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「碧」14歳。さきほど65歳の老婆に転生しました!  作者: 北佳凡人


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セイラム ぷんぷん



「展開しろ! 固まってると一発で全滅だぞ」


 薄い氷の裏からグロドが叱りつけた。真っ黒の地面から、少しでも離れようと、全員が場所を移す。もっとも近くに居た者は、生きてはいるがうずくまったままだ。落雷魔術の余波をくって麻痺してしまったのだ。


「し、し、しびれて動けねぇ」

「あいつら。魔術師か、か、か雷を落としやがった!」

「舌をかむぞ、口を閉じてろ」


 コビーとヨッシーがスキレード隊の二人を助けおこす。悪態はつけるが、立つこともできないようで、仕方なく重い身体をずるずるひきずっていく。


 爆心地からは離れたが、射程がわからない以上、どれだけ距離をとっても危険度は減らない。そもそも四方が敵なのだ。距離をとろうにも限度があった。


「セイラム。助かった」

「いいえ。間に合わなくてすみません」


 氷魔法。空気のように薄い幕で造成した三角錐の氷が、セイラム、チャーリー、近くのグロド隊を防御した。落雷、正しくは”紋章の08闇雷(ライトニング)”は、魔術師が目論んだ座標をめがけたのだが、氷の湾で軌道が逸れ、落点がずれたのだ。咄嗟だったため、範囲は限定されていたが、直撃はまぬがれ、全滅を回避できた。


 反射の関係と、直後、粉々に割れ散ったため、副官や魔術師らには見えなかったようだが。それほど高くもない鼻を突き出して、チャーリーが胸を張った。


「集中力が散漫なのよ。わたしが注意しなかったら、みんな黒こげだったわ。感謝しなさいよ」


 レベッカが雷の軌道を変えられたのは、彼女があたりを伺っていたおかげだ。ほかの仲間が、碧とスキレードの動向を気にしていたとき、チャーリーだけは四方の軍の不自然な動向を見張っていたのだ。王都軍のイケ面を探していたわけではない。


「ありがとうチャーリーさん。あと、みどりちゃんが、これをくれなかったら。こんなことできませんでした」


 セイラムの手の中にあったのは魔素結晶(クリスタル)。碧が若さを搾り出した”40年物”だ。別れの一幕、手を握ったときに押し込まれたのだ。


「ほわぁ。いつのまに」


 触れてるだけでも魔力が溢れかえリ凄まじいエネルギーのほとばしりが流れ込んでくる。ふとした思いつきの全部が魔法発動しそうで、イメージ具現化を抑えるだけで汗がにじむ。うっかりするとあたり一帯を氷だらけにし、見渡す範囲を氷河期に変えてしまいそうだ。


「うっとりするほどきれいね。それ……売ったら、いくらになるかしら」

「売りませんよ。碧ちゃんの形見ですから」

「わかってるわよ言ってみただけ。たいせつな形見を取り上げないわよ」

「あんたらな。まだ、死んだと決まってないだろう」


 勝手に死んだことになってる会話にグロドが突っ込む。急いでポケットに仕舞いこむと代わりに、似てはいるが、格段に劣るもうひとつを、取り出した。


「マグさん。これを受け取ってください」


 そう言って分隊の魔法使いに手渡したのは、やはり黄色く輝く石にしかみえない魔素結晶(クリスタル)


「せ、せ、セイラムちゃん! 婚約の贈り物か~い?」

「そんなわけないだろ。いいかげん眼を覚ませ」


 グロドの言うとおりだ。浮わついた贈り物ではなく、純粋な魔法素材。いましがたまで愛用していた10年モノの魔素結晶(クリスタル)だ。40年モノを扱ったことで、二個なんてとても制御できないと、死蔵するよりは炎の魔法使いに活用させることにしたのだ。碧からの大切な逸品を勝手に貸し出す引け目はあるが、攻防の底上げになるなら賛成してくれるはずだ。


