ。


「フフフッ!待ちきれないぜぇ!」


「ベン!口を動かしている暇があったら手を動かせ!」


「わかってるよ。父さん」


そうして農作業は続く。









部屋には様々な飾り付けがされていて、それを見ているだけでも気分が上がっていく。中央のテーブルには「ベン、誕生日おめでとう」という文字がデコレーションされた大きなケーキがセッティングされている。そう、今日は俺の誕生日だ。待ちに待った十歳の誕生日。


「ベン。誕生日おめでとう!」


筋肉が祝ってくれている。否、父さんが祝ってくれていた。


「お誕生日おめでとうね。ベン」

優しくも愛の籠った口調で祝ってくれたのは、俺の母さんだ。

ちなみに母さんがケーキを作ってくれたと思っている人も多いかと思うが、父さんだ。悲しいかな。


「ベンももう十歳なのねぇ…あっという間だったわ~」


「いやー俺は長く感じたよ。」

ああ、本当に長かった。延々と続く畑を耕し、何万粒の種をまき、何十リットルの水をまき、麦を大切に育てた日々。

思い出すだけで悪感がする。だが、そんな日々が終わったことよりも実は嬉しいことがある。スキルの実だ。俺はスキルの実がたべたいのだ。

「父さん!俺、スキルの実が食べたい!」


「ああ、そうか、スキルの実なんて物もあったなぁ。だが今日はもう遅い。明日の朝一番でギルドに行こう」

スキルの実は冒険者ギルドにある。だが、もうとっくに日は沈んでいた。はやくギルドに行きたい気持ちがあるが、こればかりは仕方ない。

その後も誕生パーティーは続いた。






目が覚めると同時に意識が覚醒する。それもそのはず、今は朝だ。ああ、こんな目覚めのいい朝があっただろうか。

準備を済ませると父さんと一緒に冒険者ギルドへ向かった。


冒険者ギルドに近づくにつれて、屈強な男が増えてくる。大剣を背負った者、杖を持った者、様々だ。隣の父さんも冒険者だ、と言われたら違和感は感じない。むしろ納得すらするだろう。

そんなことを考えはながらもギルドの入口まで来た。ギルドの中に入るのは初めてではないが、胸が高鳴る。

中に入ると会話をしていた冒険者達が一斉に注目してくるが、俺を見てスキルの実だと分かると会話に戻っていった。

俺は受付のお姉さんのところで言った。

「昨日、十歳の誕生日を迎えました。スキルの実はありますか?」


するとお姉さんはニッコリと笑い

「はい。ありますよ。少々お待ち下さい」


お姉さんはギルドの奥へ入っていき、数秒で青い実をもって出て来た。

「これが、スキルの実です」

そう言ってお姉さんは俺にスキル実を渡す。見た目はブルーベリーみたいだ。

「おお…これがスキルの実…食べてもいいですか?」


「はい。どうぞ。よく噛んで食べてくださいね。」


俺はスキルの実を口に放り込む。そして噛んでみると口の中に柑橘系の香りが広がった。ブルーベリーの見た目で柑橘系ってなんか変だな。そう思いながらも俺はスキルの実を食べ終えた。なんだかあっけない。………んーと…変化なし。するとお姉さんが言った。

「変化は体で感じ取ることはできません。ですから、このステータスカードがあるんです!」


お姉さんは板のような分厚いカードを取り出した。これがステータスカードなのだろう。

「ここに血を一滴足らしていただくだけであなたのステータスがわかります」

おお、なんて素晴らしいんだ。俺は一滴血を足らす。するとカードが輝き文字が浮かび出た。



ステータス

名前:ベン

種族:人間

職業:村人

HP:23

MP:6

スキル:『世界停止』




「えーと、こんなスキル見たことありませんねぇ。」


俺はスキルの欄を見た瞬間、悟った。

お姉さんが何か言った気がするがどうでもいい。俺の頭はスキル『世界停止』のことしか考えていない。つまりあれだろ?

時を止めて、敵をバッタバタ倒して俺最強の無双スキルだろ!?

絶対そうじゃん!!やばい!ついに才能開花きた。俺の時代の幕開けだ。

興奮した俺はスキルの説明をすっ飛ばし『世界停止』を発動させた。







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