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「碧」14歳。さきほど65歳の老婆に転生しました!  作者: 北佳凡人


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スキレード舞う



 人生のやり直し?

 でもそれほど長いこと生きてないから、生き直し?


 長男の手紙じゃないけど、この件がかたづいたら、私は国を出ようと思ってる。14歳に戻れさえすれば、いくらでも人生を始められるし。冒険者の登録して、異世界を楽しんでみたいんだ。こういうリスタートを表現する一言。あるとすればどんな単語だろう。


 行きがかりで、ここまで出張ってきた。因縁めいたものはいくつもあるから、しめくくりというなら、そのとおり。でもこれはアカネの転生したエリザのための精算だ。私のじゃない。


 レベッカさえいてくれれば、この世を渡っていけるはず。そんくらいの自信と経験は積んでる。付いてきてくれると信じてもいいよね。チャーリーは……わからん。




 グロドが長剣(ロングソード)を天上に翻して吼える。


「敵は王軍! このまま突っ込めー!!」


 牧草地に広がる王都軍が300人。

 それがどうした。エリザが決着するんだから、賑やかでいいだろう。足りないくらいだ。全部まとめて若さの餌食にしてくれるよ。でも待った。森の魔物みたいに、人は飛んだり飛び移ったりしないよね。馬車で突っ込むって、戦術として不利なんじゃないかな。


「馬車を止めてグロドさん。私、降りるから」

「豪腕スキレードはあそこだぁ! 横を突破して活路を開けぇー」


 ぶるぶる震えるグロド。戦場で暴れる興奮による武者震いだとわかる。アドレナリンでまくりで、私の言うことなど耳にはいってない。矢が刺さっても槍が貫いても痛みを後回しに暴れ狂いそうだ。


 奇襲となった。バーリィ・スキレードを半ば取り囲む王都軍は、背を向けてる兵もいてこちらに気づいてない。矢のような尖った陣形となった分隊がトラックのような勢いで敵中を走りぬけていく。


「ぬがぁッ」

「何事だ!」

「こいつら、どこから現れたぁ」


 背後をつく形となった騎馬隊は、無防備な動物を跳ね飛ばすように兵をなぎ倒しながら直進。当たるを幸いとばかりに、不幸な無防備敵兵たちをがっつんがっつんぶちかまして、ど真ん中を突き抜けた。ウマが怖い。


 豪腕さんが何人連れてきてるか不明、だけど10人いたとしてもその差は30倍だ。王都軍が陣形ってものを敷いてたとしても、舐めてかからないはずがなく、気分は袋だたきゲームだろう。私たちが突っ込んだのは、そんな乱戦。中央と抜けたことで、隊としての機能をがた落ちにしたようだ。

 先頭のコビーが、斜めに携えた槍を大きく振り回して、気勢をあげた。


「副騎士長! 助けにきました!」

「コビー!?──グロド隊かっ。嬢ちゃんたちも一緒か! オレの獲物を横取りするなぁ!」


 2メートルほどの身長に匹敵する長剣を振り回すたび、何人もの兵の身体が引きちぎられる。楽しそうだなおい。地上の人類を消し去りそうな勢いだ。助けにこなくてもよかったんじゃないの。

 クリアの姿がないけど目的忘れてないよね。ちっこい子供だから視えないだけだろうけど、少し不安になる。ほかのメンバーは、と目を凝らすと、バーリィさんから距離をとって一塊に外向きに陣を構えてるのが見えた。おしくらまんじゅう。あの中にいるといいな。


「はっはっは。いいますねスキレード副長! よおし反転してもう一回だ!」


 気をよくしたグロドが再度の突入を命令した。目が獰猛だ。地に酔ったのかもしれない。反転停止の隙を待って、私はぴょんと、飛び降りた。


「降りる」


 さすがわ32歳、この身が軽い。仕事なら会社の中堅で家庭ならば育児に奮闘する、心身みなぎる世代だ。柔軟体操しても筋が切れそうもない!心臓が撥ねても息が苦しくない。湧きあがるパワフルを実感して心も躍る。


 レベッカとチャーリーも後に続く。


「お三方、適当によろしくお願いします」


 そういい残してグロドは再突入をかけた。護ってくれないのね。期待はしてなかったけど。


「武装をもたない軽装馬車で突っ込んでいって大丈夫かしら。二度目はさすが待ち構えて備えてるみたいだけど」


 馬車の行く手を振り返ると、左右に分かれた王都兵が盾を構えた陣を築いてる。奇襲効果は一回だけってことか。助走もほぼないし。ため十分の的中にもかまわず馬車と騎馬が果敢に飛び込む、もやは特攻だ。炎魔法が交差し、怒号がとぶ。


「さぁてミドリ。どうなさるつもりかしら? こんなところまで連れてきて、死んだらどうするのよ。この責任はとってくれるのでしょうね?」


 はぁ?