 手にした魔素結晶(クリスタル)をじっとみつめるマグ。瞳孔が開き隠し切れない興味をしめしてる。


「ま。魔力がみなぎってる。前にもらったのより断然強力だ」

「マグさん。みんなを護ってください。わたしもがんばりますから」

「それは…………初めての共同作業かっ! 張り切っちゃうぞ!」


 どこで見たのか、ケーキ入刀の動きのマグ。

 わけのわからないポーズを決める部下に、グロドが呆れた肩を落とした。


「処置無しだ」

「バカに付ける薬はないっていう比喩。本当だったんだな」


「はいそこ、集団コントは終わりよ!」


 またまた危険を告げるチャーリー。一気に臨戦態勢にはいった、12人は、彼女の指の差す空をいっせいに見た。


「また、雷か」

「……矢だっ、数30」

「いやっ50、ちがう100以上だ!」

「盾持ち、防御! 毒矢が混じってるかもしれん」

「間に合うかっつーの! 逃げろっ!」


 盾持ち片手剣はスキレード隊の四人のみ。ちらばってる12人だが、範囲をはるかにカバーした矢の雨だ。放物線を描いて飛来する矢も、正面からでは、上がって下がる昇降運動。ボローズら弓使いでない、騎士にはいまいち距離感が掴めないなか、パラパラに動く命を刈り取る鏃が急降下。もはや逃げることも諦め、盾の無いものは反射的に腕で頭を庇い、その瞬間を待った。


 頭をかばって、べったりと地面に伏せたコピーの鼻を、名も無い草がなでる。エリック、ヨッシーもだ。二人の魔法使いだけが、行動をおこせた。


氷お休憩所(アイスガレージ)!」

炎網(ファイアネット)!」


 ガッキーン。


 バラ、パラパラ、

 パラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラ……


「ひっ……?」


 強烈な凍える冷機が風を生んだのだが気づかない。降ってこない矢にの代わりに爆ぜた音。慄いて、身がいっそう縮こまる。


 ぱち、パチ、パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ! 

 パチパチパチパチパチ、

 パチ、パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ。


 そして静かになった。矢の貫く痛みを覚悟して待つが、何も起こらない。それきりだ。矢音が消えて数秒か数分か。ビクビク、頭をあげようと意を決したとき、盾持ち騎士の、確認のような感想が静けさを打ち破った。


「氷の……屋根なのか。ちょっとした町くらいあるぞ、こんなのみたことねえ」


 コビーがやっと頭をもちあげた。空を塞いで、そのとおり、見たこともない空間が創造されたことを知った。氷でできた、屋根としか言いようのない半透明の厚い建造物。陸上競技場クラスサイズの氷が頭の上をなだらかにカバーし、降る矢を防いだのだと気づいた。屋根を支えているのは直径20センチ高さ3メートルの氷の支柱。およそ5メートル間隔ほどか、均等に升目状に地面から生えて配置される。視界の果てといっていいくらい続いていて、包囲する敵陣そばに到達する勢いだ。


 コビーたちは、虚空を覆いかくす氷の屋根が、襲いかかる矢群を阻んだこと。ようやく頭の隅で理解し、目先の危険がさったことと、天井に害がないことを無理やり納得。諦めかけた命を拾ったことに安堵し、やっとの思いで抜けた腰を伸ばしながら立ち上がった。感謝の念をこめ救い主を仰げば、セイラムの女神のような必死な言葉が耳を癒した。


「みなさん、怪我はないですか?」


 生きててよかった。一時しのぎだろうとも男たちが心の底の実感を共有したとき、別の感慨の魔法使いが、空気に水を挿す。


「やったぁ! 炎魔法で、矢を焼き消したぞ。セイラムちゃん!この結晶すごいよ」

「……そか」


 マグの言ったのは炎の網。セイラムの屋根に遮られた矢は、炎網(ファイアネット)の燃え盛るネットに絡め取られ、焦げ焦げに燃え爆ぜたのだ。乾燥した竹の()(棒の部分)は爆竹のような小気味いい音を立て、矢羽(やばね)は灰に。網にかかった片はしから炭となった。


