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「碧」14歳。さきほど65歳の老婆に転生しました!  作者: 北佳凡人


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魔物の森、絶賛通過中!


 森は暗かった。まだ昼なのに暗いのは、稜線によって太陽がさえぎられため。森の一部は、夕方の時刻をまたずに夜のような闇を迎えていた。魔物にもいろいろあるそうだが、日の光が苦手な魔物ほど夜は元気になる。そして、大半の魔物は夜型らしい。


 この街道を整備するにあたっては年中通して日の届きやすいルートを選定したそうだけど、それでも森の樹木の背が高いから日は届きにくい。里に近い林業の山では枝払いして風や日光を通しやすくするものだけど、魔物の闊歩する広大な危険な原生森林にかける手間はない。深い森を通過する時間セオリーは、魔物が一息つく日の出から昼前までだそうだ。この時間の突入は無謀ってこと。


「このっ!」

「ギギャッ」

「くそっ、こいつら」

「マグ!ここはまかせて前に出ろ! ほいや、ほいやっ──!」

「グギャッ」「ムギャッ」

「わかった!」


 後続の左右から、迫る魔物に切りつける騎士の気合と、切り裂かれた魔物の悲痛な悲鳴がした。


「こんな強行、普通はしません! 一刻も早く追いつかないといけませんから。王都使者を一網打尽にしたあなたの盾防御を充てにしていたのですが、ないものは仕方ありません」


 猿のような魔物が御者台に飛びかかってきたのを剣で切り伏せながら、恨むようにグロドは言った。そんなこと言ったって私は寝てたしね。あの部屋にあったとすれば、持ってこなかったあんたらが悪い。

 グロドは進む馬車の先から目を離さず、横につけた騎士の一人を手招きする。


「マグ! 乗ってる馬はほかのやつに任せて、馬車に飛び乗れ! お前は騎乗しながらの呪文は苦手だったろう!?」

「えー?オレが魔法使うんですか? 魔物の相手は女性陣に任せるって話しでしたよね?」

「そう言うな。状況が変わった。急げ!」

「……了解です」


 マグと呼ばれた人は魔法使いで、しきりにレベッカ勧誘していた男だ。しぶしぶ、といった体で、速度を上げた馬から馬車へと器用に乗り移ってくる。私をみて肩をすくめてから、レベッカと目が合ってにんまりと相好をくずした。態度の違いに腹が立つ。


 馬車の後ろを走っていた騎馬隊が陣形を変えた。先頭にきた槍の人は、御者を交代しろといってた人。馬車の左手にはメイスを構えた人がついた。メイスとは打撃武器のこと。長さ1メートルほどの棒で先っちょは金属になってるのが標準だ。この人のメイスは球型柄で、頭に瘤やスパイクを放射状に取り付けた、俗に言うモーニングスターだ。ポエムな名称とは裏腹にエグイほど攻撃力がある。


 好みでいえば、大好きなのはトンファー。アメリカ警察にも採用されてた攻防一体の格闘武具だ。武術を習ってたおかげで武器にはちょっと詳しいのだ。


「それではわたしも、一汗かきましょうか。屋根の上に上がりますので殿方のみなさま。下からレディを見上げないでくださいね」


 チャーリーがそういうなり、きらりと腰から長めのナイフを取りだした。長めのナイフっていうより、昔の指定暴力団の映画に登場してた「だんびら」に似てる。想像した返り血を浴びるチャーリーが極道の女と重なった。身軽な調子で馬車の屋根に上がった。見上げるなと言うけど、スカートの中しっかりズボンを履いてる部活女子スタイルだ。言葉は優雅だがレディからずいぶん遠い。


「やられてばかりでうっぷんが溜ってましたの」


 ふんすって鼻息荒いうら若き女子の勇士を、誰も止めようとしないのはなぜだ。マグが女性陣にまかせると言ったように、ここでは女子だって当たり前に戦う世界だったようだと、いまさら思う。

 チャーリーが早速やったようだ。天井からトントン聞こえる彼女の足音は、軽快なバレリーナのように優雅。猿のような魔物がビギャーッと叫んで、窓の外を落下した。枝から飛び移ってきた魔物を、鍛えられたしなやかな腕を振って切りつけたのだろう。


 襲ってきてるのは木の枝を伝う猿魔物だけじゃなかった。ムササビ魔物、ふくろう魔物、触るのがためらわれるヌルヌルした爬虫類魔物などが、枝が重なりあって茂る樹海の隙間を器用に飛びはね、飛び回って、縦横無尽に遅いかかっくる。連携もなんもないけど次から次へと途切れない。


「卑しきモノを焼き尽くす聖なる火の精霊よ。我の元に来たりて邪悪なる魔物を滅し払いたまえ──炎網ファイアネット


 まとまってくる小型の敵は、マグが受け持って処理してくれた。でも呪文が長い正当魔法は小回りがきかない。接近されてから火の魔法は味方を巻き込む恐れもある。横に並んで遠方射撃のような使い方が鉄板なのがよくわかる。RPGは正しいのだ。

 攻撃の合間を何匹かがすり抜けてきた。


氷鎚(ハンマー)×5!」


 馬に飛びつこうとしたカンガルー型の魔物をレベッカの氷魔法がし止める。回避した魔物もいたが、いきなり目の前に出現する氷のハンマーに驚き、森のしげみの中へと消えてみえなくなった。「レベッカすごいよ」とほめると、まだ序の口ですと返してくる。マジかっこよくて、こっちのテンションがちょっとあがる。