 意味不明な寝言をしゃべる女がいた。誰が着いてきてって頼んだよ。勝手に同乗してその言い草はないよね。文句を返そうと口を開きかけると、嬉しそうに笑いを上げたチャーリーが、きらりと両手剣を構える。一応、言ってみただけらしい。


 兵の集は分断できた。倒れた敵も増加中。けど、数の上では圧倒的に不利なのは変わってない。そんあ、大小4つに分けられた部隊のひとつが、私たちに目をつける。その数はざっと30以上。たった3人、ほっといてほしかった。


「ほう? 辺境領の田舎娘か。威勢のよいことだ」

「死ににきたようだ。それとも身を散らしにか」

「生娘二人か。たまには田舎女もよかろう、後家はいらん」


 王都騎士らしき威厳だけ損なってないけど、目じりがいやらしく下がりまくる。


「ごけ?」


 意味不明の、私のボキャブラリーにはない単語だ。

 ゴケグモって蜘蛛がいることは知ってる。セアカゴケグモはオーストラリア原産で、クロゴケグモは北アメリカ原産だ。外来種の毒蜘蛛で、人間にも効くけど命に別状ないくらい弱い。”生娘二人”はわかるから比較対象的に、私への蔑称と推定できる。


「夫に先立たれた女性のことです、ミドリちゃん」

「そうよ。行かず後家って言葉もあるけどね」


 つまり、年食った女ってことだ。説明ありがと。


 敵の数人が、私たちの左右に動いた。ニヤニヤしてるヤツが多い。剣を腰に納めた騎士は、力ずくで捕まえる気まんまんだ。ここは戦場なのに、女だと思ってなめてるな。

 ポケットに手を入れたレベッカ、だらりと自然体に剣を下げるチャーリー。無防備にみえた戦闘態勢だ。


 32歳って、男性からみたら、そういう年齢なのか。65歳から若返ったおかげで、恋愛とレイプのお相手から除外された女性に昇格だ。喜んでいいかな。私も20過ぎの大人をジジババ呼ばわりしてたけど、自分がそう思われる時がくるなんてね。婆ぁと呼ばれるよりもこみ上げる怒りが激しく心が痛いのはなんでだ。傷心の涙をそっと隠して、後家とあざ笑った男らに敵意をむけた。


「ぐぉ」

「どうしたゲイル!? ヴッ」

「なんだ?」


 3人ばかり胸を押さえてしゃがみこんだ。わ、私のせいじゃないからね。「救急車、よぼうか?」スマホを探そうと内ポケットをさぐるが、あるはずがない。とにかく戦いは始まった。


「私が正面でいいかな?」

「盾は取り出さないの?」

「使うまでもないかな」


 右の髭面を目で追う。指をうごめかせるのが見えた。


「こっちは気の強そうなネエちゃんか。抗うつもりか? 大人しく従えばいきなり殺しはしない、ずぉっ!」


 すばやく、最後までしゃべらせないチャーリーが、髭を切り伏せた。一人をさばくと、身を低くし、柄に手を伸ばした次兵の足を短剣で斬って、3人目へと踏み込んだ。ピカピカの胸当ての兵が焦って回避するが遅い。通り過ぎたその1秒後、男は横腹から血を流して、信じられないという苦悩をさらし動けなくなった。


 悪いのは剣をしまったそいつらだ。子供のお遊びだと思い込む甘い心が敵になったんだ。戦場になってるってこと、忘れないでよね。


 チャーリーを背にしたレベッカが、小さく呪文を唱えるのを聞きつつ、私もぽてぽて前にいく。


「貴様ら、何者だよ」

「えーとーーーーー婚活女子?」


 この、威勢が霧散したじろぐロン毛騎士はまだ若く大学生くらいかな、後ろの使い込んだ鎧おっさんは今の私に近い30代くらいで、半分かくれてる背の低いのはニキビつくった中学生みたい。そう、ざっと値踏みしながらぼちぼち歩みを近づける。これがいつものバトルスタイルだ。

 戦士(もののふ)たちは気に入らなかったみたい。「こいつ、薄気味悪わるい」と珍獣でもみたような失礼な言葉を浴びせてきた。レベッカの氷の手榴弾、氷刃吹飛(アイスナイフブロフ)が弾ける悲鳴がしたとき、ロン毛騎士らは踊りかかってきた。


 神気搾奪(エクシーズ)衣服モードはとっくに発動。強めに力を奪っていく。例によって、ばたばた倒れる敵兵たち。静かに、無言で、うめき声もなく動かなくなるだけ。私は足を速めてジグザグに歩いていくと、敵連中が気絶し折り重なっていく。レールを敷いた歩跡オブジェだ。

 集団化してる弱みで、なにがおこってるか後ろの人には分からない。幸いにも私は背が低い。さぁ並んで。目撃した順番に奪ってあげるから。一人たりとも逃がさないよ。





 学校は生き物だといった人がいたけど、戦場もそのようだ。のんびりしすぎたつもりはないけど、戦況は常に変化していく。半分くらい倒したあたりで、前のほうが騒がしくなる。さっきまでちょこまかしてた旗が、ばっさばっさ大きく振られると、耳障りな野太い大声がうるさく響き渡った。


「撤退だーーー! 全軍ただちにひけぃー!!」


 てったい?