「ああ、すごいなすごいよ。休んでいろ。だがマグよそれ意味あったのか。氷で防いだ矢をわざわざ燃やすなんて」


 グロドは、理由を聞くというよりあきれた。魔法使いの男は素直に照れる。


「いっやあ。回収してボローズにやろうと…………。けどオレ火系の魔法しか使えないこと、コロッと忘れてたよ。まさか燃えるとは……」

「あほかぁ!!」


 男たちは、申し合わせたようにハモッた。





 王都軍もまた、驚いていた。いや。信じられないものを見た思いは、セイラムを味方にともなうグロドたちの比ではなく、現実に発現しているのに事態を飲み込むことができないでいた。


 ほんの数メートルのそこ、ちょうど騎馬のほどの高さの、氷の屋根が現れたのだ。放った矢が阻害され燃やされ、一人として討ててないタイミングからいえば、敵方の防御とみなして間違いない。草原の景色をアリーナと変貌させた現象に、エラインダ王国の猛者たちも戦慄。


「……な、なんだ、この非常識な物体は」

「物体じゃなく、いや建造物だろうが。どこから出できたんだ?」

「建造物だと? 王都サカトエールデにもなかいぞ、こんなのは」

「まて……冷気を感じるな。空気が冷たいぞ。氷で、作られてるとか?」

「まさかよ。何月だと思ってんだ氷なんて…………こおり……氷魔法か!」


 疑問が伝言のように騎士の部隊間を駆け巡り、的を得たあてずっぽうに到達した。魔法でなければなんなのだと、誰かがつけ加えた。碧ならば、瞬間突貫工事の技術でもあるのかと、心中でぶつぶつ言うだろう。

 それが正解なのだがとある集団だけが首を横にふる。魔法というものをよく知ってる。そう自負する魔術師たちは、「そんなわけあるかっ!」と、一蹴する。騎士の空想で、ばかげた話しだと、上から目線で嘲笑した。


「脳筋さま方、我輩の話をよく聞くといい!」

「の、のうきん?」

「あなた方は一人残らず魔法を知らない。魔法使いが少ないのだから、しかたないとはいえ、騎士たるもの教養として知っておいて損はありませんぞ。ごほん。魔法っていうのは、素養を持つものが高位魔法使いと師弟関係を結び、魔法ごとに精霊と契約するものです。使えば使うほど強化される特性があるいっぽう、呪文だけ唱えても理窟をしらねば発動しない厳密さをもちます。そしてなにより、大きな魔法ほど長い長い呪文が必要となるのです。ここにある遺物規模のを魔法で出そうとするなら、よほど大掛かりな準備がいります。そうですな……あたり一帯に大量の魔素を散らしてから、28日前から交代しながら不眠で呪文を唱えることになるでしょう。たったひとことでも言い間違いあれば、呪文も準備も一からやり直しとなります。そういうことで────いいたいことがわかるかボンクラども! わたしの言いたいことが! あれが魔法ってのは、常識じゃありえないんだよ!!!」


 ふふんと理論的に嘲笑する魔術師。だが、かんじんな箇所が抜けてる。国王が魔法村を焼き討ちにした影響は小さくはなかった。元もと希少な魔法使いは国に疑心の目を向けた。しかも魔法使いの身分は低いという意識が国民に浸透したことで、腕ある魔法使いは他国へと去ってしまったのだ。知識を自慢する彼らもまた魔術師であって、魔法使いではないのだ。


「君だって魔法使いではないだろうが。知ったかぶりは悲しいな」

「な、何を……落雷で焼き殺してやろうか」

「浅はかで短慮。知識におぼれ間違いを指摘すれば怒る。それが君ら本性だ。やれるものならやってみろ。動かない標的を外す腕前の魔術師が、戦いに明け暮れる我らに勝てるものかよ」

「い、言ったなぁ。やってやる、やってやるぞ! ────紋章の08、」


 落雷の魔術具を取り出すと、騎士にむけ発動しようと呪文をとなえる魔術師。しかしさすがにまずい。「貴様ら敵前だぞ! やめんか!」発動の直前、すこしは冷静な部隊長たちや同僚魔術師がとびかかり、力ずくで口と手足を抑えこんだ。