「息が合うなセイラムちゃん! やっぱオレと──」

「バカマグっ、次の呪文を唱えてろ! 勧誘は禁止だ!」


 魔法使いが、場違いにうるさい。空気読め。叩きつけていいかな。


「レベッカ、ハリセンは?」

「終わってからにしてください…………来ました! 氷鎚(ハンマー)×2!」


 次の獲物を、きれいに屠った。





 前後左右では馬から守る騎士たち、屋根の上にチャーリー、御車をガードする分隊長に、隊列全体を守護するマグとレベッカ。馬車隊は高速で突っ走ってるので、初撃さえかわせればいい。逃げ切れば勝ちだから後ろから追ってくる魔物は怖くない。急造チームとは思えない攻守のバランスが冴える。魔物を蹴散らしながら、ずんずん、馬車は森を突き進んでいった。


 傍らでみるRPGほどつまらないものはない。これはゲームじゃないのは分かるけど、胸が熱くなってくる。なにもできない自分が、とても腹立たしくてイライラしてくるんだ。

 期待が裏切られ、希望とか展望を見失って、落ち込んで、ちょっと無気力になってたけど、何もできないというのは違う。怒りが長続きしないほうだけど、無気力タイムも短いみたいだ。意外と私、なにかしてないと落ち着かないタイプなのかも。

 新しい自分を発見した気分に、目の前がパァッと明るくなっていく。


 私の目的はなに?

 決まってる。14歳に戻ることだっ!


 よしっ!


「私もなにか──」

「みどりちゃんは、なにもしないでください!」


 そんなあ。


 レベッカに役立たず宣言されてしまった。やっとちょっとだけやる気になったのに、小さな気合は5秒で撃沈された。これが一刀両断というやつか!


「ハッ! ミドリねぇ。わかってると思うけど、この密着状況で、アレをやられたら、全滅するに、きまってるわよ。フッ! よないなことは、しないでほしいわね──」


 チャーリーの声が頭上から振ってきた。”アレ”とは神気搾奪(エクシーズ)を指してのことで、ほかに思い当たらない。触れた生き物のエネルギーを無作為に奪う攻撃は、チーム戦にふさわしくないというか邪魔になる。あれは、私が前線にでてこそ生きる魔法なんだ。フラットレンジモードなら使えそうだけど、場車内で発動すれば、魔物ごとパーティが犠牲になる。あまりにも使えない自分が情けない。


 こうなったら、こうなったら……ウィロアムにもらった手紙でも読んでようかと真剣に考える。マグがあきれた目を向けてきたが、何かしてないと滅入ってくるんだよ。手紙を開いて、とんでもないことに気づいた。


「…………よ、読めない」


 この世界の文字は分からないんだった。マグとレベッカの半目が私を責めてくる。

 評価だだ下がりだよぉ。うう。


「ふぅ、まったくしつこい魔物たちだわね。むんっ、はぅはぁ……」


 チャーリーの息が荒さが上から伝わってくる。動きっぱなしだ。屋根を踏むステップが重くなってきてる。怪我をしてないとしても体力は削られてるはずで、それはチャーリーだけのことじゃない。中で魔法を使うレベッカの顔色が明らかに悪い。分隊長も、ほかも騎士もみんなだ。


「分隊長、ブラガーヌたちの足が乱れてきてる。さすがに、これは走らせすぎだ」

「わかってる、だが今止まるわけには、いかん」


 御車のコビーの嘆きを却下する分隊長。時間がすすむほど闇はどんどん深くなっていき、比例して魔物はどんどん増え、大型化、凶暴化していくように感じられた。上にある細い隙間の空には月が出て、気の早い星がちらちらしはじめてる。完全な夜はすぐそこだ。


「どれくらい進んだかなグロドさん。あと、どれくらいで森を抜けるの?」

「半分はきたと、思いたいですがっ、ぐっ!」


 誰もが疲れてる。私以外のみんなが。立ち止まって一人で立ち向かえるなら力を奪える私は無敵だ。それこそ、森の魔物を根絶やしにできるほど。だけどそれはこのチームの全滅を意味してる。彼らを守っているのは移動速度だけ。馬車が止まったとき、その唯一の防御手段は潰えてしまい魔物によって命が食い散らかされる。馬がいつまで持ちこたえられるか。彼らの体力がいつまで持つか。それまでに森を抜けられるのか。時間との戦いになった。


「悪いですが、オレ抜けです」

「どうしたマグ、…………魔素か」

「はい、魔力切れで、だるいです。すみません……」


 弱っ、唯一の大砲が抜けた! レベッカは踏ん張ってるのにだらしない。

 ひとり使いモノにならなくなればぎりぎり保たれてたバランスが崩壊。他の負担が増してしまった。前方で払いのけてるキャバリーランスの人と、屋根で立ち向かってるチャーリーの疲労がとくにむごい。もうあと何分もつか、分からない。


 休息をとるべきなんだけど、できない。

 せめて、せめて、体力を回復できれば…………あれ?



 私は、ぽんと手を叩いた。



「あ……忘れてたわ」



マジ、忘れてたわ。

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