「王都軍が、引き上げていくわ!」

「……指揮してる人、いたんだね」

「そこですか、ミドリちゃん。21歳。もうすこしですね」


 目の前の兵らが、さささっと少なくなり、森のほうへと引き上げていく。自力で動ける兵は這っていき、少なくない軽症者は重傷者や息のある兵を引きずっていく。波が引くようにどんどんいなくなる敵兵は見物だった。あと7人で14歳だけど、無害に逃げる相手を追いすがって倒す趣味はない。獲物のなくなるのを、涙を呑んでこらえた。

 勝手気ままに戦っていたようだったような敵でも、軍は軍。王都貴族の指揮で働いていたってことだ。だったら女子への狼藉も許すなよ。


 おびただしい数の死体と私たちだけが、最後にとり残された。3人とも無事。死体があるのは、ほかの仲間付近。裁判長、私は一人も殺してません。


 立ったり動いたりしてるのは、味方とみていいか。狭い街道を外れて戦場は広かったようだ。辺境伯の騎士たちみんな無事かな。折れた大剣をすべり落とした大男、まず発見。ひっくり帰ってる馬車もみっけ。馬から降りるグロドと部下も、確認できた。半ケツで、放り出された敵の使者、見たくなかった。


 おしくらまんじゅうの人垣が解け、小さい姿が中から転がりでてきた。


「クリア!」

「ああ …………………………誰?」


 私だよ!




怪我人を治療してまわる。幸い誰一人瀕死にはいたってなく、たいした若さを失わないで済んだ。ただし、突然若返った私を、チラチラと、気味悪そうな視線が行き交う。綺麗なのか? そうなのか? 鏡が欲しい!


「敵さんはなんで、撤退したんだかな。善戦の自覚はあるんだが多勢に無勢は、易々ひっくりかえらんだろう。オレのカードの実力に恐れをなしたか?」

「それだけは、絶対に有りえないことですね。スキレードさん」


 クリアの返しに、全員がうなずく。どれだけ自信があるんだこの人。


「王都の軍と戦闘になったからには、どんな言い訳も無駄でしょう。すぐに帰還して、領地の防衛尽力するとしますか」


 清清しく笑いながらグロドが、言い放った。


「とにかく、クリアさまを取り戻せたのだけは朗報です」

「そうだろ。そうだろ? オレの手柄だ」


 踏まれて荒れた牧草地上にどっかと座ったスキレードさんが、得意そうに笑う。

 彼に同行する分隊の一人が、うめいた。


「使者に迫るより先に軍勢が迫ってきたんだ。副長が、穏やかに動ければ、戦争は起こらないはずだったんだが」

「照れる、そう褒めるな!」

「褒めてません!」


 そんな気軽なやり取りをさえぎったのはクリアだ。


「王都はそこにみえてます。奴らは、ただ引き揚げただけではないでしょう。新たな兵力の投入は明らかです。ここをすぐにも発つべきです」

「そうだな、剣も折れちまったし。行くか」


 名残り惜しそうに立ち上がった大男は、ヒュッと口笛を吹いた。馬車を引いていた大きな馬の一頭、ヒュールゲンが擦り寄ってきて葉っぱのついた頭をなめ回す。おおざっぱなくせに馬にはもてるんだね。意外だ。


「わたしたちはどうしましょう? 領地にはもどらないんですよね?」


レベッカだ。わたしたちって、そう言ったんだ。ミドリちゃんはどうします、じゃない。二人を共同体に考えてくれて、すごく嬉しい。


「王都に入って、観光がてら冒険者登録は?」

「それはないわよ。ミドリ。 王都じゃきっとお尋ね者よ。わたしたち。変装しても逮捕されるわ」

「え?」


チャーリーも来るつもり?


「なにを言いたいか、言わなくても顔に出てるわよ。着いていくにきまってるわよ。あなたといると、退屈しないもの」

「はあ。想定したまんまで、安心したような、ガッカリしたような」

「なによそれわ?」



「ええ!? みなさん、もどらないつもりですか?」

「辺境伯を見捨てるおつもりか!」


私たちの会話にひっくり返りそうなのはクリア、そしてグロド。乗りかけた馬から降りて、すいーっと寄って来る。そう言われてもねー。暗殺記憶は、まだしっかと残ってるし。


「安心して、眠れないんだよ」


横の女二人、ウソだーって驚くな。


「そいつはオレたちのせいだ。命令とはいえ、すまなかったな。これからはせめて自由に生きてくれ」

「スキレードさん、貴重な戦力を手放すのですか」

「しゃーないだろ。敵対して追い回したのはこっちだ。もしも手に掛けて殺しでもしてたら、戦力がどうとか言ってなかったろうよ。彼女たちは生き抜けた。今後の生き方まで指図、拘束するってのは、かっこ悪すぎだ」


うう。スキレードさん、カッコいい。漢の中の漢って、こういう人を指すのか。惚れてしまいそうだ。


「そういうことだ。楽しんでこその人生だぜ。じゃあな。クリア、さっさと行くぞーーーーー、ああ。。。。遅かったようだ」



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