 始めてみる物への恐怖心。理のわからない事象への脅威と物恐ろしさ。隠したい怖気をごまかすように、同じようないさかい小競り合いが、そこかしこで同時発生した。たった屋根ひとつでこの動揺。このままでは瓦解しかねない。みかねた部隊長の一人が、自分の隊の意識だけでも、前に向かわせようと、進軍の号令をかけた。


「ひ、ひるむな! 我らは由緒ある王都軍の騎士! おそらくは何かの幻術。みせかけよ。化けの皮ひんむいてくれる。歩兵、騎兵、突っ込め。突撃だ!!」

「そうだ、行け。敵を倒せば終わりだ!」


 恐怖に駆られた軍は、烏合の集。統制を失いつつあった王都軍は、一個隊の行動にひきづられた。怖気を払う勢いにのって、氷の下への突進に便乗する。

 人間よりも怖気付く馬をなだめ歩み入った氷の屋根。その下は、思いのほか騎馬がくぐるにちょうどよい高さであった。もしかしたら自分たちを呼ぶ神の思召しか、と都合よく解釈する信心深い者も多かった。恐る恐るな足取りが、快活な進軍に移り変わったとき、拡声による、副官の後付け号令が後押しした。


『ええい弓隊もか!なにをしてる。右翼騎馬隊押し出せ!やつらを踏み潰すんだ!』

「ぬぉぉぉおおおおお!!」


 下は草原上はに氷の屋根。騎士の熱狂が反響する。もう止まらない。たかが12人ぽっちがいる中心へ中心へと、スキレードの乱戦にかまっていた中枢部隊を除いた王都軍は、本気で突撃した。





 身についた弓師の遠目で敵を動向をうかがってたボローズが、たまらず騒いだ。


「おいおいおい、奴ら下を突っ込んできやがったぞ」


 エリックも焦りを隠さない。モーニングスターを握る手に汗が湿る。


「こっちからもだ!こうなると、屋根はかえって 逃げ場がない!分隊長!」

「そうだな。森側に走るか。もっとも手薄だが」


 ボロドは決めかねていた。そうはいっても手薄な森側の、超えた先には王都そのものがそびえ、牢に飛び込むようなもの。正面突破には陽動の火力がかかせないが、頼りになる魔法使い二人はあてにできない。準備と詠唱に時間のかかる魔法使い。セイラムが連発に優れるのは幾度もみてきたがこれまですべて小技。移動砲台と期待はしても連続使用ができないのは、世界の常識だ。強力な魔法を使いきったいま、しばらくは、いや、数日は使い物にはならないとみていい。

 ムダ弾に魔力を消費したマグの炎網にも舌打ちする。

 自分らは、魔法使いをかばいつつ難局を脱しなければならないのだ。


「魔法の盾を拾っておいたわ。役にたつかしらね?」


 つんとして変わらないチャーリーが、置き土産よろしく放置された防具をトントンつついた。余裕をくずさない彼女に期待をこめ、ボロドがたずねてみる。


「ミドリさんあっての盾だろうカスティさん。あなたも使えるっていうのか」

「あらそうみえる? わたしは商人の娘よ」

「……だから?」

「儲からないことや命にかかわることはしない主義なの」

「……それで?」

「王都軍に、いまからでも寝返ろうかしら?」

「はぁ? 間に合うわきゃねーだろ!」


 割と冷静なボロドも、これには少し切れた。名士のお嬢と理解しても、珍しく感情が先立つ。


「うーん。そうよねぇ」

「……暢気なことだ」


 眼を閉じて腕を組んで真剣に悩んでるさなかにも、騎馬は距離をつめてくる。ぽんと、手のひらをたたくチャーリーに何かひらめいたのかと期待をよせるが、「寝返るのはやっぱりやめたわ」。

「はぁ……無駄な時間だった」


 心底疲れたように肩を落とせば、部下たちも釣られたようにため息をはく。

 貴重な時間を会話に費やした。逃げるも戦うも、動くタイミングを完全に失った。


「そうなると怪我は禁物ね。ミドリがいないんだから。かといって、暴走する血の気騎士に付き合う気もしないし。こういうときは──魔法使いによろしく、よね?」


 チャーリーが気安く微笑んだ。


「え?」


 ボロドが驚いた。まだ魔法が使えるのか、と。


 丸投げされたセイラムはうつむき、託された結晶を握る。あるだけで碧の息遣いがするような、安心感を覚えるのだ。チャーリーも同じ気持ちなのだろう。若さの極限を封じ納めた結晶は彼女との再会を明るく想像させる。後ろ向きだけど危地において頼りになる絶対的な存在感が、確信をもってそう思わせた。


 にこっと顔をあげ、みんなを見た。


「わたしの周りに集まって下さい、急いで!」


 脱力してあきらめた足を急かされるがままに動かし、セイラムの後ろにぴったり集まった。マグだけには「もっと離れてください」と押し返した。


 王都騎馬隊の中でも俊足をほこるの数人が左右、30メートルほどに迫っていた。


「田舎辺境の魔法使いがぁ! 幻術のからくり暴いてやろう!」

「むっ……。一部だけ取り除きます。消しますよ、穴隙(ホール)


 広く長い魔法の屋根。その一部、自分たちの頭の上だけが、すっぽりとなくなった。

 外の空気が流れ込んで寒いくらいだった冷気と混ざり、ぬるい風が舞った。セイラムの消去は、それだけで停まらない。突撃の騎士らは一人残らず間違いを犯していた。氷の屋根は現実ではないと。それが、本物の魔法であり、たった一人の侍女の手に握られているということを。


壊柱(ブレピラ)!」


 屋根を支えていた柱が、壊れた。


「何だ?、柱が壊れた、馬が……ぬがぁ!」


 支えていた支柱がガラガラ壊れ、倒れ、駆ける人馬の障害となった。転倒する馬に、下敷きになる騎士と兵。勢いに乗ったところをまさに脚をすくわれた騎士団。先頭からしんがりまで、魔術師も兵士長も雑兵も貴族も、区別と差別なく、5メートル間隔に縦横に直立する硬い物体が襲う。だがそれは序章だ。遅れること数秒。支柱がなくなったことで、陸上競技場サイズで覆っていた分厚い屋根が瓦解したのだ。


「屋根が、屋根がお、お、落チルぅ!!!」


 なすすべなく転倒したところに、天井の崩落。不謹慎ながら現代ならさしずめ、トンネル上部のパネル落下か。屋根なので密閉ではないが出口はずっと遠い空間で、重量物が落ちてくる。恐怖を感じるいとまさえなく、王都騎士団は機能を失った。


「…………」

「……怖えぇよ。セイラムちゃん」

「みどりちゃんの結晶を、嘘つきよばわりするからです」


 直後、ずっどぉぉぉんと、落雷魔術が放たれた。だがそれは狙い不確かなやけっぱちの一撃。数頭の、氷の下敷きとなって苦しむ馬にとどめをさしただけだった。


 機能不全に王都軍。一面は、氷が解けて大雨の後のようになっていた。死亡したのはわずかだが、ほとんどが気絶や怪我ですぐには動けない。

 そうはいっても平素から鍛えられた騎士。戦友を助けおこす者、任務をまっとうしようと這い上がる者。何分もたたず、あちらこちらで活動がはじまる。


「これが王都軍。さすがに強いわね」


 チャーリーが賞賛の声をあげると、だしぬけに騎士の一人が面食らったように動かなくなった。わたしの美貌に打ちのめされたのね。心中に湧いた感銘を、あたりに知らしめようと、ふんと胸をあげた。


「わたしの──」

「うああl、なんだ、森が、森が!!!」


 えっ、と。反射的に音のほうを振り向くと、それは森の方向。

 いいかげん見慣れた森だ。べつに変哲もないと、思いつつも違和感を覚えた。



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